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2016年冬 - 八ヶ岳・中山尾根


2016年12月3日(土)
場所
長野県茅野市
ルート
12月2日
立川=美濃戸口(泊)
12月3日
美濃戸口…行者小屋…中山乗越…中山尾根…主稜線…中山尾根…中山乗越…行者小屋…美濃戸口
参加者
リーダー K、中山
参考文献

はじめに

 冬に前穂高岳北尾根を計画しており、荷物を背負った登攀・下降の練習を行うことにした。場所は土日で行ける八ヶ岳に設定した。はじめは中山尾根を登り、石尊稜を下る予定だったが、私が日曜日に用事ができたため、前夜発日帰りの強行軍となった。ルートも中山尾根を登って中山尾根を下ることにした。

 中山尾根は柳沢南沢と北沢を分ける長大な尾根である。その上部はすっきりと眺めのよいクライミングが楽しめる。岩壁の部分の傾斜はかなり急で、正確なアイゼンワークが要求される。冬季登攀中級者にお勧めの1本である。

遠藤晴行編「ROCK & SNOW BOOKS アルパインクライミング」(山と渓谷社,2001)P.129

「ROCK & SNOW BOOKS アルパインクライミング」では中山尾根がIII級上、「改訂冬季クライミング」では中山尾根が2級と設定されている。中山尾根は隣の石尊稜よりも難しいようなので少し緊張する。

0日目

2016年12月2日(金)

立川=美濃戸口(泊)

 22時に立川に集合し、中央道を西へ進む。途中で運転を代わるが眠い。0:30に美濃戸口に着き、テントを張って寝る。

1日目

2016年12月3日(土) 快晴

美濃戸口…行者小屋…中山乗越…中山尾根…主稜線…中山尾根…中山乗越…行者小屋…美濃戸口

コースタイム
美濃戸口6:00起床
6:37
美濃戸山荘7:26
7:37
南沢大滝分岐
2050m
8:36
8:45
行者小屋9:43
10:00
中山尾根取付点10:55
11:30
赤岳-横岳主稜線14:30
14:54
中山尾根取付点16:45
中山乗越17:13
行者小屋17:20
17:37
美濃戸山荘18:48
19:00
美濃戸口19:33
19:44

 夜は寒く、何度か寒くて起きた。靴下を履いていても足の裏が冷たい。登山口でこれほど寒いということは山はもっと寒いのか、と改めて雪山の寒さを思い知らされた。

 テントをたたみ、美濃戸へ向かう。歩くと暑いので1枚脱ぐ。赤岳山荘の駐車場はほぼ満車であった。冬は本当に人気の山である。行者小屋に向かう道も人を見かける。2050m付近の南沢大滝分岐付近で雪のない箇所があったので休む。風が吹いてきて寒いので1枚着る。白河原付近から遠くに中山尾根が見える。遠目には難しそうだ。行者小屋で水場の水を飲むと冷たかった。靴紐が緩かったので締め直す。行者小屋には早くもテントが1張り張ってあった。明るいのでサングラスを取り出す。

 中山乗越へ向かう。行者小屋からは高低差が少ない。中山乗越から道迷い防止のロープを乗り越え中山尾根に入る。足跡があるが、人にしては小さい。カモシカだろうか。カモシカの足跡を頼りの登っていくが左へそれていくので、直登するように進んだ。やがて急になってくると息も切れ、Kさんがトップになる。Kさんは足取り軽く、取り付き点まで追いつかなかった。

中山尾根
12/3 行者小屋手前の白河原から見る中山尾根。Mouseoverで大まかなルート表示。
中山尾根
12/3 中山尾根から樹林帯の尾根を登る。

 樹林帯を抜けると狭いリッジになり、下部岩壁に出る。ハーネスをつけ、ザイルを出す。周りは雪に覆われているが、岩壁だけあって雪を寄せ付けず黒々としている。左手からは石尊稜を登るパーティーのコールが聞こえる。中山尾根の取り付き点は石尊稜の取り付き点より高い位置にあった。

