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2007年夏 - 奥秩父・一之瀬川大常木谷


2007年6月23日(土)〜24日(日)
場所
山梨県北都留郡丹波山村/奥秩父
ルート
6月23日
府中本町=入渓点…千苦ノ滝…早川淵…会所小屋跡…シナノキノタル…竜喰谷井戸沢徒渉点(泊)
6月24日
竜喰谷…ムジナノ巣…三之瀬…入渓点=大菩薩の湯=府中本町駅(解散)
参加者
H、K、中山
参考文献
07奥秩父・一之瀬川大常木谷の地図

↑この地図は、国土地理院発行の2万5千分の1地形図(雁坂峠、柳沢峠)を使用したものである。


はじめに

 大常木谷は多摩川流域の沢で丹波川一之瀬川の谷の一つ。山域としては奥秩父で、源流は奥秩父主稜線の大常木山である。なお大常木山は将監峠〜飛竜山の間にあり、登山道はない。

 ガイドブックによれば「多摩川源流域を代表する美渓で豊かな森林帯に包まれた深山幽谷の谷である」(東京周辺の沢)となかなか興味をそそられる谷である。なおレベルとしては2級(東京周辺の沢)ないし上級(奥多摩大菩薩高尾の谷123ルート)である。

 この一之瀬川流域の谷は大常木谷、竜喰谷など興味のある谷があったのだが、交通の便が悪く去年まで入渓したことがなかった。しかし先月5月、大学の後輩が竜喰谷に登るのに便乗して私も連れて行ってもらった。深い谷だが難しいところもなく、充実した遡行だった。

 続けて6月のはじめ頃、Hさんから奥秩父の大常木谷に誘われた。あまり行けない谷なので、すぐ行くことを決める。懸念の交通機関についてはKさんが車を出してくれたので問題なく行くことができた。

1日目

2007年6月23日(土) 晴れ

府中本町=入渓点…千苦ノ滝…早川淵…会所小屋跡…シナノキノタル…竜喰谷井戸沢徒渉点(泊)

コースタイム
一之瀬林道9:50
一之瀬川河床10:00
10:23
大常木谷出合10:30
五間ノ滝10:50
千苦ノ滝巻き11:10
11:40
早川淵11:52
早川淵上12:10
12:20
不動ノ滝13:00
会所小屋跡13:55
14:30
シナノキノタル15:10
竜喰谷井戸沢
渡渉点
16:12
21:30

 朝、立川駅に向かう。が、誰もいない。Hさんから電話がかかってくる。曰く「集合場所は府中本町だよ」と。最近の山行で立川出発が多かったのでちゃんと確認せずに立川に来てしまった。計画書通り府中本町に向かう。おかげで出発が30分遅れてしまった。

 中央道経由で一之瀬林道へ。大常木谷入渓点の少し上流で車を止め出発準備。少し下って大常木谷入渓点。大常木谷の入渓点は少し分かりにくい。入口にそれを示すものもなく、林道が一之瀬川よりだいぶ高いところを走っているので、現在地が大常木谷出合の上流か下流かも分かりにくい。Kさんが一之瀬川上流側、私が下流側を探し、下降点を見つけられた。場所はカーブミラーのある小尾根のところで、植物採集を禁じる看板のあるところである。小尾根は一之瀬川右岸から左岸モリ尾根に向かって鋭く伸びている尾根である。

 そこから踏み跡が小尾根に沿って下っている。踏み跡はしっかりしていて注意すれば滑り落ちるところはない。ザイルを出す必要もない。一之瀬川の河床にたどり着いて入渓準備をする。

一之瀬川本流
6/23 一之瀬川本流へ下降。踏み跡はしっかりしている。
大常木谷出合
6/23 大常木谷出合

 ここから一之瀬川に沿って500mほど下り、大常木谷出合に向かう。この間、一之瀬川に滝や淵などはなく10分ほどで簡単に大常木谷出合に着く。途中釣り人がひとりいた。

 なかなか現れないと思いながら歩いて行くと大常木谷出合に出た。大常木谷は何だか薄暗く流量も少ない。すぐ左に曲がっていてこの先どんな谷なのか分からない。ただナメ床から始まっていてそこは気持ちがいい。

