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2008年夏 - 南アルプス・仙塩尾根[1/2]


2008年8月7日(木)〜10日(日)
場所
山梨県南アルプス市(旧・中巨摩郡芦安村)・長野県伊那市(旧・上伊那郡長谷村)・下伊那郡大鹿村・静岡県静岡市葵区
ルート
8月6日
立川=甲府駅(泊)
8月7日
甲府駅=広河原=北沢峠…仙丈ヶ岳(泊)
8月8日
仙丈ヶ岳…伊那荒倉岳…三峰岳…熊ノ平小屋(泊)
8月9日
熊ノ平小屋…安倍荒倉岳…塩見岳…三伏峠小屋(泊)
8月10日
三伏峠小屋…鳥倉登山口=松川町営清流苑=松川IC=新宿(解散)
参加者
中山、K、Y、S、I
参考文献
「アルペンガイド10 北岳・甲斐駒・仙丈」( 山と渓谷社、1996)

はじめに

 今年の縦走をどこにするかみんなで相談したときのこと。みんなあちこち行っていてなかなかこれと行った場所が見つからない。その中でIさんが9月に南アルプス・三伏峠から入って光岳まで縦走すると聞いた。そこで南アルプスのうち北部で行っていないところを探すと仙塩尾根が見つかった。北岳から塩見岳などは歩いたことがある人が多いが、仙丈ヶ岳から塩見岳はあまり歩く人がいない。そこで仙丈ヶ岳から塩見岳に連なる仙塩尾根を歩くことにした。5日間では日が余るため黒戸尾根から甲斐駒ケ岳を越えて入山とした。が、私は6日にどうしても抜けられない仕事があり、ひとり北沢峠から合流することになった。

 仙塩尾根は名の通り、仙丈ヶ岳から塩見岳にかけて伸びる尾根。長く、多くは樹林帯に覆われて展望もないため南アルプス全山縦走を行う人以外はあまり人が入らない。その分、南アルプスの静かで深い森を楽しむことができる。私にとっても南アルプスを何度か登っていて残った大きな主稜線である。花も多く、植物に詳しいIさんにいくつかの花の名前を学ぶことができてよかった。

0日目

2008年8月6日(水) くもり

立川=甲府駅(泊)

 仕事の都合、私だけ遅れての入山。本隊は横手駒ヶ岳神社から黒戸尾根を越えて、私は1日遅れて北沢峠から入山する。終電1本前の甲府行きの列車で甲府へ。終点甲府で下車し、駅前のバスターミナルのベンチで就寝。

1日目

2008年8月7日(木) くもりのちにわか雨

甲府駅=広河原=北沢峠…仙丈ヶ岳(泊)

コースタイム
北沢峠7:15
10:50
小仙丈尾根2200m11:43
11:56
五合目大滝の頭12:45
12:58
小仙丈ヶ岳14:17
14:19
仙丈ヶ岳
手前コル
14:33
14:44
仙丈ヶ岳15:25
15:27
仙丈ヶ岳下15:40
18:45就寝

 甲府駅で寝ている間、小淵沢行きの終電、快速ムーンライト信州と2本の列車が到着し、4時前に起きたときにはずいぶん人が増えていた。4時の快速広河原行きバスは2台のバスが出て、私は1台目に乗ってすぐ寝た。

 6:00。起きると終点広河原。すでに夜は明け、見れば天気は晴れ。3週間前に登った北岳がよく見える。北沢峠行きのバス乗り場に移る。思いのほか寒く、持っているものをすべて着込む。

 6:45、北沢峠行きの南アルプス市営バスに乗り換える。また眠り7:15北沢峠。北沢峠で下車。ここで七丈小屋から甲斐駒ケ岳を越えてくる本隊を待つ。待つこと3時間。日なたに移動して寝たり、本を読んだり、仙丈ヶ岳で植林するボランティアの話を聞いたり、のんびり過ごす。山の中でこんなにのんびり過ごしたのは初めてだ。2回バスの運転手さんから「お客さん、下山?」と尋ねられた。

 それでもなかなか本隊が下りてこないと不安になり、落ち着かない。落ち着かないのでバス停近くの長衛荘で仙丈ヶ岳周辺のテント場と水場について尋ねる。仙丈小屋はテント場も水場もないそうだ。テントなら北沢長衛小屋か両俣小屋、水場も薮沢か両俣小屋にしかないそうだ。これはまいった。本隊が来てから相談しよう。また仙丈ヶ岳から先は人が少なく、道が荒れているということだ。意外に苦戦を強いられるかもしれない。

