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2006年秋 - 北アルプス・槍ヶ岳東鎌尾根[1/3]


2006年11月3日(金)〜5日(日)
場所
長野県松本市(旧・南安曇郡安曇村)、安曇野市(旧・南安曇郡穂高町)
コース
11月2日
新宿=(特急あずさ35号)=松本=沢渡(泊)
11月3日
沢渡=上高地バスターミナル…明神…徳沢…横尾…槍沢ロッジ…槍岳山荘(泊)
11月4日
槍岳山荘…槍ヶ岳…槍ヶ岳山荘…水俣乗越…西岳…大天井岳…燕山荘(泊)
11月5日
燕山荘…燕岳…燕山荘…合戦小屋…中房温泉=有明=松本=小淵沢=高尾(解散)
参加者
K、K、H、中山
天気
3,4,5日とも晴れ
参考文献
06北アルプス・槍ヶ岳の地図

はじめに

 槍ヶ岳は北アルプス南部の山の一つであり、標高は3180mと国内5番目の高さの山である。形が槍の穂先に似ているためその名前がある。特徴的な形から北アルプスでも人気の高い山であり、私も訪れるのはこれで4回目である。

 正月の合宿がこの槍ヶ岳の北に伸びる北鎌尾根と決まり、その偵察山行に今回のルートが決まった。偵察であれば本来は冬期の予定と同じルートを登らなければならないが、都庁山岳部では去年の秋に北鎌尾根に登っているとのことで今回のルートとなった。今回のルートはいわゆる表銀座ルートの逆コースである。初日は上高地から槍沢沿いの登山道を登り槍岳山荘泊。2日目に槍ヶ岳を往復後、東鎌尾根を下り、西岳から大天井岳を経由して燕山荘に泊まる。3日目に燕岳を往復して中房温泉に下山。中房温泉から登り、上高地に下山するルートの方が一般的(例えば「アルペンガイド15 上高地・槍・穂高」)だが、今回は3連休前にも関わらず夜行列車の快速ムーンライト信州が走っていなかった。そのため前夜発では松本までしか達することができず逆コースの計画となった。

 天気は3日間を通じて晴れで気温も高く、非常によかった。雪も3連休前日に降ったものが北側斜面にわずかに残っているだけでほとんど夏道と変わらなかった。私は槍ヶ岳に行くといつもガスや雨を呼ぶ(3回中3回)ので、今回初めて槍の穂先から展望を楽しむことができた。

0日目

2006年11月2日(木)

新宿=(特急あずさ35号)=松本=沢渡(泊)

 21時JR中央線立川駅集合。夜行列車の快速ムーンライト信州が走らないため最終の特急列車に乗って松本へ向かう。21時までに集合場所のホームに着いたのはHさんと私だけで21時を過ぎてもKさん、Kさんとも現れないので心配する。さらに最終の一つ前の特急、臨時かいじ松本行きの自由席がほぼ満席であったため、目的の特急あずさ35号も座れないおそれも出てきた。そんな不安を二人で共有しているとKさんとKさんが現れた。集合時間でなく特急の発車時間に合わせてやってきたらしい。

 無事予定の特急あずさ35号に乗車。自由席は予想通り満席でとりあえず立つ。八王子で何人かが席を立ったのですかさず座る。席を立ったのはどうやら通勤客らしい。私は大月を過ぎてすぐ寝てしまったが、ほか3人は塩山あたりからすいてきた車両でビールを飲んでいたらしい。

 24時近くに松本に着く。HさんとKさんのうまい会話(「(Hさん)沢渡までいくらですか?」「(Kさん)いま深夜料金だろ」「(タクシー)昼間と同じ値段で行きますよ」…)によって昼間の料金で沢渡までタクシーに乗る。約1時間で沢渡まで。沢渡について去り際にタクシーの運転手さんに柿とオロナミンCをもらう。柿は友達からもらったものの嫌いだかららしいが、オロナミンCはよく分からない。沢渡の屋根付きバス停の下にテントを張って1:20就寝。

1日目

2006年11月3日(金) 晴れ

沢渡=上高地バスターミナル…明神…徳沢…横尾…槍沢ロッジ…槍岳山荘(泊)

