山ノ中ニ有リ>山行記録一覧>2008年山行一覧>南アルプス・北岳バットレス第四尾根
先日の例会で北岳バットレスに誘われ、登ってきた。はじめてのマルチピッチクライミングで登れるかどうか、登れなかったらどうしようかと考えていたが、無事登ることができてよかった。
北岳バットレスは北岳の東面にそびえる岩壁。木が少なく、昨年は大樺沢左俣上部からクライマーを臨むことができた。北側から第1尾根、第2尾根、…第6尾根と続くが、その中でも今回登った第四尾根は易しい入門ルート。それでも初めての私には登れるかどうか緊張の連続だった。
1日目 |
2008年7月19日(土) 晴れ |
立川駅集合=夜叉神峠=広河原…白根御池小屋(泊)
広河原 | 11:30 |
11:35 | |
標高1900mくらい | 12:25 |
12:40 | |
標高2150mくらい | 13:20 |
13:33 | |
水場 | 14:00 |
白根御池小屋 | 14:15 |
19:00就寝 |
7:00立川駅集合。Kさんの車に乗って夜叉神峠まで。夜叉神峠から先は一般乗用車乗り入れ禁止なのでバスに乗り換える。今晩のカレーを忘れたので夜叉神峠のおみやげ屋さんで馬肉カレー(1パック500円)を購入。先に食べた感想を述べると、中身は具が細かすぎて馬肉なのか何なのか分からず、たぶん馬肉なのだろうという感じだった。登山口の広河原へ。広河原へのバスは甲府始発のバスで立ちになる。曲がりくねった道で酔う。
終点広河原でバスから下車し、白根御池へ向かう。吊り橋を渡り、広河原山荘の隣を過ぎる。3連休初日とあって人は多い。大樺沢沿いの道を分け、急登を行く。はじめの一本目で沢の音が聞こえるところで一本とる。広河原では流水に「飲料不適」と書かれていたため、水を汲んでいなかったKさんが沢までおりて水を汲んでいた。急登でもう一本とり、あとは水平な道を白根御池小屋まで進んだ。
7/19 きれいな白根御池小屋。 |
7/19 混雑する白根御池のテント場。 |
白根御池小屋は去年と変わらないきれいな小屋だったが、Kさんは新しい小屋を見るのが初めてで驚いていた。何年か前に雪崩で壊されてしまったため、しばらく仮設の小屋だったそうだ。池は濁っていて、飲用にするのは別の沢から引いてきているようだ。池のほとりには雪渓が残っており、涼しげである。しかし、日差しは強く、Kさんがテントの入り口の前に棒切れを立ててツェルトでひさしを作って暑さをしのいだ。池の周りにはすでにたくさんのテントが張ってあった。私たちは小屋から離れた所に張ったが、日暮れにはさらにテントの数が増え、後から来た女子高生+顧問の先生パーティーは雪渓の上にテントを張っていた。
2日目 |
2008年7月20日(日) くもり |
白根御池小屋…大樺沢二俣…bガリーの大滝…第四尾根主稜…北岳山頂…小太郎山…白根御池小屋(泊)
白根御池小屋 | 3:00起床 |
4:15 | |
大樺沢二俣 | 4:34 |
4:37 | |
bガリー取付点 | 5:37 |
5:55 | |
第四尾根取付点 | 7:15 |
第一のコル | 8:11 |
マッチ箱 | 9:52 |
登攀終了点 | 10:50 |
11:15 | |
北岳山頂 | 11:35 |
小太郎山分岐 | 12:10 |
12:23 | |
小太郎山 | 13:10 |
13:20 | |
小太郎山分岐 | 14:18 |
14:27 | |
白根御池小屋 | 15:02 |
19:20就寝 |
本番のバットレスを登る日。夜の明ける4時過ぎにテント場を出る。ほぼ水平な道を歩くこと20分程で大樺沢二俣。大樺沢にはまだ雪渓がたっぷり残っており、左俣をおそるおそる登る。普通の運動靴なので滑りそうで恐い。途中で落っこちている木の棒切れを拾い、ストック代わりにして登る。KさんもKさんも速く、他のヘルメットを持ったクライマーらしきパーティーを追い抜いて行く。私は後ろからのろのろとキックステップでついていく。途中からbガリーに入り、樹林帯に入ると踏み跡がありこれをたどる。雪渓よりはずっと歩きやすいので安心する。
7/20 今日登る北岳バットレス。 |
7/20 雪渓の残る大樺沢左俣を進む。 |
踏み跡をつめると下部岩壁のbガリーの大滝に出る。大滝と言っても水はなく、壁があるだけである。その下に雪渓がたまっているのが滝らしい所か。すでに1パーティーが取り付き、1パーティーが登る準備をしているところだった。私たちも追って準備する。一歩前のパーティーより先に準備できたので次に取付く。雪渓を登ったところで先行パーティーが過ぎるのを待つ。
7/20 bガリーの大滝の下に出てきた。 |
7/20 bガリーの大滝の雪渓を登り、岩に取り付く。 |
