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2009年夏 - 北アルプス・剱岳八ツ峰VI峰Cフェース劒稜会ルート


2009年9月2日(水)〜6日(日)
場所
富山県中新川郡立山町・上市町
ルート
9月1日
立川=扇沢(泊)
9月2日
扇沢=黒部ダム…内蔵助平…ハシゴ谷乗越…真砂沢ロッジ(泊)
9月3日
真砂沢ロッジ…長次郎谷…熊ノ岩…八ツ峰VI峰Cフェース劒稜会ルート…熊ノ岩(泊)
9月4日
熊ノ岩…長次郎谷左俣…長次郎コル…剱岳本峰…熊ノ岩…八ツ峰VI峰Aフェース魚津高ルート…熊ノ岩(泊)
9月5日
熊ノ岩…長次郎谷右俣…池ノ谷乗越…池ノ谷ガリー…三ノ窓…チンネ左稜線…池ノ谷乗越…熊ノ岩(泊)
9月6日
熊ノ岩…長次郎谷…真砂沢ロッジ…ハシゴ谷乗越…内蔵助平…黒部ダム=扇沢=立川
参加者
K、中山
参考文献

はじめに

 この夏、剱岳で岩登りをしてきた。登ったのは以下のルートである。

 週間天気では雨の予報が多かったものの、行動中に降られることはなく快適な登攀を楽しめた。

 劒稜会ルートと魚津高ルートはほどほどの難しさで私も中間でリードを務めることができたが、チンネ左稜線は難しく、ほとんどでKさんにリードを務めてもらった。またそれと別に剱岳本峰に登ることもでき充実した5日間であった。

 八ツ峰は剱岳北方稜線にある八ツ峰ノ頭から剱沢に向かって下る「八つの峰」。長次郎谷と三ノ窓雪渓にはさまれた岩稜である。八ツ峰ノ頭から八峰、七峰、六峰と数を落としていき、一峰の下にマイナーピークがある。途中の五峰と六峰の間の五・六のコルを境に上半分、下半分と呼び分けている(山岳図書編集部編「アルペンガイド14 立山・剣・白馬岳」)。このうち、六峰の長次郎谷側は特に岩登りが盛んであり、五・六のコル側から見えるピークごとにAフェースからDフェースの名前が付けられている。今回はそのうちのCフェース劒稜会ルートAフェース魚津高ルートに登った。

 チンネは剱岳北方稜線にある三ノ窓のコルの近くにある岩峰である。北方稜線からはわずかに剱沢側にずれた位置にあり、北方稜線から三ノ窓雪渓に向かって包丁の刃のような薄い岩が伸びている。近くにはクレオパトラニードル、ジャンダルム、小窓の王、八ツ峰といった岩峰がそびえ立ち日本とは思えないような異様な風景である。チンネ左稜線はチンネ左端のスカイラインを登るもっとも長いルートであり、多くの人に親しまれている(日本登山体系 剣岳・黒部・立山)ルートである。

 また長次郎谷から長次郎のコルを経て剱岳本峰へ登るルートは1907年の柴崎測量官らによる記録に残っている初登頂ルートでもある。今年は剱岳の初登頂争いを描いた映画「剱岳 点の記」が公開されたこともあり、宇治長次郎や柴崎芳太郎のルートをたどることができてよかった。

0日目

2009年9月1日(火) くもり

立川=扇沢(泊)

 22時に立川に集合し、扇沢へ向かう。週間天気予報では2日、3日、4日と富山県東部で雨となっていたが、中央道では雨にも降られ、行く末が心配である。

 扇沢には日付が変わった1:40頃に到着。幸い雨は降っていなかった。駐車場の片隅にテントを張って2時就寝。

1日目

2009年9月2日(水) 晴れのちくもり

扇沢=黒部ダム…内蔵助平…ハシゴ谷乗越…真砂沢ロッジ(泊)

コースタイム
扇沢6:30起床
7:30
黒部第四ダム7:45
8:05
内蔵助谷出合手前9:00
9:09
内蔵助谷出合9:26
内蔵助谷1305m10:00
10:10
内蔵助平11:47
11:53
1860m13:20
13:27
ハシゴ谷乗越13:47
1740m水場14:43
14:54
真砂沢ロッジ15:34
19:30就寝

 6:30に起床して7:30発のトロリーバスに乗車する。平日の朝1番の便だからか人は少なく、バスは1台であった。座席に座ってひと寝入り。乗車時間は30分くらいあるかと思ったが、15分で黒部第四ダムに到着。朝が弱い私としてはもう少し寝ていたかった。