 大常木谷に入っていくとしばらくはただの河原。沢が右に曲がったところで3mほどの滝。水流の右を登る。続いて5mナメ状滝。胸まで淵に沈んで取り付く。倒木が3本立っているので取り付きは容易。傾斜が緩いので滝を登るのも容易。KさんとHさんは濡れるのを避けるために右から巻いていた。

五間ノ滝
6/23 五間ノ滝。
五間ノ滝
6/23 五間ノ滝を登るKさん。意外にやさしい。

 5mナメ状滝の上、左に曲がると8m五間ノ滝。地形図にも載っている滝である。壁は黒い岩で一見すると登れそうにない。Kさんが右から取り付き、簡単そうに登る。続いて私も取り付くが、実際登ってみると大して難しくなかった。上の方には残置ロープがあった。登ると右手薬指と中指の先がかじかんでいる。凍傷の名残のようだ。

廊下
6/23 五間ノ滝の上の廊下。
栗山
6/23 へつるKさん(左)、泳ぐHさん(右)。

 五間ノ滝の上は廊下状になっている。KさんとHさんはすぐ左をへつっていたが、私は真ん中を通った。真ん中でも深さは腹くらいだった。廊下状の先、右に曲がるところに5mほどの2段滝。その上がナメ。

 しばらく小滝をかけながら登る。五間ノ滝から10分くらいのあたりに淵があり、Hさんと私は泳いだ。Kさんは頑固として左岸を巻いた。

 1030mあたり、谷を左に曲がるところで千苦ノ滝。落差25mと大常木谷で一番大きい滝だ。上の方は吹き上げ、両側の壁が覆いかぶさるようにそそり立っているので迫力満点だ。私は巻く気満々で左岸の巻き道の入口の様子を見ていたのだが、Kさんが滝の左下に立ってじっと上を眺めている。「巻き道ありますよ」と向こうに叫んだが、聞こえないようだ。Kさんの方へ移動する。

千苦ノ滝
6/23 千苦ノ滝。
千苦ノ滝左壁
6/23 Kさんが登るかどうか悩んだ千苦ノ滝左壁。

 「ザイル出して」とKさんの声。えー、ここ登るの?登れるの?といぶかしがりながらザイルを出す。その間、Kさんは「東京周辺の沢」(旧版)のコピーを見ていた。ザイルの結び目をほどいてザイルをほぐそうとしたとき、Kさんが「うーん」と言い出したのでその手を止める。千苦ノ滝が難しいだけでなく、この上に10mの斜瀑があり、それも難しいようだ。結局巻くことにする。私は登らなくて済んだとほっとしていた。なお、10m斜瀑の話は「東京周辺の沢」(旧版)にしか載っていないようだ。

 千苦ノ滝を左岸から巻く。下流へ戻るように登っていき、木の根っこの出た斜面を直上。そこから上流へトラバース。途中、下るところで道が見つからず、懸垂下降を考える。ちょうど残置シュリンゲが木にかかっており、過去に誰かが懸垂下降しているようだ。その木の根元まで登り、ザックからザイルを出す。さてほぐすか、という段になって下から「下りられた」というKさんの声。少し下流側から下れたようだ。ザイルをしまい、そこから下る。その先は残置ロープのあるトラバースで10m斜瀑の上に出た。総じて道はあるが、とぎれとぎれであった。

巻き
6/23 千苦ノ滝の左岸巻き。
山女魚淵
6/23 山女魚淵。真ん中の倒木を伝って登るか、右手を泳ぐか。

 千苦ノ滝からはしばらく平和な沢を行く。滝もない。のんびり歩く。

 千苦ノ滝から20分ほどで山女魚淵。滝は1mほどで低いのだが、足がつかないくらい深い。真ん中に滝まで倒木があるのでKさんがそこからトライするが戻ってくる。私が右から泳いで取り付く。残置シュリンゲをつかみ、水中をへつって登れた。Kさんが今度は私のルートで泳ごうとするが、足がつかず諦める。再度倒木にとりつき、今度は倒木をまたいで少しずつ移動し、滝の上まで登った。Hさんも倒木ルートで登った。あとでKさんの「東京周辺の沢」旧版と私の新版を比べてみると、旧版は腰まで、新版は胸まで、今回は足付かない(中山ルート)とだんだん深くなっているようだ。