コースタイム
沢渡5:00起床
5:25
上高地バスターミナル5:42
6:20
明神7:11
7:25
徳沢8:10
8:27
横尾9:16
9:36
二ノ俣谷10:23
10:37
槍沢ロッジ11:00
11:03
槍沢キャンプ場11:29
11:47
大曲り先2250m付近12:35
12:50
天狗原分岐13:08
グリーンバンド下13:36
13:53
坊主ノ岩小屋14:20
殺生ヒュッテ分岐下
2850m付近
14:44
14:57
槍岳山荘15:44
21:20就寝

 5:25起床。4時間睡眠とだいぶ眠い。外はまだ真っ暗。それでもタクシーが何台か停まっていて入れ替わり話しかけてくる。そのうちの1台に乗って出発。ものの20分ほどで上高地バスターミナルに着いた。沢渡から上高地バスターミナルまで3500円。沢渡〜上高地間は今年から定額制になったらしい。

 タクシーからザックを下ろしてザックを背負うときにザックのバックルが壊れてしまう。歯止めの2つのうち1つが壊れてしまっただけなので使えないわけではないが、さい先悪い。気温は低く、バスターミナルのスタッフも「今日は寒いね」と話していた。

 トイレによったり水を汲んだりしているうちに夜は明け、だんだんと空の様子が分かってきた。はじめは稜線が霞がかっていたが、河童橋まで来ると西穂高岳から奥穂、前穂、明神岳にかけて稜線に日がさし、明るい。今日はいい天気になりそうだ。

穂高岳
11/3 河童橋から見た穂高岳。梓川に朝もやがかかる。
河童橋
11/3 河童橋で集合写真。

 今日は槍沢沿いに20kmほどひたすら歩いて槍ヶ岳山荘まで。難しいところはないが、長い。実際9時間20分かかった。

 まず明神まで。上高地は夏しか来たことがないが、夏に比べて格段に人が少ない。一方でまだ雪もなく景色は秋らしいので得した気分だ。すっかり夜が明けると梓川の対岸に明神岳がよく見える。上部は岩でなかなか風格のある山だ。明神岳の東側にギザギザの尾根が伸びており、Kさんはいつか登ってみたいなと話していた。その尾根を見てHさんと私は道なんかあるのだろうかと話していた。「日本登山体系」によればその尾根は明神岳東稜と呼ぶ尾根らしい。

 明神でトイレによる。その間に若者3人パーティーが大きなザックを背負って梓川を対岸へ渡って行った。明神岳へ登るのかもしれない。さらに徳沢へ。稜線には日は当たるものの谷にはまだ日は射さない。梓川沿いの道で少し高台を歩くところからは谷にうっすら霧がかかっているのが見えた。新しく買ったプラスチックブーツの調子も良い。

明神への道
11/3 河童橋から明神への道。木々は葉を落とし、あとは雪を待つだけ。
明神岳東面
11/3 明神岳東面。

 徳沢を渡ったところで向こうから20人くらいの団体が歩いてきていた。だいぶ寒くなったがまだ団体旅行で上高地行きが企画されているようだ。徳沢で一本。徳沢で谷まで日が射してきた。日に当たると温かい。それでも足元には凍った水たまりに霜の降りた枯れ葉があり、今晩の寒さに耐えられるか心配であった。川を渡って横尾へ。思ったよりすぐ新村橋。横尾までの道は夏に崩壊しているところがあったが、この秋までには修復されたらしく崩壊地はなかった。

 横尾で一本。天気がよく、横尾大橋の向こうに前穂高岳と前穂北尾根が見える。雪はほとんどなく、今年は雪が少ないらしい。おそらく10月はじめの3連休に降って以来積もるほどの雪は降っていないのだろう。横尾山荘と山荘前の看板からは湯気が出ており、おそらく霜が解けて蒸発しているのだろう。大量の湯気が出ているところを見ると相当霜が下りていたのようだ。