 ダム堰堤を経て室堂に向かう観光客と別れて内蔵助平方面の出口に向かう。ダム堰堤方面に比べて質素で堅牢な出口を出ると深い黒部渓谷と真っ青な空が待っていた。「今日晴れても仕方ないんだけどな」とKさんが言う。今回は靴をたくさん持ってきている。岩を登るためのクライミングシューズ、長次郎雪渓を登るためにはアイゼンが必要なためアイゼンに合うプラスチックブーツ、テン場から岩場の取付までアプローチに使う運動靴の3足。さらに車に置いてきたが下界で履くサンダルを含めれば4足。Kさんは動きやすい運動靴で、私はプラスチックブーツがザックに入らないため、プラスチックブーツを履いて長次郎谷を目指す。

 今日は黒部渓谷沿いの旧日電歩道を下り、内蔵助谷出合へ向かい、内蔵助平、ハシゴ谷乗越を経て真砂沢ロッジへ、さらに長次郎雪渓を遡り、熊ノ岩まで。黒部ダムから真砂沢ロッジまではエアリアマップでは6時間10分の道のりである。昨年2008年5月に小窓尾根に登ったときの下山路を逆にたどる。黒部渓谷まではジグザグ道と水路沿いの道を下り、黒部川河床に降り立つ。低い堰にかかった板の橋を渡り左岸へ。上流の黒部第四ダムは観光用の放水を行なっており、轟々と瀑音が響き、霧となったしぶきがここまでもやってくる。

黒部川
9/2 黒部第四ダムの下で黒部川を渡る。
旧日電歩道
9/2 旧日電歩道を内蔵助谷出合まで下る。

 左岸の旧日電歩道を下流へ向かう。旧日電歩道というと毎年雪崩で道が荒れるというイメージがあったが、内蔵助谷出合まではそれなりに整備されていた。途中で関電のヘルメットをかぶった人がいたので旧日電歩道も関電が管理しているのかもしれない。黒部川が左に曲がるところで一本とる。登山者はおらず静かである。黒部の流れはダムの湛水が流れており、青白く濁っていた。途中岩がひさし状に伸びた岩屋があり、修理用と思われる木材が置かれていた。

 内蔵助谷出合を過ぎ、内蔵助平への登り道になる。道は内蔵助谷沿いの右岸に付けられており、ところどころザレ場や涸れ沢を登ったり、岩場があったりと思ったより険しい。人が歩いていないようで、トカゲやカエルが驚いて逃げていく。天気はよく、日差しがあり暑い。5日分の食料と登攀具が重く、ザックを背負っているのがつらい。Kさんにだんだん遅れる。道が大きな岩の河原に出たところで一本とる。私はバテていて水を飲むばかりであまり食べられなかった。その後さらに私の歩みは遅くなり、途中途中で1, 2分ザックを下ろして体を休めながら歩いた。内蔵助谷を橋で渡るところで一本とった。

内蔵助平
9/2 内蔵助平からは白い河原が道になっている。
ハシゴ谷乗越
9/2 ハシゴ谷乗越への登りでは涸れ沢を登る。

 内蔵助谷から水の流れる道を少し歩くと真砂岳への道とハシゴ谷乗越への道と2つに分かれる。右のハシゴ谷乗越への道をとるとヤブっぽい道を行き、ハシゴ谷乗越へ通じる涸れ沢に出る。白い岩がゴロゴロする河原みたいな沢でここが登山道になっている。内蔵助平が平らなので平坦な沢だが、河原の石がゴロゴロしているので足下を選びながら歩く。必然あまり速くは歩けない。ハシゴ谷乗越が近づいてくると沢は狭く急になり、やがて沢を離れて登山道になる。急になるのでまた遅くなり、荷物を降ろして休むことをくり返しながら歩く。ハシゴ谷乗越につくとKさんが待っていた。2008年5月に小窓尾根に登ったときは眺めのよい乗越だったが、夏は木が生い茂っていて展望はない。天気はくもりになっていた。

 ハシゴ谷乗越から剱沢に下る。下りになっても私はバテておりすぐKさんに離される。Kさんがそれを不審に思ったのか、私を待っていた。私が先頭になり、Kさんがすぐ後ろについて歩く。「ザックが斜めになっているぞ」と指摘され、ザックのあちこちのバンドを締めて補正する。ある程度補正できたのだが、前から私はどうやってザックを背負ってもまっすぐに背負えないのである。パッキングが下手なのか私の体のバランスが変なのかよく分からない。ハシゴ谷乗越からごくゆっくりとしたペースで休まずに歩く。ハシゴのある急な尾根を下り、尾根を離れてトラバース。その小さな涸れ沢に沿って下る。だいぶ下って水が流れているところで一本。ばてていて疲れていた。

