山ノ中ニ有リ>山行記録一覧>2005年山行一覧>奥秩父・久渡沢中ノ沢下降
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2005年7月17日 |
ゴンザの滝上…小荒川谷出合…中の二俣右…奥の三俣左…2180m雁坂嶺西破風山最低鞍部…中ノ沢下降…ナメラ沢下降…久渡沢下降…雁坂トンネル山梨側出口…新地平バス停=(山梨交通バス)=JR中央本線塩山駅
これ以前のタイムについては大荒川谷の記録を参照。 | |
西破風山・雁坂嶺最低鞍部 2180m | 10:22 |
10:35 | |
1880m懸垂下降 西から枝沢 | 11:03 |
11:20 | |
1780m付近 | 11:38 |
11:55 | |
1720m東から枝沢 | 12:15 |
1420m ナメラ沢・中の沢二俣 | 13:03 |
13:20 | |
1360mナメラ沢・峠沢二俣 | 13:36* |
1340m唐松尾沢出合 | 13:44* |
1260m付近 | 14:20 |
14:34 | |
12m二段滝懸垂下降終了 | 15:10 |
雁坂トンネルの橋 | 15:37 |
雁坂トンネル 山梨側入口 | 15:47 |
16:05 | |
新地平バス停 | 16:41 |
17:48バス発車 | |
* 印は壊れた時計での時刻。 実際はもう少し遅い時刻だったと考えられる。 |
奥秩父・大荒川谷[3/3]の続き。
大荒川谷を無事遡行し終えた我々は、予定通り久渡沢ナメラ沢を下る。これも澤に判断させたが、天気も持ちそうだし、下ろうということになった。
で、くどいようだが、予定は久渡沢ナメラ沢下降であった。しかし、この後我々は失敗をおかす。久渡沢中ノ沢を下降したのだ。久渡沢の流域を樹形図で示すと次のようになる。○がついているのはこの沢に出れば登山道と交わるので下降を終了することができることを示している。
笛吹川┳久渡沢━┳久渡沢┳ナメラ沢┳ナメラ沢┳西俣…西破風山 ┣ヌク沢 ┃ ┃ ┃ ┗東俣…西破風山の東の2280mピーク ┣東沢 ┃ ┃ ┗中ノ沢……………雁坂嶺・西破風山最低鞍部 ┗西沢 ┃ ┗峠沢━━┳峠沢………………雁坂峠 ┗唐松尾沢○ ┗クッキリ沢○
このうち、私達は雁坂嶺・西破風山最低鞍部から久渡沢の下部まで下ってしまった。以下はよく分からないまま下った経過である。
我々は稜線で現在地確認をちゃんとしていなかった。西隣には大きくピークがそびえたっており、てっきりこれが西破風山だと思っていた。しかし、地形図を見ると2点おかしいところがある。
この2点が反省点である。
で、現在地を確認せずに下降点を探していた。南側は総じてガレており、下りにくそうだ。少し西よりの樹林帯から下りはじめることにする。始めは草地で獣道みたいなものもあり、誰かが下ってそうな感じがした。
だんだんと傾斜が急になってきてガレ場に出る。始めは小さいが下っていくにつれて深く、険しい谷になってくる。水が出てくるが、水量は少ない。こんなところ詰めて登ってきたら大変だなと思いながら下る。ところどころ滝があるが、クライムダウンなどを駆使してなんとか下る。急だし、ガレで足場は安定しないし、疲れる斜面だ。
7/17 中の沢下り始め。始めは急だけど樹林帯の草地で下れる。 |
7/17 やがて急でガレた沢になる。下りにくい。 |
やがて大きな岩のひっかかるチョックストーン滝にぶつかる。どうしようもないのでザイルを出して懸垂下降。廊下状になっているところが多い中、ここは簡単に木を捕まえることができた。澤に主体的に行動してもらって懸垂下降を行う。ザイルを投げる方向についてザックをおいたところの方かと聞かれるが、懸垂下降中は鉛直下向きにしか動けないことを教え、ザイルは真下に流れるように投げると教える。今日2回目の懸垂下降。澤はスルスルと降りていく。
