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2016年春 - 八ヶ岳・阿弥陀岳北西稜


2016年3月5日(土)〜3月6日(日)
場所
長野県茅野市/八ヶ岳
ルート
3月5日
美濃戸口…阿弥陀岳北西稜入口(泊)
3月6日
阿弥陀岳北西稜入口…阿弥陀岳北西稜…阿弥陀岳…中岳のコル…行者小屋…阿弥陀岳北西稜入口…美濃戸口
参加者
L. 中山、K、H
参考文献

はじめに

 阿弥陀岳は多くの尾根を集めている。一般ルートの御小屋尾根から時計回りに、西稜、北西稜、北稜、赤岳・中岳との稜線、南稜、中央稜、といった具合である。御小屋尾根を除き、方角を尾根の名前にあてていて無機質な感じはあるが、名付けられるほど登られている尾根があるとも言える。北西稜は阿弥陀岳から北西に伸び、柳川南沢の白河原で尽きている。上部に岩場があり、核心部ではアブミ登攀を強いられる。日本登山体系には困難という文字が見えるが、改訂冬季クライミングには2級と紹介されている。

 日本登山体系には北西稜の第一段落に以下のように紹介されている。

 とぎすまされた刃物のような鋭いリッジは登山者を魅了して止まない。下半部は樹林に覆われているが、それを抜けるとナイフエッジが現われ、上部で困難な岩場になる。この岩場の通過に高度な技術を要するので上級向きのルートとなる。全体に左手の北壁側は大きく切れ落ちているが、右手はやや傾斜が緩い。

 4年前にも阿弥陀岳北西稜を目指したが、取り付きが見当たらず諦めたことがある。Kさんはその後もメンバーを替えて何度か挑戦しているものの、なかなか取り付きが見つけられないそうだ。

 天気予報は日曜日くもりのち雨で、晴れは期待できなさそうであった。

1日目

2016年3月5日(土) 曇り

美濃戸口…阿弥陀岳北西稜入口(泊)

コースタイム
美濃戸口8:50
9:30
美濃戸山荘10:20
10:35
南沢標高2000m付近11:24
11:39
阿弥陀岳北西稜入口12:38
13:16
阿弥陀岳北西稜標高2450m露岩13:53
14:21
阿弥陀岳北西稜入口14:42
18:20就寝

 前日飲み会があって朝発にしてもらう。立川駅6:40集合でKさんの車で西へ向かう。後部座席でぐっすり寝かせてもらった。美濃戸口に着くと天気はくもりで、出発準備をしている人が何人かいた。車は60台くらい停まっている。八ヶ岳山荘で1泊2日分の駐車料金1000円を払う。駐車券はステッカーになっていて、しかも八ヶ岳山荘でコーヒーが1杯飲める。3人でコーヒーを1杯ずつ飲み、出発する。

 先週阿弥陀岳北稜と赤岳主稜に行ったKさん曰く、行者小屋までの道が凍っていて滑ったとのことだったが、今日は気温が高く、雪がシャーベット状になっていて滑ることはない。美濃戸山荘まで歩くと暑く、シャツ2枚になる。美濃戸山荘で休んだ後、南沢沿いの道を歩く。2ヶ月前に南沢小滝に行ったときは人が多かったが、今日はまばらだ。途中で一休みして阿弥陀岳北西稜入口に着く。緑のロープがかかっているところだ。登山道から少し離れたところに幕営する。

阿弥陀岳北西稜入口
3/5 阿弥陀岳北西稜入口には一般ルートと間違わないように緑ロープが張られている。
阿弥陀岳北西稜入口
3/5 阿弥陀岳北西稜入口に入ったところで幕営。

 テントを張り終わったらKさんと偵察に行く。Hさんは行者小屋まで水汲みに行く。幸いトレースが残っているのでこれに沿って歩く。ただ、なだらかな山腹をからむため、このトレースも迷っているようであった。途中、顕著な涸れ沢を横断するが、特に赤布も見当たらなかった。涸れ沢を渡ると斜面に取り付き、急登する。北西稜の尾根に出て標高2450mの露岩に着く。右から回ると露岩の上に出る。展望のあるところで北西稜の上部が見える。ただ頂上はガスに覆われよく分からない。上部の黒い岩壁は周囲の積雪と対照的に際立っており、難しそうだ。私は西稜との間の雪田を登れたら楽だなあと思っていた。しばらく観察を終えた後、テントへ戻る。

標高2450m露岩
3/5 標高2450m露岩まで偵察に出かける。
標高2450m露岩
3/5 標高2450m露岩から見た阿弥陀岳北西稜。上部がガスっていて難攻不落の要塞に見える。

 テントでは何度も足がつって辛かった。30代になって足がよくつるようになったが、今回はテントに入る前にストレッチしても足がつった。昨日の酒で少しこりたので酒は少しにしてお茶ばかり飲んでいた。

2日目

2016年3月6日(日) くもりのち雨

阿弥陀岳北西稜入口…阿弥陀岳北西稜…阿弥陀岳…中岳のコル…行者小屋…阿弥陀岳北西稜入口…美濃戸口

コースタイム
阿弥陀岳北西稜入口2:00起床
4:22
標高2450m露岩5:00
5:10
小ピーク5:53
6:10
3ピッチ目垂壁下7:16
5ピッチ目垂壁下8:50
7ピッチ目第二岩壁上10:50
阿弥陀岳11:22
11:34
阿弥陀岳北西稜入口12:14
13:00
美濃戸山荘14:13
14:22
美濃戸口15:00
15:08

