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2003年秋 - 足尾・袈裟丸山[1/2]


2003年10月25日(土)、26日(日)
場所
栃木県上都賀郡足尾町、群馬県勢多郡東村/足尾
ルート
10月25日
わたらせ渓谷鉄道沢入駅…楡沢川遡行…二子山…袈裟丸山…小法師尾根分岐…六林班峠ピストン…小法師尾根分岐(泊)
10月26日
小法師尾根分岐…小法師岳…巣神山?…餅ガ瀬川林道=わたらせ渓谷鉄道原向駅
参加者
中山(B4, 単独行)

足尾・袈裟丸山の位置

はじめに

 私は県境を歩くのが好きだ。私に限らず山を歩く人は日本地図を見て前にここに行った、今度ここに行ってみたいなどと考えることが多いと思う。地図でみると山と山を結ぶ尾根が県境になっていることが多い。そんなところにふと行ってみたくなる。県境は北アルプスや南アルプスのように登山者がたくさん入っているところもあれば、この皇海山周辺のような静かで、人も少ないところもある。静かな山を好む私は多少の困難があってもそんな山に行きたいと思うのである。ただ惜しむらくはそんな私の趣味についてくる人はおらず、単独行になってしまうことだ。

 昨年日光白根山から皇海山までの群馬県と栃木県の県境の縦走をやったのだが(日光白根山〜皇海山縦走の項参照)、本当はこの袈裟丸山までの縦走のつもりだった。そこで考えたのはやはり残った部分の縦走。ルートは同じところを通らないようにして、わたらせ渓谷鉄道沢入駅から入り、小法師尾根を下ることにした。前に来たときは北から六林班峠まで行ったので、今度は南側から六林班峠まで往復することにした。

0日目夜〜1日目

2003年10月24日夜〜25日

わたらせ渓谷鉄道沢入駅…楡沢川遡行…二子山…袈裟丸山…小法師尾根分岐…六林班峠ピストン…小法師尾根分岐(泊)

1日目コースタイム
わたらせ渓谷鉄道
沢入駅
7:30
7:37
楡沢林道終点8:31
8:47
二子山西尾根
1358m峰
9:57
10:12
小丸山避難小屋11:27
11:49
前袈裟山12:25
後袈裟山12:51
13:02
奥袈裟山14:12
奥袈裟山北のコル14:23
14:33
小法師尾根分岐
(ツェルト設営)
15:03
15:23
男山
(気象通報)
15:55
16:20
六林班峠南
(前回迷った所)
16:34
小法師尾根分岐17:30
19:05就寝

 24日金曜夜、大学を出て東武桐生線相老駅へ向かった。この駅がわたらせ渓谷鉄道の乗換駅になる。ちょうど工大祭の日だったので、桜並木にはいくつか模擬店のテントが並んでいた。桐生駅へは浅草から3時間ほど。駅を出ると田舎なのにアパートが立ち並んでいた。駅舎は閉められてしまったので、跨線橋で線路を渡ってその下のベンチで寝た。線路のどちらがわにもトイレがあったので、水を汲んでおいた。

 25日土曜、5:50ごろ起きる。日があがり始め、人が階段を登っていく。6:33発間藤行きの列車に乗るべくホームへ移動。そしたら早すぎた。待合室の中にいて3枚着ているのに寒い。またシュラフを出すわけにもいかず、ブルブル震えながら列車を待った。桐生へ向かう列車にはたくさん乗り込んでいたが、私の乗る間藤へ向かう列車はガラガラだった。さすがにまだ眠かったので、乗り込んですぐ寝る。列車の中は暖かく、寝るには最高だったので、沢入駅で降りるときはちょっとだけ山に登るのがためらわれた。

 沢入、「そおり」と読む。沢入駅に降りると列車の時刻を見に来たおばちゃんに「袈裟丸山に登ってきたのか」と話しかけられた。これからだ、と答えるとやる気が急上昇してきたので、のっしのっしと歩き出した。

