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2020年秋 - 奥秩父・和名倉山ヒルメシ尾根


2020年10月24日(土)〜10月25日(日)
場所
埼玉県秩父市(旧・秩父郡大滝村)/奥秩父
ルート
10月24日
西武秩父駅=川又バス停…ヒルメシ尾根…二瀬尾根1950mコル…和名倉山…千代蔵ノ休場(泊)
10月25日
千代蔵ノ休場…二瀬尾根…造林小屋跡…大洞橋…秩父湖バス停=大滝温泉遊湯館=西武秩父駅
参加者
中山(単独)
参考文献

はじめに

 せっかく4月に内地に帰ってきたというのにろくに山に登れていない。心なしかお腹も出てきているような気がする。泊まりがけの山行にも行っていないし、じっくりと1人静かにテント泊したいと思い、山行を計画することにした。

 どこに行こうか考え、今年初めての泊まりがけの山行であること、感染症拡大防止の観点から近場で済ますこと、そして行ったことのない山を考え、和名倉山を選んだ。

 和名倉山は奥秩父にある2036mの山。国土地理院の地図には白石山とあるが、白石山と呼ぶ人は見たことがない。西を滝川、東を大洞川に縁取られた円くて大きな山だ。奥秩父主脈縦走路から北に外れており、アルペンガイドに紹介されるコースは将監峠からの往復のみ。川又から登るヒルメシ尾根、二瀬から登る二瀬尾根は一言触れられているのみだ。

 下山コースは、川又へ下るもの、二瀬尾根を通って秩父湖へ下るもの、いずれも荒廃していて一般向きでない。

『アルペンガイド6 奥多摩・奥秩父・大菩薩』(山と渓谷社,1997)P.186

 交通の便が悪い分、私も登ったことがないし、アルペンガイドにも「奥秩父主脈からぽつんと離れた気になる秘峰」と評されている。

 私は和名倉山に登ったことはないが、目指したことはある。2001年に和名倉沢を登ったとき、途中で切り上げて左岸を登り、二瀬尾根を下山した。

 今回、静かな山行を目的とするので秩父側からヒルメシ尾根を登り、和名倉山で1泊して二瀬尾根を下る計画とした。西武秩父から川又へのバスが便が少ないこと、歩いたことのない尾根は下るより登る方が道を見つけやすいこと、川又から出だしとなる荒川に架かる橋が朽ちていることから、ヒルメシ尾根を登りにとることにした。

1日目

2020年10月24日(土) 晴れ

西武秩父駅=川又バス停…ヒルメシ尾根…二瀬尾根1950mコル…和名倉山…千代蔵ノ休場(泊)

コースタイム
川又バス停9:39
9:53
910m付近11:04
11:14
1173m標高点11:51
1669m標高点南1685m13:12
13:21
1762m標高点13:36
1762m標高点東のコル13:45
1835m桃源郷14:15
14:30
1826m標高点東1845m14:43
二瀬尾根1950mコル15:09
二瀬分岐15:23
和名倉山15:38
15:41
千代蔵ノ休場2010m15:47
18:30就寝

 列車を乗り継ぎ、西武秩父へ。バス乗り場にはえらく長い行列になっており驚いたが、みんな三峰神社行きの2台のバスに乗って行ってしまった。川又経由中津川行きのバスには私を含めて6人ほどしか乗っていない。

 大峰トンネルをくぐって川又バス停。下車したのは私だけ。前は秩父湖バス停で乗り換えたのに、大峰トンネルができたから西武秩父からの直行便になって1便だけに減ったんだなあ、と勝手に思い込んでいたが、間違いだった。三峰口発川又行きの秩父市営バスが走っているようだ。もっともバス停の時刻表を見ると、この9:37に着くバスが朝秩父を出て一番のバスのようだ。

 トイレを済ませて財布をしまったり、YAMAPの記録を開始したり、準備する。バス停の前にはバシャバシャとホースから水が出ており、おばあちゃんが水を汲んでいた。こんなところに吊り橋かかってんのかな、と思いながら車道の桟道橋から真下をのぞくと確かに吊り橋がある。雁坂峠方向に少し歩いたところに下る階段があり、そこから下る。

 吊り橋は入り口がカエデに覆われており、のっけから嫌な感じである。一応警告の張り紙があって、一読してから渡る。警告の通り、踏板が老朽化していて穴があいているところもある。両手を柵に添えてそっと歩く。真ん中の梁に沿って歩いていたら、右岸寄りでバキッと板が割れ足が30cmほど落ちて冷や汗をかいた。

川又吊り橋
10/24 老朽化した吊り橋で荒川を渡る。1箇所板を踏み抜いてあせる。
堰堤
10/24 吊り橋を渡ってすぐ堰堤を見つけるがさっそく道がわからずザレ場を登る。