 長衛荘から出てくると本隊のKさんが私を探していた。すぐ声をかけてテント場と水場の話をする。テント場についてはとりあえず行ってみて考えることにする。水は薮沢で汲むことにする。やがてIさん、Sさん、Yさんと全体で30分ほどの遅れで全員甲斐駒ケ岳から双子山経由で下山してきた。ここから私も合流して登る。

 私には入山の1本目、みんなには甲斐駒から下山してきてさらに1000m登る後半戦である。何となくあとから入山した私が負い目を感じて先頭に立つ。なお先頭はこのあともずっと私だった。

 ルートには薮沢沿いと小仙丈尾根があるが、小仙丈尾根をとった。仙塩尾根を歩くので歩く場所は尾根で統一しよう、またわずかに速いからという単純な考えだ。はじめは標高が低く、緑の深い樹林帯を歩く。急な道なのでゆっくり歩く。やがて一合目を過ぎると平坦になる。二合目からまた急登。Yさんの呼吸が激しくなる。心臓が悪いので心拍数を増やすために呼吸の回数を意図的に増やしていたそうだ。二合目〜三合目の登りで一本とる。

 続けて急登。三合目は少し林が切れて明るい台地。四合目は休めるスペースがある。四合目から山梨側を巻いて登る。マルバタケブキが群生して咲いていた。折り返して尾根上に戻ると五合目大滝の頭。展望もなく蒸し暑いが、登りがつらく休む。

 ここで2つのパーティーに分ける。1つは薮沢経由で水を汲んで仙丈ヶ岳へ向かうK、中山、Iの3人パーティー、もう1つは続けて小仙丈尾根を登り、仙丈ヶ岳に達するY、Sの2人パーティー。体力の残っている前者が水を汲んで仙丈ヶ岳で落ち合うことにした。

 歩き始めてすぐ薮沢への道を分ける。Yさんたちと別れ、薮沢方面へ向かう。薮沢方面の道はほぼ水平なトラバース。小仙丈尾根から分かれて15分ほどでが現れる。思ったほど水場が遠くなかったのとその先で道が急に下るのとで、ここで水を汲み道を引き返すことにする。おのおの2リットルから4リットルの水を汲み、小仙丈尾根へ戻る。

 大滝の頭から小仙丈尾根をたどる。水5.5リットル、ビール2.1リットル、ワイン2リットル、計9.6リットルが肩に重くのしかかる。テントも鍋も持っていないが、自然と歩みは遅くなり、Kさん、Iさんに置いていかれる。

五合目大滝ノ頭
8/7 五合目大滝ノ頭。
小仙丈ヶ岳
8/7 小仙丈ヶ岳への登り。

 樹林帯の中のまっすぐなガレた道を登ると樹林帯を抜ける。樹林帯を抜けるとハイマツで覆われた大きな斜面が現れる。ハイマツの中を曲がりながら道を進み、やがて小仙丈ヶ岳に登りつく。ここで大滝の頭を出てから1時間20分。きりがいいので休みだろうと思ったら先を行くKさんとIさんが見えない。どうやら先へ行ったようだ。荷物が重いので少し息を整えて再出発。

 小仙丈カールに沿った尾根道は晴れれば展望があって気持ちよいのだろうが、今日はガスで500mほどしか見えない。仙丈ヶ岳もよく分からない。ひと山越えて2830mのコル。ここでYさん、Sさん、Kさん、Iさんに追いついた。なぜ小仙丈ヶ岳で休みをとらなかったのかKさんに聞くと、先にYさんたちが見えたからだそうだ。私はと言えばKさんたちも見えず不安なままですごく疲れた。

 その先の仙丈ヶ岳はガスで見えない。右下にはガスの中に営業小屋になった仙丈小屋と登山者が見える。遠くで雷の鳴る音が聞こえ、雨が近そうだ。急な尾根をあがり、コブを2つ巻くと目的の仙丈ヶ岳山頂。やっぱり遅れてしまい、ガスの中にみんなのシルエットが見える。1分ほど遅れて私が追いつく。雷の音が大きく、写真を撮って早く山頂を去る。

仙丈ヶ岳
8/7 くもる仙丈ヶ岳山頂。

 さて雨の降る前に適当なテント場を探さなければならない。下り始めてすぐ大粒の雨が降り始め、みんなカッパを着る。

 雨はテントを張るとやんでしまった。それでも時は16時近く、幕営にはちょうどいい時間であった。ビールをはじめとして持ってきた酒を飲む。持ってきた高菜が大人気で翌朝のご飯でなくなってしまった。疲れていたので19時前に就寝。

2日目

2008年8月8日(金) 晴れのちくもり

仙丈ヶ岳…伊那荒倉岳…三峰岳…熊ノ平小屋(泊)