7/17 チョックストーン滝で懸垂下降を強いられる。中の沢で懸垂下降をしたのはこの一回。ただし久渡沢での懸垂下降を除く。 |
7/17 1720m東から枝沢。ここがどこだかよくわからなくなってくる。でもまだナメラ沢を下っていると信じていた。 |
追って私も下る。先に滝があればまた懸垂下降を行わなければならないので、澤にザイルをたたませ、私が先行して下る。幸い滝はなかった。不安定なガレを下り、なんとか休めそうなところに出る。ここで一本とるか澤に聞き、一本とることにする。また険悪なガレた谷が始まれば一本とることはできないからだ。地形図を出すがどこだかよく分からない。左からルンゼが下っているが、ナメラ沢でそういうところは1990m, 1910m, 1800mとあり、どこだかわからない。
が、その懸念は懸念に終わり、しばらくで河原に出た。河原歩きの途中、足元のふらついた私はずっこけ、1回転半くらいして止まった。肘を打って痛かったが、挫いたりひねったりはしていなかった。しばらく痛みをこらえて出発。時計を見ると時計のガラスが見事に割れていた。中の秒針は動いているようだが。
河原に出て左から枝沢を合わせる。ちゃんと水があり、水量比は左3:右2といったところか。そんな水量比になるような枝沢も見つからず、暫定的にナメラ沢右俣の1800m付近とする。
第一関門のガレを突破し助かったと思ったが、河原がまた曲者だった。第二関門河原歩きは第一関門と同等以上の辛さだった。長いのである。とにかく長い。ナメラ沢右俣を下っているつもりの我々にはこんな直線の長い河原歩きは考えられない。こんだけ歩いていればどこかでナメラ沢左俣に合流するはずである。その辺で疑えばよいのだが、単に歩くのが遅いことにして「全然進まんな」とぼそっと言う。河原歩きの後半はもはや下山マシーンと化し、記憶は定かでない。ただ、右岸が河岸段丘っぽかったのであの辺ならテント張れるなとか思っていた。
7/17 ナメラ沢・中の沢二俣。約1時間に渡る長い河原歩きの末たどりついた。しかし、この時点ではまだナメラ沢の左俣右俣の二俣だと思っていた。 |
7/17 しばらくのナメの後、10m三段滝。右から巻けたのでザイルを使わなかった。(「東京周辺の沢」では2条5m○1) |
身も心も疲れ果ててナメラ沢・中の沢二俣に到着。中の沢の下降を完了する。しかし、我々の頭ではここはまだ「ナメラ沢左俣・右俣の二俣」である。地図を見るとここからやっとナメラ沢の下降が始まる。これからのナメに期待しながら疲れて休む。(ここまで2005年7月19日記す)
少し歩くと滝が現れる。10m三段滝でパッと見ると簡単には下れない。懸垂下降するのもかったるいので道を探すと左岸からなんとか下れる。足を伸ばさなければならないため、けっこう難しかったが、ザイルを出さなかったので時間はかからなかった。
その後やっと待望のナメが現れる。「く」の字ナメだ。少しヤブっぽいが、ザックを置いて滑る。若干でこぼこがあり、滑り台としてはいまいち。それでも楽しむことはできた。滑り終わった後もナメ床があり、澤がお約束通り滑ってこけてくれた。
河原を少し歩くと下流から人がやってきた。3人パーティー、銀マットを外付けしているのが印象的だった。人が入っていることから、我々がナメラ沢を下っていることに確信を抱く。それは正しいのだが、ナメラ沢を1次元の線に見たてたとき、場所が全く異なっていることには気付いていなかった。我々はいまだナメラ沢・中ノ沢二俣を目指して下っていた。
7/17 「く」ノ字状ナメの後のナメ。澤がお約束通りコケてくれました。 |
