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2011年春 - 北アルプス・鹿島槍ヶ岳天狗尾根[2/2]


2011年4月29日(金・祝)〜5月3日(火・祝)
場所
長野県大町市
ルート
4月28日
新宿=(高速バス)=松本駅(泊)
4月29日
松本=信濃大町駅=大谷原…アラ沢出合…天狗尾根2120m峰(泊)
4月30日
天狗尾根2120m峰…天狗尾根2590m付近(泊)
5月1日
天狗尾根2590m付近…鹿島槍ヶ岳北峰…鹿島槍ヶ岳南峰直下(泊)
5月2日
鹿島槍ヶ岳南峰直下…布引山…冷池山荘…赤岩ノ頭…高千穂平(泊)
5月3日
高千穂平…西俣出合…大谷原=信濃大町駅=松本
参加者
K、W、H、中山
参考文献

3日目

2011年5月1日(日) 雪のち雨、西風強し

天狗尾根2590m付近…鹿島槍ヶ岳北峰…鹿島槍ヶ岳南峰直下(泊)

コースタイム
天狗尾根2590m付近2:00起床
5:30
鹿島槍ヶ岳北峰7:15
鹿島槍ヶ岳南峰8:30
鹿島槍ヶ岳南峰直下8:45
18:40就寝

 2:00起床。鼻がつまって頭が痛い。天気はくもり。

 今日は鹿島槍ヶ岳を越えて牛首尾根を下れるところまで下る。歩きだしを早めるため、手間のかからないラーメンを食べる。

ライチョウ
5/1 雪面を登っているとライチョウがてくてく歩いていた。
天狗尾根
5/1 高度感のある登り。

 昨日雷雨のため登れなかった雪面を登る。Kさんがトップ。まだ朝なのに雪がゆるくズブズブと沈む。傾斜も急で登りにくい。ワンピッチ上がり、なだらかな雪面を登ると東尾根を合わせる。東尾根にはトレースがあり、吊尾根状の稜線をたどっていく。風が強く、北峰はガスに覆われ、どこが頂上か分からない。コンテでWさんがトップで進んでいく。やがて細いリッジをたどっていくと北峰に着いた。北峰はガスの中で標柱も見つからずここが山頂なのかどうか分からない。

北峰
5/1 ガスが一瞬切れて北峰がみえた。
北峰
5/1 北峰から下る。

 北峰から鞍部に下り、南峰へ向かう。雪がゆるく、踏み抜くと腰ほどまで落ちる。ザックも重く、脱出に時間がかかる。ところどころハイマツが出ている。私がトップだったが、あまりに進まないので途中でKさんがトップに出た。鞍部から南峰に一気に上がる。

 息を切らせてたどり着いた南峰は北峰と同様ガスの中であった。私の後ろから登ってきていたWさんが追い抜く形でKさんに近づくと、Kさんは「人が遭難しているから下山しよう」と声をかけた。見るとKさんの脇に標柱があり、ザックがおいてある。ここからWさんがトップをきって進み、私はそれについて行った。稜線の少し先にもう一つザックが見えた。

 予定は南峰から牛首尾根の下降であったが、下山することになり冷池山荘方面へ下る。南側斜面になると強烈な西風が黒部側から吹きつけ、にわかには動けない。風の息を見定めながらゆっくり下り、ハイマツ帯まで下りる。一番後ろのHさんが慎重に下り、バックステップで下っていた。このペースでは冷池山荘まで辿りつけないと判断し、Kさんがハイマツの東側に穴を掘り、Wさんがツェルトを出してかぶり風を防いだ。さらにすぐ近くを整地し、幕営した。私は強風と雨で低体温症気味になりツェルトの中から動けなかった。

北峰
5/1 南峰の登りにかかるまえにスタカットの体制を整える。
北峰
5/1 南峰から少し冷池山荘方面へ下り、そこでテントを張った。

 テントを立て、私が中で銀マットを引いている間に声をかけてくる人がいた。冷池山荘の人が2人、遭難者の確認に来たようで、こちらの名前を聞き、もし下るようなら一緒に下るかと声をかけてきた。すでにテントを立てていたので今日はここで一晩を過ごすことにし、小屋の人には断った。

