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2011年冬 - 八ヶ岳・天狗尾根(敗退)


2011年1月15日(土)〜16日(日)
場所
山梨県北杜市(旧北巨摩郡大泉村)
ルート
1月14日
立川=清里駅(泊)
1月15日
清里駅=美し森駐車場…出合小屋…天狗尾根2620m付近(泊)
1月16日
天狗尾根2620m付近…大天狗手前…天狗尾根…出合小屋…美し森駐車場
参加者
H、K、中山、S
参考文献

はじめに

 天狗尾根は八ヶ岳赤岳から東面に派生する尾根の一つ。八ヶ岳東面から赤岳には県界尾根、真教寺尾根の2つの一般ルートがあるが、天狗尾根は夏季冬季ともバリエーションルートとなっている。キレット小屋から見るとギザギザの稜線で、第一岩峰や大天狗、小天狗など岩峰が並んでいる。

 今回、天狗尾根は4回目というKさんとHさんリーダーのもと天狗尾根に向かったが、大天狗が登ることも巻くこともできず、時間切れで敗退してきた。

0日目

2011年1月14日(金)

立川=清里駅(泊)

 23時立川集合。中央道を西へ須玉ICまで。1時ごろ清里駅に着き、待合室で仮眠をとる。Hさんがカッパを忘れたことが判明し、どうしようか相談する。

1日目

2011年1月15日(土) 雪

清里駅=美し森駐車場…出合小屋…天狗尾根2620m付近(泊)

コースタイム
美し森駐車場7:00
7:20
林道1620m8:10
8:25
出合小屋9:25
10:00
天狗尾根2100m11:01
11:15
天狗尾根2400m12:28
12:42
第一岩峰13:10
30m岩壁14:05
16:15
天狗尾根2620m17:00
21:45就寝

 6時に起床。6:45ごろに駅を出て途中のセブンイレブンに寄り、カッパを忘れたHさんが上下セパレートのカッパを買う。上下で950円。コンビニのカッパでどこまで登れるのか不安だが、これで登ることになった。

 登山口の美し森駐車場に着き、出発準備。はじめは少し雪の積もった林道をひたすら進む。1時間強で林道を抜けて地獄谷沿いの道に入る。雪にはトレースが残っており、容易に進む。美しの森から2時間で出合小屋に着いた。

地獄谷
1/15 地獄谷を遡る。
出合小屋
1/15 出合小屋で登攀具を装備する。

 出合小屋は地元の山岳会の管理する避難小屋で見かけはプレハブだが、中は快適な明るい小屋で外にトイレもある。天狗尾根以外にも旭岳東稜や権現岳東稜などの八ヶ岳東面のバリエーションルートの基地ともなっている。だれもいない小屋に入り、ハーネスを着ける。

赤岳沢
1/15 赤岳沢沿いに歩いた後、天狗尾根に取り付く。
天狗尾根
1/15 天狗尾根上部はガスっていた。

 15分ほど赤岳沢をさかのぼり、トレースに従って尾根に取り付く。はじめは急な斜面で、すこしなだらかになったところでアイゼンを着けた。ところどころ笹の茂る広い尾根で緩やかに右に曲がっていく。夏はヤブこぎになるのだろう。

 雪にトレースのついた樹林帯を登って行くと、黒戸尾根の刃渡りのような両側が切れ落ちてひらけたところに出た。一般ルートではないので鎖などはないが、さほど難しくない。下りるときにクライムダウンで下りるくらいだ。正面にはまだ樹林帯の天狗尾根が続いており、その先は雲に包まれていた。

刃渡り
1/15 刃渡りのようなところ。
天狗尾根
1/15 樹林帯を登る。

 迷うような尾根ではないのだが、要所要所に赤テープがついていて人が入っているのがわかる。

 急な斜面を登ると標高2550mほどで樹林帯を抜けた。木々が枝だけでなく幹までも白く化粧している。ときどき南風が吹き寒い。登る正面に第一岩峰が見えた。第一岩峰は尖峰といった感じで越えられそうにないのだが、岩の基部の左側をトラバースできる。岩が張り出していて少しいやらしいが慎重に越える。