コースタイム
仙丈ヶ岳下3:10起床
5:05
大仙丈ヶ岳5:30
2780m峰6:08
6:21
苳ノ平〜伊那荒倉岳間
ピーク
7:24
7:43
伊那荒倉岳7:56
2499m峰8:42
9:01
横川岳9:36
野呂川越10:03
10:25
2488m峰11:15
11:30
2700m12:36
12:50
三峰岳13:40
13:58
熊ノ平小屋15:03
19:40就寝

 夜は寒いものの、雨は降らなかった。明け方は星空を見ることができた。テントをたたむ5時頃には、テント場から少し離れると山頂に人が見えた。二重山稜の窪地だが、すぐ先の大仙丈ヶ岳が見えた。思ったより上り下りがあるように見えた。

 5:05仙丈ヶ岳下を出発。天気は晴れ。歩き出すと伊那谷側に中央アルプスと北アルプスが見えた。離れている北アルプスも槍ヶ岳から穂高岳にかけての稜線が見えた。遠くに白馬岳らしき山も見えた。伊那谷側は崖っぷちになっており、展望がいい。見かけほど上り下りが少ないうちに大仙丈ヶ岳についた。人で混雑する仙丈ヶ岳と比べて、まったく人がおらず静かな山頂だ。

大仙丈ヶ岳
8/8 高山植物の説明をするIさんとそれを聞くYさん。後方は大仙丈ヶ岳。
大仙丈ヶ岳
8/8 大仙丈ヶ岳への稜線歩き。

 大仙丈ヶ岳から南に伸びる仙塩尾根がよく見える。大仙丈ヶ岳から野呂川越までずっと下ってから、向こうに三峰岳、間ノ岳が見える。三峰岳から西に下って熊ノ平。その奥に塩見岳が見えた。長く長く塩見岳が遥か遠い。これから歩くと思うと気がめいる。

 大仙丈ヶ岳から下りにかかるとまた二重山稜。少し下ってからもう一つの尾根を少し登って急に下る。急な下りの最中に単独行のおじさんに抜かれた。おじさんは小屋泊らしく軽い足取りで先へ進んでいった。急な下りのあとは緩やかな稜線歩き。ところどころ花が多く、Iさんにチングルマ、イブキジャコウソウ、ヨツバシオガマ、オトギリソウなどを学びながら下る。

 途中、2780m付近で休む。ハイマツに囲まれた二重山稜の中で乾燥した湿地帯のようだ。ほうけたチングルマが群生していた。この先もハイマツ帯が続き、2676m峰あたりから樹林帯に入り、以降展望はない。2676m峰の下りから苳ノ平にかけてマルバタケブキが群生しているところを何度か見かける。マルバタケブキは一本一本があまり美しくないが、群生しているとひまわり畑のようで美しい。

仙塩尾根
8/8 大仙丈ヶ岳から見た仙塩尾根。
苳ノ平
8/8 苳ノ平手前のマルバタケブキの花畑。

 苳ノ平のピーク自体にフキはなかった。苳ノ平から下り、伊那荒倉岳との間の小ピークで一本。ここで左手にはめていた腕時計のベルトが外れる。もともと異なる時計本体とベルトを合わせたものなのでゆるゆるだったのだ。そこらへんに飛んだはずのベルトの軸を探したがあまりに細く見つからなかった。ここで石を上に置いただけの幼稚な隠し方をした弁当がらを見つけ、あまりの稚拙さにがっかりし回収した。

 しばらく平坦な道を歩くと伊那荒倉岳。たいしてピークというほと高くなく、看板でそれと分かる程度である。平らな山頂だからか「キャンプ禁止」の看板が立っていた。伊那荒倉岳から下ると高望池。道は伊那側の高望池を経由するように伸び、池の端に下りたが、池の水は涸れてただの窪地になっていた。伊那側に水があることを示す看板があったが、水がなさそうだし、水は足りているので。

高望池
8/8 涸れた高望池。
倒木帯
8/8 高望池先の倒木帯。越えたりくぐったり。

 高望池から登り返す。歩き始めてすぐ野呂川越からやってくる単独行の人に会い、高望池の水について聞かれたが、汲んでいないので水場の様子は分からなかった。単独行氏はだいぶ水が少ないらしく、仙丈小屋にも水がないことを告げるとだいぶ落胆していた。

 高望池南のピークから倒木帯になる。倒木を越えたりくぐったり苦戦する。なかなか進まない。下ってから登り返して2499m峰。ハゲたピークで展望があり、暑いがここで一本とる。出したグレープフルーツがみずみずしく、おいしい。