 テントを張っても外は強風と雨。テントはあおられ、雨は染み込み、角には水たまりができてさざなみが立っていた。その角に座っていたKさんは反対側に避難した。体はずぶ濡れでストーブをつけてもなかなか乾かない。

 南峰で遭難している人についてKさんに聞いたら、ザックを背負ったまま黒部側を向いて倒れていたとのこと。強風が吹いていたため、私はザックには気づいたもののそれを背負っている人には気付かなかった。翌日小屋の人にも聞いた情報を総合すると、4月30日に東尾根を登った2人パーティーが南峰に着いたとき落雷を受けた。1人が亡くなり、1人が重症を負った。重症の1人がザックを置き、冷池山荘にたどり着き救助を要請した、ということのようである。幸か不幸か私は遺体に気づかなかったのでそれについて嫌な思いをすることはなかった。

 5月2日の信濃毎日新聞によると以下のとおりである。

 1日午前7時11分ごろ、北アルプス・鹿島槍ケ岳南峰付近で女性が落雷に遭って意識不明となり、同行の男性が救助を求めてきたと、近くの山小屋から大町署に連絡があった。同署は天候が回復し次第、ヘリコプターで救助する方針。

 同署によると、2人は関西方面から訪れ、29日に登山口の大町市大谷原から2泊3日の予定で入山。途中の尾根でテント泊し、30日に頂上へ向かったが、南峰に差しかかった午後3時ごろ、落雷に遭ったという。男性は山中で一夜を明かし、朝になって山小屋にたどりついた。2人は40~50代とみられるという。

信濃毎日新聞[信毎web] 鹿島槍で落雷、女性意識不明 同行男性が救助要請

 天気図を描くと日本海にある低気圧の寒冷前線が通過中であり西日本は全体的に雨であった。じゃんけんで寝る場所を決めたが、一番勝った私が一番低いところになってしまった。夜はテントからシュラフへと水が染み込み寒くてあまり眠れなかった。

4日目

2011年5月2日(月) ガスのち晴れ

鹿島槍ヶ岳南峰直下…布引山…冷池山荘…赤岩ノ頭…高千穂平(泊)

コースタイム
鹿島槍ヶ岳南峰直下4:42起床
8:07
布引山8:40
冷池山荘9:21
10:03
赤岩ノ頭10:32
赤岩尾根2210m付近11:45
12:10
高千穂平12:28
20:40就寝

 すでに下山を決めたため、起床時間を決めなかったら4:42に起床した。あまりシュラフが濡れてあまり眠れなかったが、それでも横になっていたのである程度疲れはとれた気がする。外においたピッケルやアイゼンはすっかり雪がつき、ハイマツには海老の尻尾も付いていた。

雪
5/2 外においておいたピッケルやアイゼンはすっかり雪に覆われていた。
布引山
5/2 鹿島槍ヶ岳南峰を下り、布引山へ向かう。

 テントをたたむ頃に2人組がやってきた。どうやら冷池山荘から往復のようだ。その2人を追うようにして出発する。明け方になってやっと風も弱くなってきた。下るにつれてガスもだんだんとれてくる。布引山の登りにとりかかる頃には青空も見えてきた。布引山から黒部側へ下る尾根に迷わないかが不安だったが、尾根が見えて安心する。Kさんは持ってきた一眼レフを取り出し写真をとっていた。振り返ると予定していた牛首尾根が白い稜線を弓なりに伸ばしていた。

布引山
5/2 布引山に着くころは晴れ間が見えた。
布引山
5/2 布引山の下り。

 布引山から冷池山荘へ下る。稜線は富山側に積雪が少なく、長野側は積雪がある。ところどころ雪庇が発達しているところもあり、竹竿に結ばれた赤布とトレースを頼りに歩いて行く。ときどき冷池山荘から登山者がやって来る。鹿島槍ヶ岳の往復を目的にしているのだろう。