第一岩峰
1/15 樹林帯を抜けると第一岩峰。左から巻く。
第一岩峰
1/15 第一岩峰の左を巻く。ちょっと不安定。

 第一岩峰をかわしたところで1ピッチザイルを出す。随所に木が生えているのでランニングビレイをとりながら登る。そこから5分ほど登ったところで大天狗手前の岩場。これが難しかった。残置ザイルが岩の右側をトラバースし、直上して見えなくなっているが、ホールド・スタンスがなく登れない。Kさんがトップで行くが、ホールド・スタンスを探しても見当たらず、左へ直登するルートを探す。それでもダメなので、残置ザイル沿いに戻る。Kさんはいったんザイルにプルージックでシュリンゲを固定し、ザックをそれにかけて空身でその一段を登った。シュリンゲをいくつかかけ、後続がA0で登れるようにして登っていった。

ロープ
1/15 最初にロープをだしたところ。木を使って登る。
大天狗手前の岩場
1/15 大天狗手前の岩場。残置ザイルに沿って登る。いったんザックをプルージックで残置ザイルにぶら下げた。

 ザイルをいったんフィックスし、難しい一段の下にKさんが戻ってきた。次に私が登り、上からビレイ。Hさんはさほど待たずに登ってきたが、Sさんがなかなか登ってこないので鼻水を凍らせながら震えていた。結局この壁を越えるのに2時間かかってしまった。

大天狗手前の岩場
1/15 大天狗手前の岩場を登る。ビレイしていると寒くて鼻水が凍る。
テント
1/15 2620m付近にテントを無理やり張る。

 時刻はすでに16時を回っている。ビバークできるところを探さなければならない。ザイルをたたんでひとり遅れて登っていると、10分ほどで狭いなりになんとか張れそうなところをみんなが探してくれていた。みんなで整地するが、テント全面を置くだけのスペースはなく、入口が50cmほど落ち込んだ形になった。極力谷側に近づかないように荷物と人が入った。時計の高度計は2730mを指していたが、翌日の登った高さから考えると幕営地の標高は2620m付近だろう。

 この晩のごはんはポトフ。寒くてワインもシャーベット状に凍っていた。外はしんしんと雪が降り積もり、寒かった。寝ている間にテントごと谷に落ちないよう、4人中3人が頭を山側に向けて就寝した。

2日目

2011年1月16日(日) 晴れのち雪

天狗尾根2620m付近…大天狗手前…天狗尾根…出合小屋…美し森駐車場

コースタイム
天狗尾根2620m4:00起床
7:10
大天狗手前8:47
10:30
天狗尾根2620m11:43
12:00
天狗尾根2550m14:00
14:15
出合小屋16:07
16:30
林道終点17:23
17:45
美し森駐車場18:55
19:10

 4時起床。狭いテントで寝た割によく眠れた。端なのに暖かかった。

 外は意外なことに晴れ。天気予報では冬型の気圧配置が強まるとのことだったので、昨日以上に風が強くなるのかと思ったが、穏やかな天気であった。

出発準備
1/16 朝焼けの中、出発準備。
天狗尾根
1/16 テント場から登り出す。この岩場は左側を巻いた。

 テントをたたんで7:10出発。リッジ沿いに登って行くと岩場に出る。これは左側の道っぽいところから巻く。巻き切ると荒々しい岩峰がそびえたっていた。木は一本も生えていない。その手前にはルンゼが切れ落ちている。まずは巻いた峰を登る。ザイルを出し、支点は岩にシュリンゲを一周させてとる。中山がリード。傾斜はあるが、ゴツゴツした岩でホールドは多い。上がりきったところでやはり岩に支点を取り確保。

トラバース
1/16 岩場の基部をトラバース。
岩峰
1/16 トラバースを終えると荒々しい岩峰が姿を現わす。
岩場
1/16 岩場を登る。
ギャップ
1/16 ごく小さいギャップに下り登り返す。

 その先はごく小さいギャップに下り、5mほどの岩を越えると岩峰のすその緩斜面を登る。ザイルの末端を付けたKさんがリード。見た目ほど難しくなかった。緩斜面を登り、木でピッチをきる。そこからコンテで岩峰の赤岳沢側をトラバース。テントを出発したときは晴れていたがやがてガスがかかってきた。風が吹くと寒い。

ギャップ
1/16 ごく小さいギャップから登り返す。見かけより簡単だった。
岩峰
1/16 岩峰に登り返す。岩峰は登らず右を巻く。

 岩峰の次は大天狗の登り。雪の積もった斜面を雪かきしながら登る。登り切ると大天狗の全景。Hさんの右から巻けないかというアドバイスに基づき右へ向かうが、ラストのKさんから直登できないのか聞かれ、直登コースに切り替える。