 無事渡ってホッとする。振り返って踏み抜いた板を眺める。敗退してこの橋を渡るのは嫌だ。橋を渡ると左手にけっこう流量のある沢が流れている。左岸に沿って登るがすぐ道が分からなくなる。ずるずる滑りそうなルンゼを登り、導水パイプに導かれて左へトラバースすると、平地に出る。パイプと水受けのタンクがあり、何かに使っていたのかもしれない。人跡を見つけてホッとし、沢沿いの道を見つけて登る。やがてその道も大岩の先で見つからなくなる。沢沿いには見つからず、しょうがないのでルンゼ沿いを獣道を頼りに登る。足元が不安定で心許ない。

水受け
10/24 吊り橋から少し登ると平場に水受けがあった。犬釘があったので軌道があったのかもしれない。
大岩
10/24 沢沿いの道を行くと大岩で道を失う。大岩の先の斜面を適当に登る。

 少し安定したところに出るが、正面の尾根はどこから登っても急だ。正面の少し岩の出ているところなら手がかりもあろうと登る。足場の不安定な岩場を登って振り返ると、下りだったら絶対ここは通らないなと思うくらい急だ。

岩場
10/24 変な岩場を登って振り返ったところ。
滑車
10/24 小尾根を登って滑車を見つけて道に復帰する。ここから左へトラバース。

 小尾根の910m付近に出て一休みする。思った以上に道が見つからず、手こずりそうだ。さして高度も上げておらず、対岸の車の音も聞こえる。行く先の山はまだまだ高く、焦りがつのる。

 小尾根を登っていくと林業用の滑車が木に打ち付けられ、その隅に赤テープがついているのを見つける。道を探すと左手へトラバースしているようだ。正規の道を見つけてホッとするが、これも途中で道を外れてしまい、尾根に出たところは1173m標高点のやや西であった。

1173m標高点
10/24 1173m標高点には杭が1つ立っている。
1200m付近
10/24 1200m付近で道が尾根から離れる。

 すぐ1173m標高点に出たので現在地確認は容易であった。東京大学の境界見出標という赤い看板が打ち付けられている。その先でどうやら正規の道らしいトラバース道を見つける。1173m標高点からしばらく尾根を登り、1200m付近から中腹を巻く道に入る。幸いこの入り口はわかりやすい。赤テープの乏しい巻道を辿っていくが、途中で見失う。下草がなくどこでも歩けてしまうのが困り物だ。しょうがないので適当に巻きながら登っていく。苔むした岩の斜面を見つけ、これを登る。苔は湿っていてヤスデがあちらこちらに見受けられる。こんなにヤスデの多い山初めてだなあと思いながら急斜面でときどき息をつく。上部は枯れたススタケの斜面となり、なんとか1669m標高点南1685mにたどり着いた。

1350m付近
10/24 1350m付近でこの赤テープのあと道を外す。
苔むした斜面
10/24 苔むした斜面を登る。苔の上を歩くヤスデをよく見た。

 2時間歩いたので一休みする。それなりにルートファインディングの心得はあると思っていたが、半分も道をみつけられず気持ちばかり焦る。まだ登りだから登っていればいずれ尾根に出て正解のルートにたどり着けるものの、下っていたらどこへ出るか分からない。登りはつらいが、迷わないだけマシだと思うことにする。

 尾根を5分ほど歩くと唐突に赤テープを見つける。どこが道だったのか全く分からない。道っぽいものを辿るとやがてのっぺりとした1762m標高点。下りに入ると枯れススタケが広がり和名倉山方面を望むことができる。写真を撮って遠いなあ、と思う。

1669m標高点南
10/24 1669m標高点の南に出ると赤テープを見つけた。
1762m標高点
10/24 1762m標高点から和名倉山を眺める。まだ長くてゲンナリする。

 1762m標高点東のコルは広くてテントが張れそうだ。三峰博物館の野生動物調査の機械が木にしばりつけられている。それはいいのだが、赤テープが見つからない。ああもう、と言いながら何となくトラバースしていく。カラマツ林にヤブはないので歩こうと思えばどこでも歩ける。ふと山側を見ると赤テープを見つけ、ここから道に沿って歩く。しばらく道沿いに歩くことができ、1826m標高点の北、1835m付近に桃源郷なる場所に出た。

1762m標高点東のコル
10/24 1762m標高点東のコルには三峰博物館の野生動物調査の機械があるだけで赤テープが見つけられなかった。
巻き道
10/24 コルから適当にトラバースしていたら巻き道の赤テープを発見した。