7/17 滑り台。ナメラ沢と峠沢が合わさった後、唐松尾沢出合のすぐ下。というか、右奥の土の斜面の向こうが唐松尾沢。これを登ると登山道に出られたはず。ナメラ沢と峠沢が合わさり、名前が久渡沢に変わったことに気付かず、ナメラ沢を下り続けていると信じながらナメを楽しむ我々。 |
やがてナメラ沢・峠沢二俣。ナメラ沢の方が水量が多く、峠沢が支流に見える。峠沢はナメが続いているようだった。地図上でナメラ沢の支流の一つと考える。ただ、支流にしては水量が多いなとは感じた。雁坂嶺西の肩からナメラ沢・峠沢二俣に下る道があるはずだが、気がつかなかった。
しばらくで唐松尾沢出合。また水量のある沢が現れ、どこだか判別がつかない。それでもナメラ沢を下降していると考えていた。その下にちょっとしたナメがあり、滑る。
ナメラ沢は峠沢と合わさって久渡沢と名前を変える。普通、ナメラ沢を遡行する人は新地平から久渡沢沿いの雁坂峠道をナメラ沢・峠沢二俣付近まで歩き、峠沢を下降するか、唐松尾沢を下降してナメラ沢に達する。実際、私達もそのように計画していた。この唐松尾沢出合で下降を打ち切ればよかったのだが、全く気付かず、滑り台を楽しんでいた。
久渡沢が遡行対象にならないのはいくつか理由があるのだろう。
特に水量が多い点は強く感じた。泳いだりスクラム汲んで徒渉とかはないが、水量が多ければそれもあるかもしれない。
久渡沢には顕著な滝が2つほどあった。一つは右岸からルンゼをたどって下ることができた(下の写真の滝)。しかし、もう一つの2段10m位の滝は右岸のルンゼが急で巻けず、懸垂下降した。振り返って滝をみると、登る分には左から登れそうだった。これで今回の懸垂下降は3回目。澤の懸垂下降は問題なさそうだ。
7/17 久渡沢はゴルジュ状の所が多い。水量も多い。 |
7/17 久渡沢にかかっていた滝。右岸から巻けた。これと別の滝で懸垂下降を一回行った。 |
ナメラ沢・中ノ沢二俣から1時間。滝を2つやり過ごして澤が遅れはじめる。行動時間もすでに10時間を越え、それもずっと沢登りであることを考えると仕方がない。そう思って聞いてみると、河原歩きで滑るかこけるかして足に強い衝撃をかけたらしい。痛めただけならしばらくすれば痛みがひくと思ってしばらく休む。頭は動くので地図で現在地確認。そこで澤が重大な指摘を行う。沢は広い廊下状で河原がある。谷がほぼ直線なのでコンパスをきると南南西に向かって下っている。そう思って地図上のナメラ沢を見るとそんなところはナメラ沢にはない。澤の一言「ここはナメラ沢じゃないんじゃないですか?」。ここで我々がナメラ沢を下り始めたわけではない事実に気がつく。映画「猿の惑星」のラストと同じくらい衝撃を受ける。しばらくびっくりした後、自分のルートファインディングの手抜きにがく然とする。
下り始めは西破風山・雁坂嶺最低鞍部。ここは中ノ沢の流域境界になっている。ナメラ沢はその西隣。西破風山・2230m峰(東破風山?)の稜線を流域境界にしている。我々が下り始めたのは前者なので、どう考えてもナメラ沢を下っていることはない。中ノ沢を下っていたのだ。
そして改めて現在地確認。いままでナメラ沢・峠沢などの大きな沢には出合っていないと考え、中ノ沢下部の南西に流れているところを現在地と考える。「あんまり進んでないな」と澤と二人でへこむ。実際にはナメラ沢出合も峠沢出合も過ぎ、久渡沢を下っていたため、依然として現在地がわかっていなかった。
廊下状の沢を歩き始める。もう難しいところはなく、徒渉でこけないように気をつけながら歩く。丹沢水無川の入渓点にありそうな、右岸に河原のある右カーブを2つ過ぎる。と、その2つ目のカーブでまた驚く。
