山ノ中ニ有リ>山行記録一覧>2011年山行一覧>北アルプス・鹿島槍ヶ岳天狗尾根[1/2]
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鹿島槍ヶ岳は白馬岳、唐松岳、五竜岳と続く後立山連峰の一峰である。
一口に美しいと言っても、笠ヶ岳のように端正でもなく、薬師のように雄大でもなく、剣岳のように峻烈でもない。そういう有り合わせの形容の見つからない、非通俗的な美しさである。粋という言葉が適当しようか。粋でありながら決して軽薄ではない。大ざっぱに山を見る人には見落とされがちな謙遜な存在であるが、一たんその良さがわかると、もう好きで堪らなくなる、そういう魅力を持った美しい姿である。
深田久弥「日本百名山」(新潮文庫,1986)P.206-207
深田久弥は日本百名山で以上のように評し、さらに北峰、南峰で形成される双耳峰の美しさについて述べている。私の父も生まれの松川村から毎日鹿島槍の双耳峰を見て育ったため、その美しさをよく口にしている。
一方で私は鹿島槍ヶ岳に登るのはこれがはじめてである。学生の時の長期縦走に選ぶこともなく、3連休などで行くこともなかった。山に魅力がない、というわけではないが、東京から遠い割に同じ北アルプスの剱岳や穂高のようなビッグネームに隠れてしまっていた。
今回登ったのは鹿島槍ヶ岳北峰から東に伸びる天狗尾根である。北にカクネ里、南にアラ沢に挟まれ、北側には鹿島槍ヶ岳北壁が屹立している。積雪期・残雪期を対象とした尾根で「チャレンジ!アルパインクライミング」では残雪期に1泊から2泊程度としている。
今回は天狗尾根から鹿島槍ヶ岳へ登ったあと、牛首尾根下降、雲切尾根登高、三ノ窓尾根登攀、剱岳から早月尾根下降の予定であった。しかし、雨、雪、風と5月にしては厳しい天気の中、鹿島槍ヶ岳から赤岩尾根経由で下山した。
0日目 |
2011年4月28日(木) |
新宿=(高速バス)=松本駅(泊)
新宿を21:00に出るツアーバスで松本へ向かう。連休前日にもかかわらず1,500円と京王の高速バスの半額の値段で行けるとあってスバルビルの前は人で混雑していた。Kさんは21時に間に合わず、立川から特急あずさで松本へ向かった。バスの途中では飯田へ行く乗客が双葉SAあたりでバスを乗り換えていた。
0:30ごろに松本駅に到着。改札向かいの観光案内所のシャッターの前で寝る。そこには映画「岳」の宣伝の飾りが立てられていた。ほかには構内で寝ている人はいなかった。
1日目 |
2011年4月29日(金) くもりのち雪 |
松本=信濃大町駅=大谷原…アラ沢出合…天狗尾根2120m峰(泊)
大谷原 | 7:40 |
7:58 | |
大ゴ沢渡渉 | 8:15 |
8:25 | |
1130m付近渡渉 | 9:50 |
10:04 | |
アラ沢出合 | 10:20 |
天狗尾根取付 | 10:47 |
天狗尾根1460m付近 | 12:04 |
12:18 | |
天狗尾根1750m付近 | 13:28 |
13:42 | |
第一クーロワール下 | 15:03 |
天狗尾根2120m標高点 | 15:45 |
19:40就寝 |
朝6時発の大糸線の列車に乗り、終点信濃大町で下車。途中で寝てしまったが、みんな足元をブーツに履き替えたりして私だけ遅れてしまった。
駅を出てトイレを済ませ、タクシーで大谷原へ。30分、5,600円。大冷沢の橋を渡ったところでタクシーを降りる。鹿島槍ヶ岳東尾根末端の1132m標高点をまわって大川沢にかかる橋を渡る。さらに大ゴ沢を渡るが、橋はなく導水のコルゲートパイプが3つ並んでいるだけであった。Wさんは慎重に越えたが、続いた私がコルゲートパイプの上でつるりと滑り、いきなり水に沈んだ。腰をついてしまい胸から下が濡れてしまった。あわてて対岸にはいあがり、着ているものを脱いで絞る。5月で割に気温が高く日も照っていたのでひどく冷えるということはなかった。
