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2009年秋 - 北アルプス・剱岳早月尾根


2009年10月31日(土)〜11月2日(月)
場所
富山県中新川郡上市町
ルート
10月30日
新宿=夜行バス(泊)
10月31日
富山=上市駅=馬場島…早月小屋(泊)
11月1日
早月小屋…剱岳…早月小屋…馬場島(泊)
11月2日
馬場島=上市駅
参加者
中山、K、Y
参考文献

はじめに

 今年の年末の山行が剱岳早月尾根になり、偵察山行を行なった。

 2カ月ぶりの剱岳だが前回の岩登りとは目的もルートもまったく異なり、季節も晩夏から晩秋へと変わり、まったく違った剱岳を楽しむことができた。

 剱岳早月尾根は剱岳西面に伸びる尾根であり、白萩川と立山川にはさまれている。起点の馬場島から剱岳山頂までは6.9km、標高差は2240mに及ぶ。途中に季節営業の早月小屋があるが、水場はない。2600m付近を越えると剱岳らしく岩場が増え、鎖伝いに池ノ谷側を巻く道になる。最後に別山尾根と合流し、そこからわずかで剱岳本峰である。室堂から登る別山尾根のルートに比べ、距離、標高差が大きく、またタクシーしか入らないため交通の便が悪いルートである。しかし冬季には立山黒部アルペンルートが閉鎖されるため、もっとも人気の高いルートとなる。

0日目

2009年10月30日(金) 

新宿=夜行バス(泊)

 22時新宿安田生命前集合。地下道を出たところでYさんに出会う。Yさんから「バスで行くと1日で早月小屋には着けないんじゃないかな」と言われ、出ばなをくじかれる。今回は私がリーダーを務めるのだが、早月尾根は初めてだし、この季節どのくらい雪が着いているのか分からず、とりあえず早月小屋までにしてあった。うーん、不安だ。

 集合時刻になり、申し込んだオリオンバスの人に受け付けてもらう。ちなみに新宿から富山まで休前日で5,500円。バスは東京を経由して富山へ向かった。途中、関越道高坂SAでトイレに起きた以外はずっと寝ていた。

1日目

2009年10月31日(土) 快晴

富山=上市駅=馬場島…早月小屋(泊)

コースタイム
馬場島8:01
8:22
早月尾根
1260m
9:50
10:10
早月尾根
1725m
11:20
11:35
早月尾根
1920.7m三角点峰
11:57
早月尾根
2000m避難小屋跡
12:12
早月尾根
2050m池
12:33
12:50
早月小屋13:20
19:30就寝

 6時過ぎに富山駅到着。Yさんは狭くて眠れなかったと言っていた。富山地方鉄道に乗り換え、上市へ。

 上市駅で予約しておいた旭タクシーに乗り込む。運転手さんが「もし馬場島に戻ってくるなら荷物を預かりましょうか」というので荷物を預かってもらう。少しでも荷物を減らすため、サンダルからプラスチックブーツに履き替えてタクシーに乗る。上市には旭タクシーと上市交通の2つのタクシー会社がある。荷物を預かるのは帰りに旭タクシーを使ってもらう確実な作戦だ。登山者にとっても荷物を預けるコインロッカー代を取られなくてすむという利点がある。荷物を預かる運転手さんにしたたかさを感じた。

 まだ頭が起ききっていない私はタクシーの前の席に座り、熟睡。やがて馬場島に着いた。タクシー料金は8,300円。馬場島には2台しか自家用車がなく、昨年5月の連休に来たときよりずっと少ない。登山届を届け入れに入れるとき、一番上の登山届を見たら龍谷大であった。私たちと同様年末の偵察だろうか。小屋の入口にかけてある温度計によると気温は13℃。あたたかい。

馬場島
10/31 馬場島到着。駐車場から剱岳を望む。快晴。
松尾平
10/31 紅葉の松尾平を歩く。

 紅葉の美しい道を行くと社があって、その横が早月尾根の取付になる。取付からいきなりの急登で驚く。歩き始めなのでキツい。しかし100mほど登ると松尾平に出る。平坦なところで先ほどの急登は何だったのかと思う。傾斜が緩い分、まわりを見渡す余裕があり、一面の紅葉に陶酔する。途中、湿地帯もあり、カエルもいた。ベンチのある広いところがあり、標高1000mという看板があった。これ以降、標高が200m上がるごとに看板があり、登るのに指標になる。松尾奥ノ平を過ぎるとまた急登となり、ヤセ尾根を登る。尾根にはところどころ立派な立山杉が生えており、道もそのすぐそばを通ったり、根を乗り越えたりするところが多い。立山杉のそばで一本。立山川をはさんで対岸に奥大日岳から伸びるクズバ山が見え、白萩川をはさんで対岸に赤谷尾根が見えた。