中山「いま、白い何かが高速で左から右に移動したって!」澤「え?」歩きながら、2人で正面を見ながら歩くと木々の向こうでまた何かが高速で移動しているのが見えた。今度は澤も確認した。近付いてみると、コンクリートでできた擁壁にぶつかった。白い何かの正体は車だった。また地図を開くが、中ノ沢の峠沢出合より上では車道はないはずである。でもとにかく車道に上がることにする。少し下流に歩くと白い大きな橋がかかっていた。擁壁に沿って下っていくと橋の下でなんとか登れそうなところを見つけ、そこから車道に這い上がる。上がったところは国道140号線雁坂トンネルの山梨側入口だった。
澤を先に登らせ、現在地確認を行う。澤が「ここじゃないですか」と自分の地形図を指差しながら示す。久渡沢1200m付近、左岸が広くなったあたりで、ちょうどトンネルの入口にもなっている。ああ、ここだとやっと現在地が確定する。さらに澤は今回の前の週にここを通っている(甲武信ヶ岳〜雁坂峠〜新地平)ので道も分かる。安心した。さらに登山道に上がろうかとも思ったが、簡単に道には上がれなさそうだったのでとりあえず沢装備を解除する。
解除して自分の地形図を見ると、雁坂トンネルがない。まだ建設途中だったらしく、西沢渓谷のループ橋も載っていなかった。そのため、また澤に「ここどこ?」と聞き返した。この地図も私が1年の春合宿の時のものだからもう5年前になる。確かにそのときはトンネルは開通していなかった。ここからはもう澤が道案内できるはずなので、私が現在地が分からなかったことも笑い話になった。
7/17 雁坂トンネル山梨側出口に出た。ここで現在地が判明する。がんばって車道にはい上がり、遡行終了。 |
これから新地平に下るのに、登山道に登るのはかったるいので雁坂トンネルの料金所を徒歩で突破、チェーン架け替えの敷地から登山道に侵入した。あとは道なりに30分下り、国道に出て新地平バス停に着いた。バスはちょうど1時間後。澤がインスタントラーメンを作り始めた。下界に着いてから山の飯を作るなよと思ったが、他人が作っているのを見ると私も食べたくなる。私も食べてしまった。17:48ごろ3分ばかり遅れてきたバスに乗って塩山に着いた。塩山で2人でそばを食べ、普通列車に乗って帰った。
今回は澤の判断能力を鍛えることを目的として計画した。判断能力だけは下界では鍛えられないし、経験を要するものだが、2年生がいない状況を鑑みて、あえて1年生の澤に高い要求を行った。澤は高校で縦走は経験済みなので、特に沢登りに関する能力を鍛えようと思った。
目的からいえば、成功だったと思う。テントを張る場所も、左俣、中俣などどこを行くかも、水を汲む量も、休む時間も澤に決めさせた。その度にありうる選択肢を私も述べたので、判断能力はある程度増したと思う。本来、山を登っている際、判断能力は何が選択肢としてあげられるか、その中でどれを選ぶかという2点に分けられるが、この後半部分については鍛えられたと思う。前者については私が挙げることにより、直接ではないが、勉強になったと思う。これから先は実践で磨きをかけてほしい。
また、沢登りに関する技術も上達した。懸垂下降も中ノ沢でやらせたときはほぼ自分一人でできた。はじめ、十文字峠道から金山沢下降点を下っているときなんかはルートファインディングに慣れていないなと感じたが、中ノ沢下降に至ると道を探すにはさほど困難なく下れていた。体力的には慣れない長時間行動にもよくついてきてくれた。2泊3日のルートを1泊2日に縮めてしまったわけで十分だと思う。
個人的には課題の残る山行だった。下る沢を間違えた上、実に3時間もその間違いに気付かなかったのは大いに問題だった。それも地形図上で判別つきにくいわけではなく、勘違いを元にしていたのも問題であった。これからは今回の失敗を糧にしようと思う。
(2005年7月24日記す)