 最初の淵を皮切りにゴルジュ帯が続く。次の2mほどの滝でもKさんは倒木を頼りに進もうとするが、またごうとした瞬間、落ちた。水流ですべすべに磨かれているようだ。Kさんはまたいで、Hさんは倒木を綱渡りして、私は下から倒木につかまりながら突破した。もう一つ倒木のある2m滝を越える。

Kさん
6/23 倒木をまたぐKさん。
早川淵
6/23 早川淵(たぶん)。左側から歩いて行けるから違うかもしれない。

 その先で早川淵(たぶん)。細長い廊下で右側が深い淵、左側が巻ける。ガイドには「倒木がある」とあったが倒木に気がつかなかったので違うかもしれない。その上で一本とる。日差しがあり、日光を浴びると暖かい。天気予報は雨だったが、今日の天気は晴れであった。ウエストポーチに入れていた遡行図のコピーがすっかり濡れたので石の上で干す。休んだ場所のすぐ下にシカの骨があり、驚いた。

 ゴルジュを抜けたあと、10分くらいで深い釜をたたえた3mほどの滝。左から巻く。その先、谷が右に曲がるところで左側に大きなザレの斜面がある。

 ザレから10分で5mほどの滝。淵が深い。私が最初に取り付き、残置シュリンゲにつかまるがスタンスがなく、登れない。次にKさんが挑戦。シュリンゲを思い切り引っ張り、左手をガバホールドに乗せ、登りきった。私が続いて登ったがKさんがシュリンゲを伸ばしてくれなければ登れなかった。

5mほどの滝
6/23 5mほどの滝。登るのが難しい。
不動ノ滝
6/23 不動ノ滝。左から巻き、懸垂下降で戻る。たぶん右から巻いた方が楽。

 そこから3分ほどで不動ノ滝。2段の滝が構えている。下段は左側から登る。滑りそうで怖い。上段は登るのが難しそうだ。左の階段状の壁から巻く。しかし下降点が見つからず、懸垂下降する。結局ザイルを使ったのはこの懸垂下降のみであった。それも右から巻けば懸垂下降の必要はない。

 不動ノ滝から先は難しいところはない。傾斜の緩いナメ滝を5つ越えると広い河原。滝もなく平凡だ。途中で70リットルほどの青いポリバケツを見つける。何のためだろう。

 木の生えた広い河原だったため、御岳沢に気がつかないまま会所小屋跡に着く。右岸に石垣があり、その上がテント5張りほどできる台地になっている。また沢にはピンクテープがぶら下がっているので大常木林道と分かる。ここで一本。

 私は計画書通り、今日はここで泊まるのかと思いテントを出したが、下りが長いので先を進むそうだ。この先、大常木谷を遡行するか、遡行を切り上げ大常木林道経由で三之瀬に下るか話し合う。大常木林道は道があるようなないようなではっきりしない。途中で道が流されていたりヤブに覆われてしまっていそうだ。一方、大常木谷は奥秩父主稜線縦走路まで1:30~2:30と時間がかかるようだ。結局、大常木林道経由で下ることにした。理由は「沢にあれだけピンクテープが張られて、下にポリバケツまであるということは大常木林道に人が入っている証拠」である。

会所小屋跡
6/23 会所小屋跡。小屋跡だけあって広い。
大常木林道
6/23 大常木林道の会所小屋跡〜シナノキノタル間。意外に整備されている。

 沢装備を解除し、少し休む。もっと苦戦するかと思っていたが、車を出てから4時間と意外に早く着いた。ただこの先、大常木林道の様子が分からないのでその点は不安だ。ここで地べたに尻を付けて休もうとしたら他の人に「石の上に座れば」と言われた。続けて「中山は尻が汚いからテントの中に入れられないなあ」と言われてしまった。山だとところかまわず座ってしまうたちなので無意識に地べたに座ってしまう。