 桃源郷には小広い台地に赤いノコギリの刃があり、酒瓶と甕がいくつかある。赤テープに「桃源郷」と書いてあるので桃源郷なのだろう。気持ちに余裕があればここに泊まってもよいのかもしれない。私にとってはそんなことはどうでもよくて、早く確かな道にたどり着きたいという不安の方が大きかった。南よりにキラキラ光るものを見つけ近寄ると枯れ葉の中から水が湧いている。コップですくうと少し土が入っている。でも初めての水場だし、もう手持ちの水も1リットルないし、と思い、水を汲んだ。ヤスデの死骸が枯れ葉の上にいくらかあったが気にしないようにした。しかし、道沿いに南へ歩くとすぐ曲沢左俣の源頭に出てこっちの方が澄んでいたのでコップで水を汲み直した。こっちは苔の中に生きているヤスデがいたが、やっぱり気にしないようにした。

桃源郷
10/24 1826m標高点の北1835m付近にある桃源郷。赤いノコギリの刃と酒瓶、甕が残されている。南よりに枯れ葉からしみ出る水場があった。
桃源郷と1826m標高点の間の沢
10/24 桃源郷と1826m標高点の間の曲沢左俣。伏流しているが、隙間から水を汲め、桃源郷の水より澄んでいる。

 判然としない巻道を辿り1826m標高点東1845mに出る。川又分岐の標高から察するにまだトラバースを続けるのが正解のようだったが、私の持っていた地形図「雁坂峠」には地図の境目に尾根沿いの登山道が載っており、この道に出ればいいんだろうと1826m標高点の尾根をトラバースぎみに登ることにした。針葉樹の獣道をたどり、尾根に出ると明瞭な道があり、ホッとする。北へ行けば和名倉山かと思い、少し歩くと「和名倉山|二瀬」と書かれた看板があり、二瀬尾根1950mコルに出てしまったことに気づく。あわてて進路を南に引き返し、苔むした道を歩く。

1826m標高点東1845m
10/24 1826m標高点東1845mに出て地図読みを誤り、二瀬尾根を目指す。
二瀬尾根1950mコル
10/24 二瀬尾根1950mコルに出たところ。ヒルメシ尾根に比べて明瞭な道で安心する。

 尾根を西側から巻いて明るい南向き斜面に出ると二瀬分岐。より明瞭な道が和名倉山に続いている。安心しながら和名倉山に向かいつつ、そろそろ4時だし気象通報とりたいし、ツェルトも張りたいしとソワソワする。道はやっぱり尾根沿いではなく南側の斜面にある。少し下り道になり、斜上して明るい林から暗い林に入ると人の声がする。男性2人が和名倉山山頂からこちらに向かっていた。やや大きめの日帰り装備に見えたが、今晩どこに泊まるのだろうか。和名倉山でザックを下ろし、記念写真を撮る。疲れているのがカメラを見なくても分かり、写真を撮り直す。

二瀬分岐
10/24 二瀬分岐から和名倉山に向かう。
和名倉山
10/24 和名倉山にてタイマーで写真撮影。

 道を引き返しながら幕営適地を探す。下りが少し急になる2010mあたりでカラマツ林に平坦なところを見つけ幕営地とする。事前にネットで水場があるらしいと調べておいたので、ザックを置き、ポリタンを持って和名倉山と二瀬分岐の登山道の最下点付近を目指す。水場があるとしたら低いところだろうし、谷側でザーッという沢のような音が聞こえたからだ。最下点から南の惣小屋沢側に向かって歩くが、だいぶ急で流水は見当たらない。逆に山側を登ると水場があった。しかし、ヤスデの墓場かというくらいヤスデの死骸が水べりに群がっており、肝心の水量もザレ場をなめるほどの少ないもので汲むのをやめた。桃源郷の後の沢で汲んだ2リットルで明日まで賄うことにした。

 ザックを置いたところに戻り、ラジオをNHK第二に合わせる。気象通報の前は日本語講座だと思い込んでいた私は「ことばの力」みたいな放送が流れてきて周波数が合っているのか不安になる。着込んで気象図をとったが体を動かさないと寒い。幸い、4年ぶりの気象図はそれなりに書けた。

 ツェルトを立てていると和名倉山から二瀬分岐に向かって登山者が現れる。女性1人だ。和名倉山へ向かっていく姿を見なかったので、将監峠からの往復ではなく仁田小屋尾根から来たのだろうか。だいぶ遅い時間だが、先ほどの男性2人同様どこに泊まるのだろう。結局この山行で見た登山者は先の男性2人と女性1人だけであった。

 適当な石がなく、張り綱を枯れ木に適当に張ってツェルトに潜り込む。ご飯を炊いてレトルトのカレーをかけ晩ご飯とする。持ってきた焼酎をお湯で割って少し飲み、道のある場所にいることに安心して就寝。

(2020年10月25日記す)


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