立山杉
10/31 立派な立山杉。
三角点峰
10/31 1920.7m三角点峰。奥に小窓尾根マッチ箱が見える。

 1551m標高点を過ぎて一本取り、1920.7m三角点峰まで登ると急登は一段落する。割となだらかな道を歩いて行くと2000m避難小屋跡。いまではブロックが1つ置いてあるだけで小屋の痕跡は見当たらない。標高2000mを過ぎると道沿いに雪が出てくる。まわりにも雪の重みで弧を描いて天を目指す木が多い。樹高も下がってくるので遠くに剱岳本峰が見えた。まだ遠そうだ。日帰りの単独行が2人下ってくるのに会った。どうもどちらも山頂まで行ったわけではなく、途中までで下ってきたようだ。

避難小屋跡
10/31 2000m避難小屋跡。アルペンガイドによれば昭和56年に大雪で倒壊したそうだが、いまやブロックが一つ置いてあるだけで形跡はほとんどない。
看板
10/31 標高200mを登るごとに看板があり、位置を確かめながら歩ける。

 池が2つ連なった平坦なところで一本。日陰は寒いが、日なたは日差しが強く暖かい。天気予報によれば明日は低気圧がやってくるとのことなので、この快晴がもったいない。池には薄く氷が張っており、道には雪が積もっていた。池から花崗岩の急な道を登り、2224m峰に到達すると一気に視界は開ける。正面に早月尾根のさらなる高みが現れ、その上に白い剱岳本峰が顔を出している。左には小窓尾根、右には奥大日岳、振り返れば白萩川と立山川が馬場島で合流しているようすがみえる。

池2つ
10/31 標高2050m付近、池が2つ連なった平坦なところを歩く。
2224m峰
10/31 2224m峰に到達すると一気に視界は開ける。正面に早月尾根上部、右に早月小屋。

 ゆるく下ると早月小屋。早月小屋は小屋じまいしており、入口はブルーシートで閉じられていた。すでに龍谷大がテントを張り、天気が崩れる前に今日中に偵察をすませるようだ。私たちはさらに上で幕営するか、ここで幕営するか相談するが、明日早く起きて早く偵察をすませればよいということで早月小屋で幕営することにした。

 小屋には水はないが、小屋の前に屋根から落ちた雪がたまっていたのでそれを融かして飲み水とした。テントに入ると暑いのでそとで飯の支度。16時を過ぎると日が陰ってきて寒い。天気図を描くと低気圧が朝鮮半島にあり、天気予報によれば明日昼過ぎから雨だそうだ。

早月小屋
10/31 小屋はすでに閉まっていた。小屋の前に幕営。雪を溶かして飲み水にする。
室堂乗越
10/31 夕暮れどき赤く染まった木々の向こうに室堂乗越。

 日が傾き木々がうす赤く色づく。西の谷にはうっすらと霧が沈んでいた。遠くの山ほどかすんで見え、地平線は見えず、薄い雲が地平線を覆っていた。日が沈むと月が明るい。西には富山平野の灯りが広がっていた。テントでキムチ鍋を食べていると、となりの小屋脇に置いてあるドラム缶がときどきベコンと鳴り、みんな驚いた。気圧の変化だろうか。夜は東大谷に風が強く吹いていたが、テントに風が当たることはなかった。

2日目

2009年11月1日(日) 晴れ

早月小屋…剱岳…早月小屋…馬場島(泊)

コースタイム
早月小屋3:00起床
4:48
早月尾根
2500m
5:54
6:11
早月尾根
2925m
8:30
8:40
剱岳本峰9:00
早月尾根
2570m
10:28
10:58
早月小屋11:38
12:20
馬場島15:00
19:45就寝