 大常木林道を三之瀬までたどる。大常木谷右岸、斜面を下流側に向かってトラバース。ザラザラの斜面なので滑りやすい。慎重にトラバースしていくと途中で赤い毒々しいキノコを見つけた。枝沢を一つ渡ってカンバ谷左岸に出る。そのあたりで先頭を歩いていたHさんから黄色い声が。サルと鉢合わせしたそうだ。

 カンバ谷左岸の道は急な登り。モリ尾根鞍部のシナノキノタルまで登りが続く。幸い枝沢に架かる橋はほとんどが新しいもので安心して登れた。

 シナノキノタルは平坦だがテントを張るほどのスペースはない。看板も展望もない。ただ東京都水道局の林班界標が「48|45」と示しているだけだ。

 シナノキノタルからは竜喰谷左岸を水平に巻いていく。途中北側が開けて見えるところがあるが、将監峠が遠くに見えた。竜喰谷1370mの枝沢と交差するところで一本とる。大常木谷は懸念していたほど危なくもない。

シナノキノタル
6/23 シナノキノタルに出るところ。
竜喰谷井戸沢
6/23 竜喰谷井戸沢徒渉点に幕営。

 その先の崩壊地も石垣で渡れるようになっており、沢にはブルーシートもあって人が入っているのが分かる。その先で1531m標高点の北のコルを乗り越し、しばらくで竜喰谷井戸沢に出た。竜喰谷はこのあたりで楯の沢を分けて井戸沢という名前がついている。ひと月前、竜喰谷の遡行を切り上げたところでもある。

 この竜喰谷を渡るところで幕営。竜喰谷の左岸の道が少し広くなったあたりにテントを張った。たき火がなかなか起こせなかったが、Kさんの努力の末、火がついた。この日は雨に降られることもなく、夜は月も見えた。

2日目

2007年6月24日(日) くもりのち雨

竜喰谷…ムジナノ巣…三之瀬…入渓点=大菩薩の湯=府中本町駅

コースタイム
竜喰谷6:30起床
8:00
ムジナノ巣8:22
三之瀬集落8:55
入渓点9:41

 この日は下るだけ。ムジナノ巣を経由して三之瀬に下る。テントたたんで8:00に出発。

 竜喰谷(井戸沢)を渡り、楯ノ沢を渡ってコルに出る。少し下って分岐。左が中ノ平沢経由二之瀬まで、右がムジナノ巣経由三之瀬まで。ひと月前に竜喰谷を登ったときは左の中ノ平沢ルートをとったので、ムジナノ巣ルートをとらせてもらう。

 途中美しいナメ沢を渡り、分岐から10分でムジナノ巣。ここからは轍のある将監峠みちを下る。途中途中で仕事道を分けながら三之瀬集落に到着。三之瀬からアスファルト道。一之瀬高原をのんびり下って入渓点に戻った。結局、分岐からムジナノ巣経由でも中ノ平沢経由でも二ノ瀬まで1時間30分と同タイムであった。

 大菩薩の湯に立ち寄って来た道を帰る。帰りの車では雨に降られ、ちょうどよいタイミングで下山したのが分かった。大菩薩の湯でHさんがダニに吸われていたことが分かり、Kさんと私もどこかにダニがくっついているのではないかと不安になった。

おわりに

 下流隣で似た名前の小常木谷(2005年遡行)が難しかったので、「大」の付く大常木谷はもっと難しいかと思っていた。しかし、実際にはザイルは1回、しかも懸垂下降でしか使わず、易しい谷であった。登れる滝が多く、ところどころ泳ぐところもあり、充実した谷であった。また帰りの大常木林道も地図に載っていない割にしっかりした道でたどりやすかった。「中級以上の人に一度は入谷してもらいたい」という「東京周辺の沢」の記述通り人にお勧めしたい谷であった。

(2007年6月24日記す)


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