剱沢
9/2 剱沢にかかる橋を渡る。
真砂沢ロッジ
9/2 真砂沢ロッジに幕営。

 涸れ沢を下っていくと道が2つに分かれた。左は剱沢に雪渓が残っているときの真砂沢ロッジまでの短絡路、右は雪渓が消えている場合の橋を渡るルートである。左の道はロープがかけられていたので右の道をとる。剱沢に下り着き、剱沢にかかる木と鉄の橋を渡る。その後は剱沢左岸についた道を登り、真砂沢ロッジについた。

 予定は長次郎雪渓を登り熊ノ岩までだったが、15時半を回っておりこの日は真砂沢ロッジに泊まる。真砂沢ロッジは1人1泊500円。水は小屋の前の蛇口、トイレは小屋の別棟で紙があり、水が流れていたが事後には備え付けのバケツの水を流さなければならず、水を汲む必要があった。テント場にはほかに4張ほどテントがあったが、どのテントも人の音がしなかった。みんな岩を登っているのだろうか。1つのテントだけ日が暮れるころに人が戻ってきていた。

2日目

2009年9月3日(日) くもり

真砂沢ロッジ…長次郎谷…熊ノ岩…八ツ峰IV峰Cフェース劒稜会ルート…熊ノ岩(泊)

コースタイム
真砂沢ロッジ3:00起床
5:00
長次郎谷出合5:52
5:59
2300m付近雪渓切れる7:17
7:35
熊ノ岩横
(荷物デポ)
9:07
9:27
IV峰Cフェース劒稜会ルート取付点9:40
IV峰Cフェースの頭11:57
V・VIのコル13:24
13:35
熊ノ岩横
(荷物回収)
13:49
14:11
熊ノ岩14:20
19:40就寝

 3時に起床し、夜が開け始める5時に真砂沢ロッジを出発。長次郎雪渓の熊ノ岩を目指す。剱沢左岸の登山道をたどり長次郎谷出合へ向かう。夏を過ぎ、雪渓はだいぶ融けていてあちこちにクレバスができていた。長次郎谷出合から長次郎雪渓に入る。私はプラスチックブーツにアイゼンを履いたが、Kさんはしばらくアイゼンをつけないで雪渓を登っていた。

 長次郎雪渓に入ると傾斜が急になってきてまた私が遅れる。Kさんは正月の山行と同じくらいのザックの重さというが、おそらく私は正月の山行にそれほど共同装備を背負っていないのだろう、全く慣れない。だいぶ遅く登っていると雪渓が切れているところに出た。Kさんがそこから岩に登ろうとしていたが、どうも危ないらしい。少し下って右岸に上がる。右岸の岩場を少し登ると長次郎谷に滝がかかっており、そこを左岸に渡る。

長次郎雪渓
9/3 長次郎雪渓に入る。
長次郎雪渓
9/3 途中で雪渓が解けており右岸から左岸に渡る。

 長次郎谷出合から少し登ったところにテントがひと張りあり、そのうちテントをたたんで遅い私に追いついてきた。前日室堂から長次郎谷までやってきて今日は長次郎雪渓をつめて、剱岳本峰を踏み別山尾根を下って室堂へ戻るそうだ。今日中に松本まで戻ると言っていたので1泊2日、けっこう急ぎ足のスケジュールだ。

 長次郎谷左岸のガレを登り熊ノ岩の下に出る。私はKさんからだいぶ遅れていて、Kさんから「登れ、速くしろ」と怒られる。何とかKさんのいる熊ノ岩と同じくらいの高さの長次郎谷右俣の台地にたどり着いた。

熊ノ岩
9/3 熊ノ岩が見えてきた。
劒稜会ルート
9/3 これから登る八ツ峰IV峰Cフェース劒稜会ルート。

 ここでテントなどをデポし、登攀具を持ってIV峰Cフェース劒稜会ルートを登る。長次郎谷右俣をはさんだ熊ノ岩にはテントが2張張ってあり、私たちに先駆けて3人が劒稜会ルートに取り付いていた。真砂沢ロッジの話では北大が1日早く熊ノ岩に登っているとのことなので北大の人たちだろう。私が手持ちのシュリンゲでセルフビレイをとっていると自分についているザイルをクローブヒッチしてビレイするよう指摘される。何回もやっているはずなのにやり方を忘れる。