4/29 大ゴ沢を渡るWさん。次に渡ろうとした私はコルゲートパイプで滑って落ちた。 |
4/29 大川沢沿いの荒れた登山道を行く。 |
沢に落っこちた私を見ていたKさんとHさんは大川沢にかかる橋を戻り、大川沢右岸を歩いていた。Wさんと私は大川沢左岸の地形図にも載っている荒れた道を行った。1つ目の堰の手前でKさんとHさんが左岸に渡渉、合流する。1つ目の堰まで来ると大川沢右岸に林道が通じていた。地図を見ると大冷沢から尾根を乗っ越して林道が下りてきているようだ。これを使えば2つ目の堰までは楽に来られるが、2つ目の堰で左岸に渡るので渡渉の回数は変わらない。
1つ目の堰は少々急な土壁を登り、台地に出たらすぐ河原に下る。2つ目の堰までは広い河原になっており、2つ目の堰は右から楽に越えられる。2つ目の堰からは荒れたトラバース道を行き、途中で雪面を下って河原に降りる。さらに右岸へ渡渉。深さはヒザほど、水は冷たかった。ちょうど地形図で橋のかかっているところだが、橋はなく台座しか残っていなかった。そこでひと休み。結局渡渉は2回であった。
4/29 大川沢を渡渉する。深さはヒザほど。冷たい。 |
4/29 取水口の堰。橋がかかっているが、渡らず右岸を歩く。 |
ここからアラ沢出合までは大川沢右岸の雪面を歩いて行く。取水口があり橋がかかっているが、その先は進めず雪面を下る。さらに残置ロープのかかった岩のすべりやすい巻き道を登り、アラ沢出合に出た。アラ沢は大部分が両岸が雪に埋まっており、濡れずに進めるが、スノーブリッジを渡り、河原をジャンプで越え、笹を引っぱってA0で登る巻き道を過ぎ、もう一度スノーブリッジを渡ると天狗尾根の末端であった。
4/29 取水口の堰を通り過ぎ、雪面をトラバース。 |
4/29 残置ロープを使って大川沢を巻く。 |
特に特徴のない小尾根であるが、ほかに登れそうな尾根もないのでみんな同じ尾根を登るのではないかと思う。かなりの急登でヤブもあるので雪が残っているところを選んで登るが、下部は雪が緩く、ザリザリと落ちてしまう。カタクリの花とまだ咲いていないイワウチワを見かけた。
4/29 アラ沢出合。だいぶ雪に埋まっている。 |
4/29 スノーブリッジを渡って天狗尾根に取り付く。 |
1460m付近でひと休み。初日とあって荷物が重く、息は切れるしひどく疲れる。めまいと眠気と高山病のような症状であった。トップを行くKさんと一番後ろのHさんとのあいだで25分ほど差がついてしまった。荷物を再配分していると、雪がちらついてきた。
4/29 樹林帯を登る。 |
4/29 岩場が見えてきた。 |
1460m付近からは雪面になる。歩き始めるとだんだん天気が悪くなり、雪も激しくなってきた。途中でカッパを着る。1700m付近はなだらかなので歩きやすいが、1900m付近から急になり、ザイルを出す。すでに先行パーティーが取り付いていた。シュルンドの出た雪面を上がる。さらに2050m付近で第一クーロワール。大岩を右から巻くようにして雪面を登る。
4/29 最初にザイルを出したところ。 |
4/29 第一クーロワールとおぼしきところ。アラ沢を背景に高度感のある登り。 |
登りきって少し歩くと2120m標高点。この先、天狗の鼻へは急登になり、時間がかかるので今日はここで幕営する。先行パーティーはすでに第二クーロワールと思われる雪壁に取り付いていた。整地してまわりにブロックを積み、幕営した。
4/29 第一クーロワールをザイル出して登る。 |
4/29 天狗尾根2120m峰で幕営。左奥は天狗の鼻。 |
2日目 |
2011年4月30日(土) 晴れのち雷雨 |
天狗尾根2120m峰…天狗尾根2590m付近(泊)
天狗尾根2120m標高点 | 2:00起床 |