 下部岩壁1ピッチ目、Kさんリード。「ROCK & SNOW BOOKS アルパインクライミング」によればIII級。正面の直壁にはいくつか新しいボルトが打ってあるが、壁は立っていて難しい。Kさんが3mほど登って様子を見るが越えられなさそうだ。「ROCK & SNOW BOOKS」の記述2〜3メートルの垂壁を右から巻くようにし、左上する凹角に入るに従い、右へ1段下りて凹角に入る。ビレイする私からは見えないが、しばらくすると岩の上にKさんの頭が見えた。ロープをあおって引っかからないようにする。そのあとはスイスイと登って行ってしまった。あとで聞いたが、Kさんは下部岩壁でこれほど苦労した覚えがないという。

中山尾根下部岩壁
12/3 樹林帯を抜けると下部岩壁が見える。Mouseoverでルート表示。
中山尾根下部岩壁
12/3 下部岩壁1ピッチ目は1段右へ下りてから凹角を登る。

 1ピッチ目を私がセカンドで登る。凹角は巻いた岩がせり出していて1段登るのが大変だ。ピッケルを背中にしまい、三点支持を崩して無理やり登る。垂直の壁にぶつかり右の凹角を進むのか左のフェースに出るのかKさんに聞くと左のフェースという。高度感があるが、ホールドは多い。登り切るとテラスになっていた。

中山尾根下部岩壁
12/3 下部岩壁1ピッチ目上部は雪のないフェースを登る。
中山尾根下部岩壁
12/3 下部岩壁2ピッチ目はガリガリした斜面を登った後、凹状のフェースを登る。

 下部岩壁2ピッチ目、中山リード。「ROCK & SNOW BOOKS」によればIV級。左へトラバースし、雪のついた凹状フェースを登る。トラバースのあと、凍ったフェースでホールドもスタンスもない。支点を探すと右上にボルトがあるが、そこへたどり着けそうもない。1段下りてトラバースを続けようかと思うが、下りた先も足場が不安定だ。困った結果、フェースの中ほどにある水平に伸びた木につかまりながら登ることにした。うんと手を伸ばして木をつかみ、抱き寄せるようにして登る。スタンスはないのでアイゼンをガリガリ言わせる。木の根元まで登ったら木に腰掛けるようにし、その上のホールドを探す。1回バランスを崩してずるっと落ちるが、木につかまってことなきを得る。改めて木に腰かけだましだましホールドを掴んでなんとか這い上がった。あとは雪の積もった凹状を稜線まで登理、ハイマツにセルフビレイを取ってピッチを切る。Kさんは大して時間もかからず登ってきた。これで下部岩壁はおしまい。

中山尾根下部岩壁
12/3 下部岩壁を終えて目の前のコブを左から巻く。
中間部の雪稜
12/3 上部岩壁まで雪稜を歩く。

 正面の岩を左から巻くと雪稜が続く。コンテで登るが、セカンドの私は手元のだぶついたザイルの扱いに困り、しばらく持って登るとバラバラになってくるのでまた束ねて持って登る、を繰り返した。おかげで時間がかかった。

 上部岩壁の取り付き点に着く。右手の岩にボルトがあり、Kさんが支点を作っていた。上部岩壁にはゴツゴツした岩が並び、弱点が見えない。

中山尾根上部岩壁 
12/3 上部岩壁は岩がゴツゴツしていてルートが見えない。Mouseoverでルート表示。
中山尾根上部岩壁
12/3 支点から見た上部岩壁。手前のフェースはスタンスがないので左から巻く。

 上部岩壁1ピッチ目、中山リード。「ROCK & SNOW BOOKS」によればIV+級。支点の真上の岩は登れそうにないので左を見る。真上の岩の基部は傾斜が緩いが逆層気味で登れなさそうだ。大きく左から巻くようにするとボルトを見つけられたのでこれに沿って登る。雪の少ない快適なリッジを登ると中段のテラスに出る。凹角の垂壁に行く手を阻まれ、どうするのかと見渡すと左側にボルトが見える。これどうやって登るんだよ、と思いながら1度取り付く。少し登るがスタンスがなく、戻る。2回目、やや左のリッジよりにホールドを探しながらエイヤッと手を伸ばしだましだまし登る。途中のボルトにシュリンゲをかけてぶら下がりたかったが、バランスが悪く、直接手袋で掴む。その姿勢ではもうシュリンゲをかけることはできなかった。とにかく不安定な態勢を脱したい一心で登り続け、雪面に出た。右手のルンゼを登れば稜線であった。我ながら汚い登り方だなと感じた。