横尾大橋
11/3 横尾大橋。ここまでは人も多い。
二ノ俣谷の吊り橋
11/3 二ノ俣谷の吊り橋。冬支度で橋桁が外されている。

 横尾から一ノ俣谷、二ノ俣谷を渡って槍沢ロッジへ向かう。ここからは車の入れない道である。平坦な道だがときどき槍沢の近くに出て上下する。雨の後だと道がドロドロになって歩きにくいところだが、今回は直前に雨が降ることもなく気持ちよく歩けた。一ノ俣谷の手前で槍見河原。特に目立つ看板はなかったが先頭を歩くKさんが気づいた。一ノ俣谷を渡ってしばらくで二ノ俣谷。二ノ俣谷は橋桁が外されており、真ん中に幅20cmほどの板がまっすぐ通してあるだけだった。内股ぎみに慎重に歩く。

 二ノ俣谷を渡ったところで一本とる。KさんがKさんの麦チョコを接収して食べ、さらにKさんの麦チョコと私のセサミサブレを交換していた。Kさんは特に怒ったりせずそのようすを眺めていた。

 次の一本は二ノ俣谷から槍沢ロッジを通って槍沢キャンプ場まで。二ノ俣谷出合を過ぎてすぐ槍沢沿いの道になる。前回槍沢を下るとき朝日が水面に輝いて美しいと感じた場所だ。今回はだいぶ日が高く水面からの照り返しはなかったが、沢沿いで気持ちいい場所には変わりない。やがて傾斜が増してきて小さな沢を渡り、「槍沢ロッジまであともう少し」の看板が現れると間もなく槍沢ロッジ

 槍沢ロッジは小屋じまいの最中のようであった。槍沢ロッジでこの先の水場を確認する。横尾から見た前穂高岳には雪が少なく、雪を解かして水を得ることが難しそうだからだ。小屋の煙突の一部をはずして掃除している人にこの先の水場を尋ねる。曰く、確実に水があるのは槍沢ロッジが最後。次の槍沢キャンプ場の水は涸れている。その先、グリーンバンド下ならば水があるかもしれないが保証できない。槍岳山荘では水を買うことができる、とのことであった。なら槍岳山荘で水をもらえばよいだろうということで水は汲まずに進む。グリーンバンドってなんだろうと思ったら天狗原分岐と坊主ノ岩小屋の間にある帯状のハイマツ地帯のことであった。エアリアマップには載っているし、アルペンガイドには地図には示されていないが、文章中に記述がある。

 槍沢ロッジからは赤沢山からのガレ沢をいくつか渡りながら進む。そんなガレ沢の途中で下ってくる人に会う。単独で徳沢から天狗原を往復してきたそうだ。そして開けた槍沢キャンプ場。キャンプ場だけあって開けており、槍沢の上流がよく見える。見える槍沢は水がすっかり涸れており、このキャンプ場に引いてあるはずの水もまったくなかった。Hさんが不安そうにこの先水があるだろうかと述べると、Kさんは対岸の横尾尾根から水が下っているのをさして、ここから先でも水は流れていると言っていた。

槍沢キャンプ場
11/3 槍沢キャンプ場を過ぎて。
サル
11/3 サル。

 ここで一本。タクシーの運転手さんにもらった柿を食べる。背後の赤沢山はガケで槍沢に迫っているが、Hさんは赤沢山を蝶ガ岳と間違い「蝶ガ岳もここから見ると立派だねえ」と述べていた。開けた槍沢の先には東鎌尾根の水俣乗越付近が見える。

 槍沢キャンプ場からもいくつかガレ沢を渡る。その一つではどこかから引いたパイプから水が出ていた。槍沢キャンプ場ではテントが一つだけだったが、キャンプ場には水がなかったので水を手に入れるとしたらここで汲むしかないのだろう。

 水俣乗越への道を分けて大曲り。このあたりから登りはきつくなる。その割に見えるのは大喰岳や中岳で肝心の槍ヶ岳は見えない。天狗原分岐下の2550m付近で一本とる。槍沢にはサルが20頭ほどおり私たちを見て移動したり、毛繕いをしていた。交尾までしているサルもいた。人は少なく逃げる様子はなかった。むしろ人間の方が少数なので休みながらサルと戦って勝てるかなんて話をした。