5:30 | |
天狗の鼻 | 7:27 |
7:52 | |
天狗尾根2560m付近 | 10:20 |
10:33 | |
天狗尾根2590m付近 | 12:30 |
18:10就寝 |
この日は2パーティーに分かれる。Kさん・Wさんパーティーは空身で北壁主稜を、Hさん・私パーティーは天狗の鼻まで荷揚げ。2時に起床し、北壁パーティーが4:30ごろ出発。そのあとテントを畳み、明るくなった5:30に私たちも出発した。天気はくもり、五竜岳や爺ヶ岳がみえた。
北壁パーティーはさっさと登ってしまい、天狗の鼻の向こうに消えてしまった。私たちも追いかけ第二クーロワールの下までくるが、やがて天狗の鼻から2人がこちらへ下りてきた。2人はKさんとWさんであった。話を聞くと、先行パーティーと会い、昨日白馬岳で雪崩があり10人が飲み込まれたこと、今日も気温が高く雪崩の危険があるため、先行パーティーも北壁を取りやめ天狗尾根の登高を継続することを聞いたそうだ。天気と雪質を考えてKさんたちも北壁をやめ、全員で天狗尾根の登高を続けることにした。
4/30 第二クーロワールを下ってきたWさん。 |
4/30 2120m標高点に置いた荷物を背負い、天狗の鼻へ登る。 |
テントに残した荷物をKさんと私で取りに行き、WさんとHさんは天狗の鼻を登ることにした。この連休ではKさんたちが白馬岳の縦走を予定しているので、安否が気にかかり、2120m峰で在京のHさんに携帯で連絡する。電話が通じ留守録にメッセージを録音した。荷物をとって100mほどの斜面を一気に上がり、なだらかになると天狗の鼻。ここで荷を分ける。天狗の鼻は電話が通じないものの、メールがなんとか通じ、Kさんたちはまだ入山しておらず5月3, 4, 5日に入山予定とHさんからメールがきていた。
4/30 第二クーロワールを登る。 |
4/30 天狗の鼻から見た天狗尾根上部。 |
天狗の鼻から先行パーティーの後を追う。ゆるく下って尾根の末端に取り付く。雪稜を上がるが、南側が切れ落ちており、ところにより北側斜面を登る。1箇所雪がかぶっていてなかなか乗り越せないところがあったが、左からステップを切ってなんとか登れた。上部の岩場で下ってくる先行パーティー4人に会った。4人は東尾根と合流する荒沢ノ頭の手前まで行ったが、雪の調子も悪いし、時間もかかっているので引き返してきたそうだ。彼らの懸垂下降を避けて待ち、Kさんトップで登った。
4/30 急斜面を登る。 |
4/30 振り返ると遠見尾根の末端より高い。 |
さらに雪稜を登り、岩場に出る。ここで私がトップを務めるが、左からも右からも登れない。左からはあとひとつホールドがあれば登れるのだが、それが見つからず、手はかじかんでくる。結局登れず右側の斜面でズルズル落ちてしまい、Wさんに交代してもらった。Wさんの動きを見ると、バイルのピックを雪面に突き刺しそれをホールドにして登っていた。私もセカンドで登り、ピッケルで真似すると簡単に登れた。パズルを解くようで最後の1ピースが見つからず悔しい思いをするが、Wさんから「だから面白いんじゃねえか」と言われる。
4/30 先行パーティーが懸垂下降で下りてきた。 |
4/30 2600m付近で雷雨が降ってきたため幕営。 |
2600m付近まで来てとなりの東尾根がだいぶ近い。正面に岩壁があり、右から回りこむように雪面を上がる。ザイルを出し私がトップで登り始めると五竜岳の方向で稲妻が光った。危ないので即登攀中止、戻って岩の脇の平たいところを整地して幕営する。1時間ほどで幕営し、テント内に入る。外は稲光と雷鳴が交互にとどろき、近い落雷もあった。風雨も強く、テントはあおられ、テント内は湿っぽかった。
16時頃に雨は上がり、ほどなく風もやんだ。それでも雲は低く、また降りだしそうであった。18:10に就寝したが、夜中0時頃からまた降りだした。