急斜面
1/16 雪かきしながら急斜面を登る。
大天狗
1/16 大天狗全景。Mouseoverで途中まで登ったルート表示。

 大天狗のトップは雪の少ない岩場で、行ってみると凹角を登る箇所にシュリンゲを3本つなげたものがぶら下がっている。私がトップでトライするが、傾斜が急で登れない。手がかじかんでいなければ凹角のクラックに手をロックさせて登れるかもしれないが、くそ寒くて手はカチカチ。

大天狗
1/16 大天狗上部の残置シュリンゲ。登れず。
懸垂下降
1/16 懸垂下降で撤退。

「登れません」とKさんに声をかけ、戻る。改めて右からの巻きルートを検討する。右から巻くルートを再度私がトライ。シュリンゲが2箇所にぶら下がっているのでそのルートをたどる。2本目のシュリンゲにランニングビレイをとるが、その先の一段が登れない。さらにトラバースを考えるが、そのときKさんから「もう時間切れだから戻ろう」と撤退の指示があった。すでに時刻は10時半。テント場を出発してから3時間が経過していた。

懸垂下降
1/16 ごく小さいギャップから懸垂下降で下る。
天狗岩手前の岩場
1/16 天狗岩手前の岩場を懸垂下降で下る。

 雪かきした斜面は懸垂下降で、ごく小さいギャップへの下りは確保しながら下る。ギャップからの下りは登りとルートを変え、天狗沢側のルンゼを懸垂下降、雪のバンドをトラバースした。そこからピークを巻いてテント場跡に戻った。

 テント場でトイレ休憩の後、前日苦戦した大天狗手前の岩場。下れるところまでスタカットで下り、途中の木から懸垂下降。私がトップで下る。下り自体は大したことがないが、最後が懸垂トラバースとなりしかも岩が雪で覆われてどこを歩けばいいのか分からない。メガネも息でくもり、一段落ちてしまった。なんとか登るときに支点をとった木にたどりついた。

 木にロープ末端をフィックスし、先の様子を見に行く。稜線を下ると登るときに最初にロープを出したところがあった。その先に第一岩峰。核心部はそろそろぬけられそうだ。全員懸垂下降して下りてきたところで最初にロープを出したところをスタカットで下る。私がトップで下るが、最後のところで小枝を掴んで前向きに下りていたら小枝が折れ、一回転して落ちた。

天狗尾根
1/16 下りで私が一回転して落ちたところ。
天狗尾根岩場
1/16 天狗尾根を振り返る。

 軽く腰を打ったものの、3mほど落ちてすぐ止まった。そこの木で支点をとり、後続を確保。後続は誰も落ちなかった。第一岩峰は登ったときと同様、天狗沢側をトラバースし、核心部を終えた。

 少し下って樹林帯に入ってひと休み。指先がかじかんで手が動かない。時刻は14時。日暮れまでに下山できるか不安だ。

 天狗尾根を下るが、前日の雪が積もっていてトレースは断片的にしか残っていない。登りのときに妙に赤テープが多いなと思っていたが、おそらく私たちのように引き返す人が迷わないようにしているのだろう。それでもときどき道に迷いながら2時間で出合小屋に着いた。赤岳沢はすっかり雪に覆われていて膝上まで潜る。ラッセルしながら出合小屋へ向かった。

 出合小屋でハーネス等登攀具を解除し、足元をアイゼンからわかんに履き替えて下る。地獄谷もだいぶ雪が積もっていてトレースが分かりにくい。迷いながらも日暮れと同時に林道に出られた。林道で後続を待ち、車を置いた美しの森駐車場へ戻った。わかんを外すのが面倒なので履いたまま歩いていたら途中でわかんが壊れてしまってしぶしぶ回収した。駐車場に着いたのは19時。駐車場では雪が降っており、寒いので車の中で後続を待っていた。

 帰りは途中でうどんを食べた。ギリギリ24時に勝田台につくことができ、日付が変わって家に着いた。

おわりに

 終わってみると、腰を打ったり、鼻のふちが凍傷になったり、指先が凍傷でしびれたりと厳しい山行だった。天気は八ヶ岳にしてはよい方で、風も弱かったが、寝ている間も雪が積もっていたので雪は少し多かったのかもしれない。

 今回、大天狗を抜けることができなかったが、再度挑戦するとしても大天狗を越える方法が思い浮かばない。難しい山だと思う。


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