 ここまでKさんが先頭で歩いてきたが、すぐ後ろを私が歩くのが嫌だったらしく、私が先頭を歩くことになる。ジグザグ道を登り天狗原分岐。分岐から見る天狗原への道は不明瞭で続いているのか不安だった。振り返ると横尾尾根の北側斜面に昨日降ったらしい雪が積もっていた。午後になって雲もだんだんと増えてきた。少しずつ後ろと離れてきてグリーンバンド下の水場で一本とる。

天狗原分岐
11/3 天狗原分岐を過ぎてから登りがつらい。
槍ヶ岳
11/3 槍ヶ岳が大きくなってきた。

 グリーンバンド下の水場は涸れずに流れていたがつららもあった。夜は相当寒そうだ。そこには「殺生ヒュッテは本年度の営業終了しました」という看板があり、その次には「肩の小屋まで行けそうもない方は下へもどって下さい」という追記があった。無理する人もいるのだろうか。ここまでくるとかなり標高が高く、後ろの赤沢山と大して標高は変わらないように見える。

 グリーンバンドを越えて行く。グリーンバンドは思ったより短く、すぐ越えられた。グリーンバンドを越えると谷は平坦になって歩きやすい。いよいよ目指す槍ヶ岳も間近に見える。道はいったん大喰岳側によってから登って行く。坊主ノ岩小屋には播隆上人が53日間ここに籠っていたと看板があった。私だったら夏とはいえ昔の着物でここに53日間も籠れないなと思う。

 坊主ノ岩小屋を過ぎて殺生ヒュッテ分岐の手前の黒岩というところで一本。2850m付近である。ヒュッテ大槍への道には気づかなかったが、東鎌尾根の斜面には急斜面をジグザグに登って行く道があった。時刻は14時を過ぎ、日は横尾尾根に隠れてしまっている。休んでいるところは日陰で寒く、1枚上を着た。まわりには雪がちらほらと見られる。

 そこからしばらくで殺生ヒュッテへの道を分け、いよいよ槍ヶ岳山荘へのツメに入る。この槍ヶ岳山荘への道が急でつらい。振り返れば天狗原も下なのだが、上を見て歩いてもなかなか槍ヶ岳山荘が近づかない。最後に息を切らせながらジグザグを登って行くとやっと槍ヶ岳山荘に着いた。

最後の登り
11/3 槍ヶ岳山荘へ最後の登り。後方の天狗原は雪で覆われている。
槍の穂先
11/3 槍の穂先。

 坊主ノ岩小屋付近でKさんに指示された通り、テント場の手続きと水の確認をする。テント場は1人500円、テント泊の人は少ないらしく夏のように場所の指定はなかった。水とトイレは小屋の中のものを使ってくれと言われた。夏のトイレはすでに閉じてしまったらしい。

 手続きをすませるとHさんとKさんが追いついてきた。Kさんは荷が重いらしく私より30分ほど遅れてやってきた。各自水を汲んでテント場に移動。テントを立てたら私は水汲み第二弾に、KさんとKさんはデポ缶を冬期小屋に置きに行った。私は小屋に入って水を汲んでいると水の出が悪くなりやがて水が出なくなってしまった。小屋の人を呼んだが誰も出てこなかったのでそのままにして出た。天水と書いてあったので明日の水がなくなってしまったのだろうか。少し不安になる。

 小屋を出るとき右手上方に槍ヶ岳のライブカメラを見つけた。今回の山行の前に雪の量を確かめるために槍ヶ岳山荘のウェブサイトからこのライブカメラを見たので探してみたのだった。屋根の上に単管パイプで汲まれた台があり、カメラがしつけられていた。なんだか観測っぽい。

 冬期小屋は小屋のうち槍ヶ岳に近い側でてっぺんみたいなところにあった。

 この日は遅かったため槍ヶ岳山頂には登らずテントに引っ込んだ。晩飯は豚汁であった。夜の寒さを懸念していたが、パッチ(毛下着)のおかげで1度しか起きずよく眠れた。


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