bガリーの大滝1ピッチ目。Kさんリード。雪渓と岩の間を進み、岩にとりかかる。今日最初にとりかかるところなので緊張する。でも無事登れた。2ピッチ目、Kさんリード。岩壁の下で待つが、その間に落石があった。上からの「ラーク、ラーク」という声が聞こえ、すぐ壁に伏せるようにくっつく。と、Kさんの方で「ゴッ」という鈍い音がする。落石が終わったあとで聞くとKさんのザックに岩があたったそうだ。幸いケガもなく、ザックの中身も無事だった。ザレた緩い斜面を落石しないようにそっと歩き、途中でおじさんパーティーを追いこす。Kさんの元にたどりついて、そのあとは左手の土の斜面を登り、bガリーの大滝終了。
7/20 bガリー大滝の後、bガリーに迷い込む。 |
7/20 1ピッチ目、dガリーの手前から壁を登る。 |
ここから緩傾斜帯を左に移動する。はじめはbガリーをたどろうとしてしまい、Kさんリードでザイルを伸ばす。しかし、ザレていて途中から登れず引き返した。bガリーの大滝で抜いたおじさん2人パーティーもbガリーに導かれていた。
引き返してからトラバース。途中でcガリーを下から巻いて渡り、dガリーの手前に出る。dガリーにはひとパーティー取付いているのがみえた。キジを打ってある小広いところから今回目的の第四尾根主稜に取り付く。
第四尾根主稜1ピッチ目。Kさんリード。縦にガバホールドのクラックが伸びているので、腕を伸ばして登る。そこを登ると樹林帯の中になり、右へ右へと登って行く。主稜からは少し離れて斜面に出る。そして10mほどトラバースしながら登ってまた主稜に出る。
7/20 樹林帯の中、尾根へトラバース。 |
7/20 2ピッチ目40m III 「白い岩」のクラックをリードするKさん。 |
2ピッチ目。日本の岩場[上]では40m III 「白い岩」のクラック。Kさんリード。いよいよカンテ状の尾根らしいところを登る。中程までは何とか登れるが、途中かぶっているところの右を行くところがあり、ここで苦戦する。右からなら登れそうだが、出っ張った岩で高度感がある。Kさんが追い付いてきてスタンスを指示してくれるのであとはその通りに足を伸ばせばよいのだが、ふんぎりが付かない。5分間程だろうか、私には20分、30分にも感じられたが、緊張した一歩だった。あとは緊張を引きずったまま第一のコルまで上がった。コルと言っても全然谷状になっているわけではなく、ちょっと小広くなっただけのところだ。
3ピッチ目。日本の岩場[上]では20m III リッジ。Kさんリード。はじめの紫色の岩が難しい。真ん中のクラックに足を突っ込んで3歩くらい登る。私は足をクラックに突っ込んで登ったことがないので不安になる。セカンドで私が登るが、右足をクラックに突っ込むと痛い。左足をむりやり横に伸ばし、這うようにして登った。例によって緊張のあとはどんなところを登ったか覚えていない。第二のコルに着く。第二のコルもコルと呼ぶには小さいものだ。正面の支点ではトップが落ちたとき巻き込まれるので、後ろの支点にセルフビレイをとるよう指示されるが、背面なのでビレイをとるときは不安定で恐かった。左手、Dガリー奥壁を登るパーティーがいたが、ずっとクラック沿い、途中2mくらいの垂壁がところどころにあり、難しそうだった。今日はたくさんパーティーが入っている。
7/20 3ピッチ目。20m III リッジ。Kさんリード。 |
7/20 4ピッチ目。35m V 3mの垂壁(V)〜リッジ(III)。 |
4ピッチ目。日本の岩場[上]では35m V 3mの垂壁(V)〜リッジ(III)。Kさんリード。KさんとKさんと2人で「ここが5級のところか、でも4級くらい、濡れたら5級かな」「正面まっすぐ上に登るのが5級で右にずれるのが4級じゃない」と話していたが、私は全然現在地を把握しておらず、コルらしいコルに出ていなかったのでまだ第一のコルの下だと思っていた。Kさんのスタンスをよく観察しておいたのが功を奏したのか、思ったより簡単に登ることができた。その先、傾斜は緩いけれどもナイフリッジになる。右手第1尾根に3人ほどのパーティーが見えた。
7/20 マッチ箱。後方は中央稜。 |
7/20 マッチ箱の懸垂下降。 |
マッチ箱だ。マッチ箱から懸垂下降するが、マッチ箱は作業するには狭い。途中でKさんに先に行ってもらい、準備ができるまで手前で待機する。Kさんが懸垂下降して、私がマッチ箱山頂へ。私が懸垂下降して、Kさんの立っているバンドに乗っかるが、狭い。最後にKさんが降りてくるが、安定したもっと下の凹角部に降りていた。Kさんがトップで登るが、私の立ち位置がじゃまでKさんがなかなか登れない。私がマッチ箱側に腕を伸ばしてできるだけ場所を開けて登ってもらう。周りにはガスがかかり、暑くも寒くもなくちょうどいい。
7/20 5ピッチ目。40m III リッジ状のクラック〜フェース〜左の凹角。Kさんリード。 |