 今回の山行のコンセプトは群馬・栃木県界尾根の延長を意識して、渡良瀬川から袈裟丸山までも県境を行くことにした。そうすると、楡沢集落の北の尾根を行かなければならない。ものすごいヤブでも困るので、アルペンガイドには「廃道」と示されている楡沢川沿いの道を行くことにした。

 楡沢川を渡って道に入る。すぐ楡沢の集落があるが、もはや集落としてその姿をとどめておらず、一軒、人が住んでいるかどうかわからない家があるだけだった。次はガレのように石の切りくずが捨てられているところに出た。ここは石の産地らしく、楡沢川までの道でも石屋があった。ここには石を切るためと思われる直径1.5mほどの大きな回転刃があったが、すでに錆びきって使えるものではなさそうだった。

 何度か車だと通行が難しそうなところを経て、車道終点。あたりまえだがまったく人に会わない。のびのびと自然を満喫しながら歩く。この車道終点で休む。二万五千分の一地形図だと三俣になって右俣沿いに道のあるところだ。しかし、探してもこの右俣沿いの廃道を見つけられることはなかった。かわりに本谷にあたるであろう、左俣に道がついていたのでこれを行くことにした。

楡沢川林道終点
楡沢川林道終点。ここから薮をまじえながら沢の横を登って行く。
県境尾根に出たところ
県境尾根に出たところ。広い尾根。

 道は途切れたりしながらもしばらく左俣沿いに続いている。ザレて道がなくなったかと思うと橋があったりする。925m二俣まではときどき踏み跡を見つけることができた。水流はここで切れて、しばらく行くと大きな岩が積み重なった急登になる。ヤブが多く、横の植林帯に逃げてもヤブ。嫌なツメだ。そのうち獣道を発見し、それをたどっていくと広い尾根の一端に出た。左手二子山方向に小さなコブが見えたのでこれを越えて一本とる。

=

 だいぶしんどい登りだったので、長めに休む。広い尾根で、道はない。あったのかもしれない。広くて快適なのでここでツェルトを張って寝てしまいたいくらいだ。しかし、まだ二本目。先へ行く。

 もう一つ小さなコブを越えるとそこはかなり広い丘が広がっていた。木が生えているところもあれば、枯れた草が広がっているところもある。テント張り放題、人ひとりいない、道もない。広いところに自分しかいないというのは気持ちがいい。しかし、逆にいえばガスにまかれれば、どこへも行くことができない。実際、見通しはよかったが、二子山が3つの山で構成されているように見えてどこから登るのか少しわからなかった。適当な尾根に取り付く。とりつくと水の音が聞こえてきた。わずかに溝になっているところがあったので、探せば水があるのかもしれない。

 尾根を登っていくとまわりはササヤブになり、二子山の二つの山の鞍部を経由するようにして歩く。けっこうな急登ののち、二子山山頂。ここからは道があり、赤テープもあった。一ヵ所、やはり尾根が広くてどこに行くのかわからないところがあったが南側に道が曲がっているだけだった。そして折場口からの道と合流する直前、針葉樹が直立する見事な林を通った。

二子山に登る
二子山に登る。紅葉が始まっている。
袈裟丸山が見えた
袈裟丸山が見えた。しかし、雲をかぶっている。

 折場口からの道と合わさってから1607m峰に登る。1607m峰には雨量観測計があり、そのあとの道がわかりづらい。ここで3人パーティーを抜く。私は一応わたらせ渓谷鉄道の始電で来たので、けっこう早いはずだが上には上がいるもんだと思った。もっとも私は道でないところから来たので、その間に抜かされたのだろうと思っていた。しかし、歩いていると袈裟丸山から下ってきている人がいる。速すぎる。いくらなんでも速すぎる。私と一緒に始電に乗り、沢入駅で降りた人間はいないのだ。この人たちも走っているわけではないし、もっと簡単にアプローチできるルートがあるのか、前夜下の宿で泊まって夜明け前から歩いているのか、不思議に思った。もっと人が少なそうなものだと思っていたが、小丸山避難小屋まで5パーティーくらいに会った。