冷池山荘
5/2 冷池山荘。
鹿島槍ヶ岳
5/2 赤岩ノ頭に登り、鹿島槍ヶ岳を振り返る。

 やがて冷池山荘に到着する。気温も上がってきて暑いので上下の毛下着を脱ぐ。その際、アイゼンを外したらアイゼンの一部が破断しているのに気づいた。とりあえず針金で固定し、下山までしのぐことにする。この先、赤岩尾根を下るか、爺ヶ岳南尾根を下るかを相談していたが、このアイゼンの一件で最速で下れる赤岩尾根を選択することにした。

 小屋ではこの好天をついてヘリによる遭難救助を要請していた。遺体は南峰に横たわったままなのでホバリングで回収するつもりなのだろう。

雪庇
5/2 赤岩ノ頭からみた雪庇と山のひだ。
赤岩尾根
5/2 細い赤岩尾根を下る。

 冷池山荘から赤岩ノ頭へ上がると後ろには鹿島槍ヶ岳、黒部側には遠く剱岳が見えた。十字峡の向こうには今回計画していた三ノ窓尾根などがみえた。赤岩ノ頭に立つと大町の方向からヘリが飛んできて鹿島槍ヶ岳へ向かったが、ガスに覆われてなかなか近づけないようであった。

 赤岩尾根を下る。初めは非常に狭い尾根を下り、2400m付近から急な雪面を下る。50mザイル2本でバックステップで下る。赤岩尾根は急なところが多く、しかも昼近くになり雪が緩んで歩きにくい。今日は平日だが、登ってくる人もいくらかいた。

赤岩尾根
5/2 赤岩尾根の雪面を下る。50mザイル2本。
赤岩尾根
5/2 急な赤岩尾根を下る。

 高千穂平についたところで、先頭を歩いていたKさんがザックを下ろした。暑いので着ているものを脱ぐのかと思ったらここに幕営するということであった。全体的に急な赤岩尾根にあってこの高千穂平は唯一平坦なところであり、積雪があれば広い。昨日濡らしてしまったシュラフ等を乾かす時間もほしいので私も賛成した。

高千穂平
5/2 高千穂平に幕営。
高千穂平
5/3 翌朝高千穂平にて起床。

 雪をきって平地をつくり、テントを立てる。木にはシュラフや手袋などをかけて乾かした。また風が出てきてシュラフカバーがこいのぼりのように泳いでいたが、飛ばされそうになってしまった。

 夜は各自の持ち寄った酒とつまみが充実し長い夜となった。

5日目

2011年5月3日(火) くもり

高千穂平…西俣出合…大谷原=信濃大町駅=松本

コースタイム
高千穂平5:00起床
8:05
赤岩尾根1600m付近8:52
9:15
西俣出合9:35
9:48
大谷原10:40
11:00

 明るくなった5時に起床。朝っぱらからスノーピークのストーブの調子が悪く、火を吹いたため、放り投げた。残ったガスだけでメシを炊き、ご飯と豚汁で食べる。

高千穂平
5/3 高千穂平から下る。
赤岩尾根
5/3 赤岩尾根は終始急な下り。

 この日はくもりだが、気温が高く、暑い。急な赤岩尾根を下り、西俣出合に下りた。一面の雪原となっている出合で大冷沢を渡り、アイゼンを外して大谷原に下った。そこここにフキノトウが出ており、摘みながら歩いた。

西俣出合
5/3 西俣出合から見た赤岩尾根末端。
サル
5/3 大冷沢の堰の橋にはサルがいた。

 タクシーを呼び、薬師の湯で汗を流してから信濃大町へ出て各駅停車で帰京した。

おわりに

 天気はよくてくもり、稜線では雨、風、雪と5月にしては悪い天気が続いた。加えて気温が高く、雪がザラメなのに朝からズブズブと落ち込むような緩さで楽に歩けなかった。

 計画していた黒部横断はできなかったが、鹿島槍ヶ岳で落雷事故、白馬岳で雪崩事故がありそれぞれ人命が失われていることを考えると、引き返したことで災難を未然に防げたと思う。


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