 3時起床。外はまだ真っ暗。東に北斗七星、西にオリオン座が見える。ヘッドランプを付けて歩き始める。小屋の横を越えて急登を行く。目の前の2470m峰を登りきるころに夜があけてきた。天気は晴れだが、あちらこちらに雲が見える。東大谷をはさんで奥大日岳、室堂乗越をはさんで奥には天狗平が見えた。2470m峰から少し下って登り返し、2500m付近まで来るとだいぶ雪が多くなってくるのでアイゼンを履き、ハーネスを装備する。東大谷側から風が吹き上げ、池ノ谷側で休む。

2500m付近
11/1 2500m付近でアイゼンを履く。
2614m峰
11/1 2614m峰付近。なだらかな斜面を行く。ここにはもう人の足跡はなかった。

 2500mからひとしきり登ると2614m峰。2614m峰のあたりは平坦で池ノ谷側のなだらかな斜面をトラバースする。このあたりで足跡がなくなるので、昨日日帰りで登っていた人や龍谷大はこのあたりで引き返したのだろう。人の足跡の替わりにウサギかカモシカの足跡があちこちにならんでいた。

早月尾根
11/1 森林限界を越えて雪の道を行く。朝日に照らされた雲が炎のようだ。
剱御前
11/1 左に剱御前、奥に天狗平、右に雲をかぶった奥大日岳。いまいちな天気。

 このあたりが森林限界で、ここから雪と岩の厳しい登りになる。正面に見える剱岳はどこから登るのか分からない。夏道は稜線の池ノ谷側を巻きながら登っている。池ノ谷側は雪が着いているがさほど多くないので夏道に沿って登る。2800mまで登ると池ノ谷側から小尾根を合わせる。下りで迷わないようにしたい。

小窓尾根
11/1 小窓尾根を背に稜線へ登る。
雪
11/1 雪と岩、わずかのハイマツ。

 シシ頭が近いはずだが、どれだかよく分からない。雪が積もって道を示す丸印を探しながら歩く。鎖場が意外なところにあって岩場のトラバースに導かれたりする。かなり鎖場は多く、おかげで鎖場を探すことで道が見つかった。しかし年末には雪が多くてトラバースできず、直登になるだろう。この時期でもすでに吹きだまっているところがあり、腰ほどの深さの雪を崩しながら登る。

早月尾根
11/1 池ノ谷側から小尾根を合わせると山頂も近いが、道もいよいよ厳しい。
シシ頭
11/1 シシ頭付近の鎖場を通過。

 池ノ谷側を直登し、東大谷側に出る直前の岩のかげで一本取る。東大谷側は強い風が吹いており、稜線に出ると寒い。メガネもくもって歩きにくい。腹は減っているのでいくらでも食べる。ひとしきり休んでまた歩き始める。

 東大谷側に出て少し歩くと傾斜がだいぶなだらかになって別山尾根との合流点に出た。合流点には十字形のトンボが立っており、分岐を示していた。そこからしばらくなだらかな稜線を行くが、メガネがくもり、南風が強くふらふらしながら歩く。やがて正面に山頂の社が見えてきた。社に出て裏側に回ると剱岳山頂の社の正面であった。ここで記念撮影。まわりはガスで何も見えない。風も吹いているのであまり心地よくない。早々に山頂を立ち去る。

別山尾根合流点
11/1 別山尾根合流点へひと登り。けっこう雪が多い。
剱岳本峰
11/1 剱岳本峰。ほこらを背景に登頂写真。

 風は強いし、メガネはくもるしで帰りの道で前向きに転倒し、Yさんに心配される。ときどきメガネをふきながら下る。別山尾根と分かれて早月尾根を下る。帰りはトレースがついているので割と容易に下れる。でも風に吹かれて滑落しそうになったり、気が抜けない。下ってくると日が昇ってきたからか雪がゆるんでいてアイゼンにくっついてだんごになってしまう。ピッケルでアイゼンに着いた雪を落としながら下る。Kさんは2回誤ってピッケルをむこうずねを打ってしまったそうだ。

剱岳本峰
11/1 剱岳本峰から下る。まわりはガス。
雷鳥
11/1 下りで見かけた雷鳥のつがい。

 下りでは羽がだいぶ白く生え変わった雷鳥のつがいを見ることができた。羽の白い雷鳥を見るのは初めてだったのでうれしかった。

早月尾根
11/1 2614m峰付近で剱岳本峰を振り返る。本峰は雲がかかって見えない。
小窓尾根
11/1 早月尾根から池ノ谷をはさんで小窓尾根。

 2614m峰まで戻るとガスもとれ、風もやみ、稜線もなだらかになる。ここで一本。この2614m峰は日差しがあり、暑かった。振り返って剱岳を眺望するが、山頂にはまだガスがかかり、西から東に強い風が吹き、煙突の煙のようにガスがたなびいていた。長く休んでいたがなかなかガスはとれない。山頂には黒い岩と青い雪しか見えず、ガスが高速で移動しており、まるでヒマラヤのようであった。