 小丸山を巻き道で巻いて、下りつくと小丸山避難小屋。黄色いカマボコ形の避難小屋だ。ここで水を手に入れておく。小法師尾根の分岐でも庚申川の源流まで行けば水が手に入るらしいが、念には念を入れておく。水はゆるやかな南面を下っていったところにある。水は比較的早く見つけられるが、たまっている水で、流水でない。流水を手に入れるには少し下る。水が伏流する直前に流れているところを見つけた。もどって休む。ここは小屋の周りが広いので、テントも張れる。

小丸山避難小屋
小丸山避難小屋。水を汲みに行く。
前袈裟から後袈裟へ
前袈裟から後袈裟へ。鞍部は八反張のコルと呼ばれる崩壊地。

 前袈裟へ登る。前袈裟、後袈裟、中袈裟、奥袈裟で構成される袈裟丸山の一番手前の山だ。はじめに尾根のようなところに出て、5人ほどのパーティーをやり過ごす。さらに土の斜面を登るところでおばさん6人ほどをやり過ごす。へんぴな場所にある山だからほとんど人がいないと思ったら、ずいぶんたくさん人がいた。でも泊まるだけの荷を持っている人間はわたし一人だけだった。すれ違うときに聞くとみんなマイカーらしい。前夜のうちに折場口まで来て朝歩き出すとこのくらいの時間らしい。これだけの人が歩いているところを見ると、相当の数の車が折場口に停まっているに違いない。これから小法師尾根に行くことを伝えても、小法師尾根を知っている人は一人だけだった。

 登りついてしばらく尾根歩きして前袈裟。3パーティーくらい休んでいる。休んでいる人の一人に写真を撮ってもらった。自動フラッシュがたかれたのでそこそこ暗い天気だったのだろう。山頂を通過し、北へ。シャクナゲの中の道を行くと急に下りになる。真正面には日光白根山と男体山が見えた。下っていくと向こうから来る人に会った。ザックは小さかったので、日帰りらしい。下りつくと八反張のコル。両側から崩壊が進んでいるが、土の斜面で切り立っているという感じはない。稜線に沿って鉄パイプが杭代わりに並んでおり、これに頼って通過する。土で滑りやすかった。後袈裟への登り返しはけっこうしんどかった。やや風邪気味でのどが痛かったのもきいた。

日光男体山
前袈裟から日光男体山が見えた。
前袈裟からの道
前袈裟からの道。後袈裟までは道が明確にある。

 後袈裟にたどり着いて一本とる。狭い山頂で、このあたりの地図を示した立派な看板が立っている。振りかえると「八反張のコルは崩壊して危険なので通行禁止」という看板が立っていた。寒いので先を急ぐ。

八反張のコル
八反張のコル。足場が不安定。
ガケ
後袈裟から奥袈裟へ。栃木県餅ガ瀬川側が崩壊して切り立っている。

 ここからは篤志家向けのコース、いいかえれば物好きのためのコースとなる。ルートファインディングと登り調子の登下降が繰り返される道だ。踏み跡がはっきりせず、ヤブを一歩踏み出すと踏み跡があった、という感じである。倒木も多く、下をくぐろうとしたらザックのひもが引っかかってしかたなくザックを下ろしてはずしたなんてこともあった。東側栃木県の餅ガ瀬川側はところどころ切れ落ちており、誤って東よりにいくとがけの上だったりした。

 概して登りのしんどい道を行き、奥袈裟山に着いた。できれば一本で小法師尾根分岐まで行きたかったので、写真を撮って通過する。この後袈裟の前後どちらかに岩を2メートルほど登るところがあったが、困難ではなかった。しんどくなって後袈裟北のコルで一本取る。シャクナゲの中の緑の濃い稜線だ。