7/20 6ピッチ目。40m III リッジ状のクラック〜フェース〜左の凹角続き。枯れ木のコルを越えるKさん。 |
5ピッチ目。日本の岩場[上]では40m III リッジ状のクラック〜フェース〜左の凹角。Kさんリード。ここは2ピッチに分ける。それなりに難しかったが、慣れもあって何とか登れた。途中でKさんに交代。6ピッチ目で枯れ木のコルを過ぎてクラックを渡り、だいぶ平らかなところに出る。すぐ隣でDガリー奥壁を登る人がルート取りに迷っていた。
そこからはザイルを引いたままコンテで登る。難しいところはない。登攀終了点の広いところに出てそこで装備を解除する。そこから上は花畑の中をトラバースして行く道である。しかし、すぐ上には中央稜の上部が見えており、まだ岩場があるように見える。この先岩場がないことを確認して装備を解除する。やっと緊張が解ける。
7/20 登攀終了点の花畑。 |
7/20 登攀終了点で一休み。 |
花畑の道を左へトラバースして行くと、稜線の登山道に出る。そこから右へ登山道をたどると人でごった返す北岳山頂に出た。3連休で人が多い。山頂の看板で記念写真を撮ってすぐ退散する。さっさと肩の小屋に下る。
肩の小屋も人が多い。小屋の下のテント場は2/3ほどが雪渓に埋まっており、テント場が狭そうだった。その分、少し下の平らなところにテントを張っている人が多かった。小屋の前では椎名誠に似た人がいたが、みんな本人かどうか確証を持てなかった。
7/20 北岳山頂で記念写真。 |
7/20 小太郎尾根分岐から小太郎山。奥に甲斐駒ヶ岳。 |
小太郎山の分岐でKさんが小太郎山の往復を提案する。小太郎山は北岳から北へ伸びる小太郎尾根の末端である。白根御池への分岐から2km北、片道1時間の尾根歩きだ。エアリアマップでは破線の難ルートになっている。北岳に登ったことのある人なら聞いたことのある山だが、縦走路からは離れているためなかなか訪れる人は少ない。実際今回行った3人とも複数回北岳に登っているが、誰も小太郎山に登ったことがなかった。今回、そのままテントに戻ると14時くらいに着いてしまうだろうというKさんの提案の元、小太郎山に行ってみることにした。
7/20 小太郎山往復。ハイマツ帯。 |
7/20 小太郎山往復。樹林帯もある。 |
登山道から少し下でザックを下ろし、小太郎山を往復する。見た目では平らな道がずっと続いているように見える。中程までは道を目でたどることができるが、その先はよく分からない。歩いている人も見えない。はじめは下りだが、北岳ほどは踏まれておらず、ところどころ道も分岐して分かりにくい。意外なことに何人かの単独行者とすれ違った。マイナーピークなので誰も登らないと思ったら隠れた名峰らしい。鞍部あたりから道はヤブにおおわれる。足元には道があるが、腰のあたりはハイマツなどにおおわれている。白い岩の2700mピークから暑い日光に照らされながら進み、やっと小太郎山にたどりついた。暑いこともあり、小太郎山にたどりついたときはみんなへとへとだった。正面には甲斐駒ヶ岳、左手には仙丈ヶ岳、後ろには北岳が見えるが、どの山もわずかに雲をかぶっていていまいちである。山頂には山梨百名山の標が立っていた。山梨においては名山のようだ。小太郎山の山頂のすぐ脇にはテントを張ったような跡があったが、誰か張ったのだろうか。Kさんが話していた小太郎沢から登ってきた人が張ったのだろうか。
7/20 小太郎山に到着。 |
7/20 小太郎山で一本。山梨百名山の標が立っている。後方は甲斐駒ケ岳。 |
小太郎山からの帰りは80mの下り、200mの登りとなり、行きよりつらい。帰りには10人程のパーティーとすれ違った。こんなに小太郎山に人が訪れるのは久しぶりなんじゃないだろうか。
小太郎山の分岐に戻ってひと休み。黄色い花畑の急な斜面を下る。のち、草すべりを下り、白根御池のテントに戻った。
この日は連休2日目で前日ほどテントはなかった。
3日目 |
2008年7月21日(月) 晴れ |
白根御池小屋…広河原=夜叉神峠=立川駅(解散)
白根御池小屋 | 3:20起床 |
4:56 | |
広河原 | 6:08 |
6:30 |
白根御池から広河原へ1時間の下り。途中でこけて左肘を打ち、左肘が内出血してコブのように腫れてしまった。温めていると腫れは引いてきたが、書いている今もまだ血か水が溜まっているようで出っ張っている。6時には広河原に着いてしまった。
帰りは乗り合いタクシーで夜叉神峠に戻った。1,200円。朝が早いため営業している温泉はなく、風呂に入らず帰京した。
はじめてのゲレンデでのマルチピッチのクライミングだが、かなり緊張した。緊張した分、難しいところはたくさんあったはずだが、細かいところは覚えていない。また行くかと問われれば、そのときの緊張も忘れて行ってしまうだろう。
(2008年7月21日記す)