剱岳
11/1 山頂を越えるガスがたなびいている。
剱岳
11/1 2470m峰の下りから剱岳。雲がとれた。

 このあとはだんだん雪も減ってきてアイゼンにべっとり雪が着くこともなくなり、歩きやすくなる。順調に早月小屋に戻ることができた。早月小屋にいた龍谷大のテントはすでになかった。昨日の偵察で十分と判断したのだろう。早月小屋についたのは11:38。早月小屋に張ったテントにもう1泊するか、馬場島まで下るか悩ましいタイミングだ。今は雨が降っていないが、発達中の低気圧が近づいており、今日昼過ぎから雨と聞いているので私は下山を主張した。明日朝雨の中テントをたたんで雨の中下るより、今日雨が降る前にテントを回収して下っている途中に雨に降られる方がましだろうと思ったからだ。どちらにも決め手に欠けたため、私の主張が優先されて下山することになった。早くテントをたたみ、重くなったザックを背負って下る。

早月小屋
11/1 早月小屋が見えてきた。
馬場島
11/1 馬場島に着くころには本降りの雨。

 早月小屋の手前の2224m峰には日帰りの単独行の人がやってきており、下る途中で追い抜いた。追い抜いてしばらくの13:25、雨が降り始めた。雨は強くはないが、粒の大きい濡れる雨だ。うんざりするような長い下りののち、立山杉の坂に出て雨が強くなってきたのでカッパを着る。ザックに入れたアイゼンの位置が悪いらしく腰に堅いものが当たるのでタオルを腰にあてて下った。

 松尾平では土のうに土を詰めて登山道を補修している人に現在入山している人を確認された。たぶん馬場島の小屋の人なのだろう。紅葉の松尾平を下り、最後にまた急な坂を下ると馬場島に下りた。15時に馬場島に着くころには本降りでだいぶ濡れていた。でも気温は高く寒くはない。馬場島荘の温度計は14℃を指していた。

 県警の小屋の下がちょうど雨を避けられるようになっていたのでここで幕営。雨の音をさかなに酒を飲んだ。馬場島は夜も灯りが照っていて明るかったが、今日は朝5時から歩き始めて15時に下山。10時間の行動で疲れていてよく眠れた。

3日目

2009年11月2日(月) くもり

馬場島=上市駅

 朝6時にどこからかチャイムの音色が聞こえてきて起床。外は明るく、くもりだったがだんだんとガスがとれてきた。昨日雨の中下ったのは失敗だったのだろうか。前日の豚汁の残りを温め、朝飯とする。タクシーを待つ間、馬場島荘内の剱岳の模型や写真を見て過ごす。小屋の人曰く、カニのハサミは壊れてなくなってしまったらしい。8時半過ぎにやってきたタクシーに乗り、上市へ下山。帰りのタクシーは7,460円。

 上市に朝から営業している風呂はなく、富山へ出るが富山にも朝から営業している風呂はなかった。富山で解散し、私は母の実家のある高岡へ寄ってから翌日夜行バスで帰京した。

おわりに

 初めての早月尾根であったが、雪がありそこそこ厳しい山であった。

 私が行った11月初めの山のようすは以下の通りである。松尾平は紅葉真っ盛り、2000mから雪が出てきて、2614m峰付近からアイゼンが必要、2800m付近から鎖場が出てきて雪も多かった。

 早月小屋は小屋じまいしており、水場はなかったので小屋の前の雪を溶かして飲み水とした。

 早月尾根を登ってみて甲斐駒ケ岳の黒戸尾根に似ていると思った。標高差が2200m、延長が7kmほど、山頂の高さは剱岳が2999m、甲斐駒ケ岳が2967m、といった具合である。剱岳は岩場もあるし、雪も深いし、もし剱岳が東京の近くにあればもっとたくさんの人が訪れるだろうと思う。

(2009年11月7日記す)


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