 次の一本で小法師尾根の分岐、今日の寝床まで。1961m峰ぐらいからササが出てきて尾根の分岐は上は針葉樹林帯、足元は笹原になっていた。ここにツェルトを張り、六林班峠を往復する。笹の上に無理やりツェルトを立て、中にザックを入れると笹が寝てくれた。時刻は15時。今から行くとなると途中で気象図とることを覚悟せねばならない。しかし、明日六林班峠を往復するのは甚だめんどくさいので、気象図とラジオを持って六林班峠へ向かった。

 真正面の法師岳を登る。道はわからないが、緩やかな斜面にひざ上くらいの笹が生えているだけなので、適当に歩く。大した登りもなく法師岳。小さな看板が木に打ちつけられていた。このあと、やや広い尾根を道を探しながら歩くと、北面に急な斜面が現れた。ここを下るのはしんどそうなので、西側群馬県側から迂回する。はじめは道らしきものがあったが、下っていくと道はなく、こっちの方が下りやすかったので、適当に歩く。下りついて法師岳と男山の鞍部に着く。笹の丈は胸くらい。男山への登りになると背丈ほどになり、視界がなく、苦しい。この登りでわずかに開けたところを見つけ、気象図をとる。二つ台風が来ているそうで、天気が崩れると予想した。

小法師尾根
明日行く小法師尾根。全体的に穏やかな印象を受ける。
夕日
六林班峠へのピストンの帰り。日が落ちる。

 特にマークもない男山を過ぎると肩ほどの笹。部分的に頭を越える。下り道だから簡単に越えられるが、帰りはこれが登りになるので、やや不安になる。右を見ると明日行く男山北のコルに着いて、前回ここまで来たのを思い出せた。さらに六林班峠へ。ササヤブのない樹林帯に入る。そして北側が急な斜面になっていて前回迷った地点についた。予定は六林班峠までだったが、日も傾いてきたのでひき返すことにする。「前回行ったところの先の県境稜線を歩く」という目的は達成されたからだ。

 笹の高い男山への登り返しは群馬側を巻いた。道があるわけではないが、笹は腰くらいなので稜線の肩ほどのササヤブよりはよい。そのまま男山を巻き、法師岳との鞍部に着いた。日は地平線に限りなく近づき、地平線は赤く染まり出す。なんとか日の暮れる前に法師岳の急な登りをこなしておきたい。ここも群馬側から登っていった。法師岳への登り返しで日は暮れてしまった。薄暗い静けさが山を包む。山の中に自分一人ということが改めて知らされる思いだ。ヘッドランプを持ってきていたが、まわりを見渡せないのでランプをつけずに歩いた。月明かりがあるわけではないが、一度歩いているし、目が慣れてきて歩くことはできた。わりとすんなり法師岳の山頂まで戻れた。しかし、ここからの下りが怖い。尾根が広いので、ツェルトを見つけられない可能性がある。栃木県よりにツェルトを立てたので、栃木よりに目を凝らしながら歩く。しばらく笹の斜面を下っても見当たらない。ちょっと不安になってヘッドランプをつけ、地図を見る。かなり近いと思うが、通り過ごしてしまいそうでどきどきする。しかし、そこから20mほどでツェルトを見つけた。

 ツェルトにもぐって落ち着く。メシを食い、シュラフに入ってラジオを聞きながらボーっとする。考えてみると前回日光白根山からの縦走のとき、六林班峠であきらめたのは正解だと思った。足が痛かったのもあるし、ヤブの濃さで言っても日光白根山〜袈裟丸山間でもっともヤブが濃いのはこの六林班峠〜法師岳間だと思うからだ。人の背丈以上の笹はたぶんこの区間にしかない。ほかは見とおしがきく分、注意すればなんとかなるので、やっぱりこの区間が一番難しいように思う。前回六林班峠で敗退した言い訳になるが。


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