劒稜会ルート

↑八ツ峰IV峰Cフェース。マウスオーバーで劒稜会ルートを表示。

 1ピッチ目。30m2級(長さ、等級はクライミングジャーナル編集部編「クライミング・ガイドブックス 日本の岩場(下)」による)。Kさんリード。大きな白いフェースを登る。リッジに出るところでピッチを切る。

劒稜会ルート
9/3 劒稜会ルート1ピッチ目。大きな白いフェースを登る。
劒稜会ルート
9/3 劒稜会ルート2ピッチ目。リッジ右側のフェースを登る。

 2ピッチ目。40m2級。中山リード。リッジの岩を右に小さく巻いてリッジ右側のフェースを登る。上部のバンドから北大のいるフェースの真ん中を登るか、右のハイマツとの際を登るか迷うが、ハイマツとの際は浮き石が多いためフェースの真ん中を少し登ったところでピッチを切る。

劒稜会ルート
9/3 劒稜会ルート2ピッチ目。
劒稜会ルート
9/3 劒稜会ルート3ピッチ目。上部ハイマツの下に段差があり、苦戦する。

 3ピッチ目。40m3級。Kさんリード。北大のルートをたどる。フェースを登っていき、ハイマツ群にぶつかったところでしばらく思案。左行ったり右行ったりしていたが、左へ登っていった。私が行って見るとフェースに段差があってなかなか登れない。だましだまし段の上に乗るが、不安定なのですぐ上のハイマツにつかまり、トラバースして難を逃れた。登ってからKさんと話したが、ルートはもっと左の方だったようだ。

 4ピッチ目。20m2級。中山リード。またリッジに戻り、リッジの右側を登る。リッジ上に出たり、リッジ右をトラバースしたりしながら登る。割と広いテラスに出てそこのハイマツに支点をとり、そこでビッチを切る。

 5ピッチ目。25m2級。Kさんリード。岩を少し登り、すぐCフェースの頭付近に出た。

劒稜会ルート
9/3 劒稜会ルート4ピッチ目。熊ノ岩のテント場がはるか下に見える。
V・VIのコル
9/3 V・VIのコルへの懸垂下降。

 Cフェースの頭に出てすぐ下る。天気はくもりだが雨が降る予報なので速く下る。三ノ窓側の踏み跡を下り、途中からトラバースする。シュリンゲがたくさんぶら下がった下降点を見つけ、先行する北大パーティーが懸垂下降して下にいるのを見つけるが、北大パーティーがこっちはV・VIのコルまで遠く誤りだと教えてくれた。このためさらにトラバースし、ザイルで確保しながら下る。下りながら下降点を探し、懸垂下降を1回行なうとだいぶV・VIのコルの近くに出た。そこで先ほど下にいたはずの北大パーティーがずっと高いところから下ってくるのに会った。だいぶ高くまで登り返したようだが、それにしても速い。山慣れているようだ。そこからはクライムダウンでV・VIのコルに出られた。

 コルで一休みし、踏み跡を下ってデポ地点に戻る。途中、翌日登る予定のAフェース魚津高ルートを見る。しかし私はルートはおろか取付点もよく分からなかった。テントなどを改めて背負い、長次郎雪渓右俣を渡って熊ノ岩についた。幕営適地はたくさんあり、北大の2張の少し先にテントを張った。水場は幕営適地の中ほどに上部の雪渓から流れてくる小川があり、すくう器が必要なものの近くて快適であった。

八ツ峰
9/3 熊ノ岩から見た八ツ峰VI峰。
熊ノ岩
9/3 熊ノ岩に幕営。

 テントを張って中に入ると雨。しかも強く、雷も鳴る。稲妻が光るたびにラジオに雑音が入り、怖い。ラジオは緊急放送として富山県の全域に雷注意報が発令されていることと富山と呉羽の間で冠水のためJRがストップしていることを報道していて2人で怖がった。

 2時間ほどで雨はやみ、夕焼けか、空が黄色く明るくなった。日はすでに北方稜線に沈み見えない。16時の気象通報で天気図をとると弱い低気圧と弱い高圧部が日本海にあり天気は読めなかった。予報によればくもり、ところにより朝か夕に雨、雷だそうだ。やがて夜になると雲が減り、おぼろ月となった。


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