中山尾根上部岩壁 
12/3 上部岩壁核心部のかぶった凹角。
中山尾根上部岩壁
12/3 上部岩壁を抜けてまた雪稜歩き。

 上部岩壁が終わるとまた雪稜歩き。コンテで進む。小ハングは右寄りを登っていけばハングの上に肩くらいまで出るのでさほど難しくない。10mほど登れば終了点であった。

中山尾根小ハング
12/3 小ハングは右寄りから乗っ越す。
中山尾根終了点
12/3 最後にルンゼのバンドをトラバースして主稜線に出ておしまい。右手は赤岳。

 トサカ状岩壁の右側のルンゼをバンドを縫ってトラバースすれば主稜線である。さらにルンゼを登って日ノ岳に達するルートもあるようだが、日帰りなのでそこまではたどらなかった。主稜線からは富士山が見え、西には御嶽から乗鞍岳、穂高岳、それに連なる北アルプスの山々がよく見えた。ただ主稜線は風が吹いていたので陰で休んだ。取り付きから3時間。意外と快調なスピードであった。

 中山尾根の下降に取り掛かる。時刻は15時前。暗くなる前にザイルをしまいたいものだ。小ハングは懸垂下降で下る。ボルトに捨て縄を結びザイルをかける。真下が見えず、Kさんがザイルを首にかけて落としながら下る方法を提案する。私は背中とザックの間に差したピッケルが引っかかりそうで自信がないと素直に答え、Kさんがトップで下る。

中山尾根小ハング
12/3 小ハングを懸垂下降で下る。
中山尾根上部岩壁
12/3 上部岩壁は50mザイル2本で下る。

 Kさんが下ってからコールが聞こえる。曰く、ザイルが引けない、と。困ったな、と思ったが、捨て縄がピナクルの裏側にあり、ザイルが岩溝に引っかかって流れないのが見てわかった。いったんザイルを引き上げ、捨て縄に捨て縄をもう1本かけて岩溝の下からザイルをたらすように掛け替えることを提案する。そう説明するがコールが帰ってこないのでしばらく困惑する。何度かコールして返事が返ってきたのでザイルを引き上げて工作する。今度はザイルが引けそうだ。私が懸垂下降した後、無事回収した。

 上部岩壁まではコンテで下れるかと思ったが、意外と急で出だしは確保してもらいながら下った。場所によりダブルアックスでクライムダウンした。上部岩壁はザイル2本を垂らし懸垂下降する。下部岩壁までコンテで下る。下部岩壁は石尊稜よりに屈曲して登ったので、ザイル1本で2ピッチかけて下った。取り付き点でザイルを束ねてザックにしまい、樹林帯に入るともう相当に暗かった。どこか遠くからコールが聞こえてきたが、まだ登っているパーティーがいるのだろうか。

中山尾根下部岩壁ハング
12/3 下部岩壁2ピッチ目を懸垂下降で下る。登るときは水平に生えた木につかまって登った。
中山尾根下部岩壁
12/3 下部岩壁1ピッチ目を懸垂下降で下る。

 暗くても自分たちのトレースは見えたのでこれをたどる。時々立ち止まってKさんのガチャ類がチャリチャリ鳴っているか確認しながら歩く。中山乗越に出たところでザックを下ろしヘッドランプを出す。気づくと少し頭が痛い。高山病だろうか。深く息をしながら行者小屋に下る。

 行者小屋でハーネスやヘルメットを外し、休む。テントが10張りほど張ってあった。ヘッドランプを点灯させ美濃戸へ下る。雪面はヘッドランプの灯りに反射し、星のように輝いていた。途中でアイゼンを外し、1枚脱ぐ。さすがにこの時間この道を歩いている人は見かけなかった。美濃戸山荘は営業していないはずだが、灯りがついていたのでシュリンゲカラビナ類の整理を行った。美濃戸山荘からの歩き始めで凍った路面に思いっきり転び、ヘッドランプが見つからず焦った。よく見るとザックの肩付近にくっついていたのでよかった。美濃戸口に着いたのは19:30であった。

 帰りはもみの湯に入り、帰京した。

おわりに

 目的の雪と岩のミックスの練習は行えた。欲をいえばKさんがいう通り、もう少し天気が悪い方が練習になっただろうか。私は初めての中山尾根でトップも努めながらなんとか登れたことで自信になった。やっぱり苦労した石尊稜よりも難しいコースで登れたのは成長したのだと思う。


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