 夜は風もなく、暖かかった。ぐっすりと眠れた。ラーメンを食べて出発する。外は星空であった。ヘッドランプをつけて昨日のトレースをたどる。北西稜の尾根に出ると茅野の明かりが見えた。西風が少し寒い。露岩の下でハーネスを装備する。装備した後、すぐ登っていたら、Kさんから登るならひと声かけてから登れ、と怒られた。その後3人で並んで雪稜のトレースをたどると小ピークについた。

 小ピークは未だ暗く、しかしガスが巻いていて先が見えない。この天気じゃ登れるかな、と不安になる。軽く休み、トイレなどを済ませる。シットハーネスの結び方を誤っていたことをKさんに指摘され、改めて細引きを締め直すが、細引きが短くて苦労した。小ピークからザイルを出して登る。1ピッチ目は雪の稜線、2ピッチ目は岩を右から巻き、5mほどの岩壁の下でピッチを切る。3ピッチ目は岩壁を登った後また雪稜を歩き、第一岩壁の下の垂壁下に出る。ここまでが「チャレンジ!アルパインクライミング」や「ROCK & SNOW BOOKS」にある2級の3ピッチである。

小ピーク
3/6 小ピークにて夜が明ける。1ピッチ目、雪稜を行く。
3ピッチ目
3/6 3ピッチ目、5mほどの岩壁を登る。

 4ピッチ目、もう1本のザイルを出し、ダブルで登る。垂壁下のビレイ点から中山がトップで登る。右へバンドをトラバースし、草付きフェースを登る。ホールドが細かく、登りにくい。残置ハーケン、ボルトを探して登る。凹角に入る手前でピッチを切る。

4ピッチ目
3/6 4ピッチ目のバンドトラバース。先が見えないのが怖い。
4ピッチ目
3/6 4ピッチ目の草付きフェースを振り返る。

 5ピッチ目、Kさんが凹角を登り、リッジに出る。高度感のある岩登りだ。リッジの垂壁下にビレイ点があり、ここまで。

5ピッチ目
3/6 5ピッチ目、急な凹角を登る。
第二岩壁下
3/6 5ピッチ目終了点、第二岩壁下から北西稜を見下ろす。

 6ピッチ目、ここからが「日本登山体系」や「改訂冬季クライミング」でいう、第二岩壁である。中山が稜線の左側をトラバースする。その後、右へ1段登るのだが、ホールドがなくて登れない。10分くらいもがいていたが、アイゼンが外れたので1段登らずにピッチを切ることにした。Hさん、Kさんに追って来てもらう。気温は高く、手袋を外してもさほど寒くない。

6ピッチ目
3/6 6ピッチ目で私が登れなかった直壁。Kさんにトップ交代。
7ピッチ目凹角
3/6 核心部の7ピッチ目凹角は下から見ると寝ているように見える。

 7ピッチ目、Kさんがバイルを使ってホールドとし、1段登る。その後、右へバンドをトラバースし、凹角に打たれたボルトにアブミをかけて登る。人工登攀は実戦では初めてだったので緊張した。ラストだったのでランニングビレイを回収しながら登るが、シュリンゲを掴む腕が疲れてしまって辛い。トップを行ったKさんの方がランニングビレイを設置するため苦労したので弱音は吐けない。最後にピナクルに抱きつくようにして体を持ち上げた。這うように稜線に出て心臓がバクバク鳴っているのに気がついた。落ち着いてから雪稜をたどり、少し安定したところでKさんがビレイを解除するのを待つ。振り返ると高度感が怖い。登っている間に2人組が追いついてきていた。

7ピッチ目凹角
3/6 7ピッチ目凹角は取り付いてみるとアブミを使った人工登攀である。
7ピッチ目終了点
3/6 7ピッチ目終了点から振り返ると南沢まで落ちるような圧倒的な高度感がある。

 もう少し歩いて1本のザイルを回収する。その間にHさんがもう1本のザイルを伸ばす。摩利支天に出て御小屋尾根と合流し、北西稜はおしまい。Kさんがザイルを回収し、阿弥陀岳に向かう。

7ピッチ目終了点
3/6 7ピッチ目終了点から草付きの斜面を登り摩利支天に向かう。
阿弥陀岳
3/6 阿弥陀岳に登頂する。

 阿弥陀岳では天気がよく、硫黄岳、横岳、赤岳、権現岳がよく見える。風も弱い。ただ、これらの山より遠くは雲が囲っており、見回すと360度雲に囲われていて阿弥陀岳周辺だけ晴れていた。赤岳を見ても主稜がどこだかよく分からないという話をしたら、Kさんも何度も登っているけど分からないということだった。

阿弥陀岳から見る赤岳
3/6 阿弥陀岳から見る赤岳。阿弥陀岳山頂では少しの間だが晴れた。
中岳沢
3/6 中岳沢を下って行者小屋に出る。

 中岳のコルを経由して行者小屋に下山する。小屋で少し水を飲み、北西稜入口のテントに戻る。テントを回収し、南沢沿いの道を下って美濃戸口に下った。美濃戸山荘から雨が降って濡れてしまったが、さほど冷たくなく、春の雨だねえ、とKさんと話しながら下った。

おわりに

 今回はずいぶんとアドレナリンの出るルートを登った。私の実力に比べると背伸びしたルートだったと思う。Kさんのトップのおかげで何とか登れた。2日経った今も足より腕のほうが筋肉痛が残っている。幸い、気温が高かったので条件はよかっただろう。また、今年はまだ白毛門しか山頂を踏んでいなかったので、阿弥陀岳に登れたのは純粋に嬉しかった。

(2016年3月8日記す)


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