8/8 2499m峰。ハゲていて展望がよい。
横川岳
8/8 横川岳山頂。

 2499m峰からまた樹林帯に入る。二重山稜の溝をたどったりしながら急な道を登り返すと横川岳。展望のないピークで三角点のようなものが設置されていたが、地形図には三角点の表示はない。横川岳から野呂川越へ下る道は途中、道崩れのためか伊那側を巻く道ができていた。巻く道は今年整備されたのか土が安定しておらず、とても歩きにくかった。歩きにくい新道を15分ほどたどり、野呂川越へ。

横川岳
8/8 横川岳の下り。倒木帯を避けるため新しい道を下る。
野呂川越
8/8 野呂川越で一本。

 野呂川越は仙塩尾根で最低の鞍部。標高は2300mで、ここから三峰岳2999mまで700mの登りである。でもここまでの長い尾根、倒木帯、歩きにくい新道でだいぶ疲れてしまった。Yさんが野呂川越という名前にしたがってコルの前後を踏査すると仙丈ヶ岳側に三峰川側に下るらしき踏み跡と古い看板を見つけた。看板の文字は読めないがおそらくこの道をたどって野呂川と三峰川の間を行き来したのだろう。

 野呂川越から3本かけて三峰岳へ登る。ここから両俣小屋経由で北岳に向かう人もいるので、これまで以上に踏まれていないはずである。出だしから倒木があって雰囲気が悪い。それでもはじめの一本は緩やかな尾根で踏み跡もしっかりしていた。すぐ2315.3m三角点を通過する。ピークでもなんでもないところに三角点があり何だか違和感がある。少し急な坂を登ると2488m峰。しばらく平坦なのでここで一本とる。

 次の一本は2699m峰先まで。はじめは2488m峰の平坦な尾根を歩き、2699m峰の登りでIさんがキジ打ちで少し遅れ。次の一本で三峰岳まで登っておきたいので2699m峰を越えて狭い尾根の途中で一本とった。人が来ないので道の真ん中で休む。

三峰岳
8/8 三峰岳へ登る。
三峰岳
8/8 三峰岳の登り。

 森林限界が近い。鎖場もあるが大して緊張もしない岩場だ。ときどき見かけるゴゼンタチバナを見ながら登る。森林限界を越えるとあとは急な上り坂をゆっくり登っていく。見える三峰岳はごつごつした岩山で青空に映える。どこを登るのかルートもよく分からない。ルートは三峰岳山頂のすぐ下で間ノ岳方面にトラバースし、そこから登った。

 三峰岳は女性2人だけで静かなピークだった。私たちは息が切れていて、まず息を落ち着けるのに一苦労した。落ち着いてみれば目の前に間ノ岳が大きく迫る。間ノ岳なんて脇役みたいな名前がもったいない。振り返れば仙丈ヶ岳がずいぶん遠い。よくあんな離れたところから来たものだ。せっかくなので三峰岳の看板の上で間ノ岳を背景に写真を撮った。

三峰岳
8/8 三峰岳への登り。あと少し。
三峰岳
8/8 三峰岳にて筆者。後ろは間ノ岳。

 あとは今日の幕営地、熊ノ平小屋へ下るだけである。熊ノ平小屋へ急な道を下るが、三峰岳の登りで疲れきったIさんが遅れ気味になる。パーティーみんなでペースを合わせ、ゆっくり下る。やがて三国平。農鳥小屋への巻き道が分岐している。広い平で赤石岳南の百間平に似ていた。三国平からまた急に下る。マルバタケブキとコバイケソウの群落の中を急に下り、井川越。伊那側がずいぶん削られており、浸食はまだまだ進行中のようだった。

三国平
8/8 平坦な三国平。
小太郎尾根分岐から小太郎山
8/8 手前のマルバタケブキと井川越、奥に熊ノ平小屋とテント場。

 井川越を過ぎて今日の幕営地、熊ノ平小屋に到着。あちこちにテント場が散らばっているものの、それぞれは広くなく、すでにいくつかテントが張ってあった。私たちは一番北側のヘリポートの一段上のテント場に張った。小屋まで行って手続きすると1人600円だった。ここの水場は面白い。一番の水場は小屋から1分下ったところだが、それ以外にもテント場にも3カ所ほどちょろちょろと流れている。私たちのテントの近くにも水が流れており、容易に水が手に入った。またビールを冷やすこともできた。

 ヘリポートで酒を飲んでいると携帯電話を持った女性がやってきて、電波状況をチェックしていたが、電波は入らないようだった。天気はよい方だが、伊那側から雲がやってきてときどき展望がなくなった。また日暮れ頃、小屋の主人が見回りにやってきて、カモシカがいなくなってシカばかりになった話、昔は高山植物を天ぷらにして食べた話、大横川の浸食が激しく、井川越がどんどん信州側にとられている話など面白い話をたくさん聞いた。


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