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2011年冬 - 大菩薩・雁ヶ腹摺山


2011年2月5日(土)〜6日(日)
場所
山梨県甲州市(旧東山梨郡大和村)、大月市
ルート
2月5日
新宿=甲斐大和=やまと天目山温泉…湯ノ沢峠避難小屋(泊)
2月6日
湯ノ沢峠避難小屋…黒岳…大峠…雁ヶ腹摺山…百間干場…金山峠…金山鉱泉=(タクシー)=大月駅
参加者
L. 中山、山田、山田
参考文献

はじめに

 雁ヶ腹摺山は、大菩薩の主脈からちょっと東にはずれた地味な山であるが、昭和17年11月3日撮影の富士山の写真が、五百円札の裏の図に使われてから、広く知られるようになってきた。さらに山頂の西の大峠に真木小金沢林道が開通して以来、より一層登りやすい山になった。

「アルペンガイド6 奥多摩・奥秩父・大菩薩」(山と渓谷社,1997)P.315

 雁ガ腹摺山は上のようにアルペンガイドに紹介されている。尾根筋で見ると大菩薩の主脈、黒岳から東へ伸びる尾根の一端にあり、高さは1874mである。雁ガ腹摺山から派生する尾根で登られている山は少ないが、大月駅の裏にある岩殿山は末端にあたる。流域的に見ると葛野川と真木川の間にあたり、黒岳と雁ガ腹摺山の間の大峠は2つの川の源頭にあたる。

 今回山田さんたちを誘ってから場所を考えたのだが、寒いので温泉のあるところ、あと避難小屋のあるところが整地もせず楽なので探したが、意外と少ない。丹沢の畦ヶ丸避難小屋に泊まって中川温泉に入るか、湯ノ沢峠避難小屋に泊まって金山鉱泉に入るか考えたが、前者は少しだけ歩いたことがあるし、歩行時間がいくらなんでも短すぎるのでやめた。

1日目

2011年2月5日(土) 快晴

新宿=甲斐大和=やまと天目山温泉…湯ノ沢峠避難小屋(泊)

コースタイム
やまと天目山温泉10:05
10:20
標高点1277m岩魚橋11:32
11:55
柳木場沢1485m12:42
12:52
湯ノ沢峠避難小屋13:45
14:34
大蔵高丸15:12
15:24
湯ノ沢峠避難小屋15:50
20:15就寝

 中央特快の車内で集合する。甲斐大和駅を降りると天目行きの甲州市民バスがすぐに出るので、これに乗車。塩山からのロングランなバスだが、料金は乗車区間によらず300円。公営ということで予想したとおり人は少なかった。というか乗客はおらず運転手さんだけだった。運転手さんに湯ノ沢峠に行きたいのですが、と伝えると分かれ道で降ろすと言われた。

 誰も乗車しないまま終点一つ手前のやまと天目山温泉の少し先の分かれ道で下車する。天気は晴れ、あたたかい。着ているものを脱ぎ体温調整する。

焼山沢林道
2/5 バスを下りて焼山沢林道に入る。
八大龍王神社
2/5 八大龍王神社。犬に吠えられる。

 焼山沢林道を歩き始める。焼山沢はところどころ雪が積もり、凍っているところもあった。しばらく歩くと八大龍王神社という神社があり、山行の安全を祈りに行く。赤いのぼりがたくさん立つ石段を登って行くと神社と人家があり、飼い犬がやたらと吠えていた。

 しばらく廃屋になった民家を連ねる焼山集落を過ぎる。つるが這っている様子は年代を感じさせる。集落を過ぎると黄色いゲートがあった。夏はゲートが空いているらしいが、冬は車でもここまでしか入れないようだ。

焼山集落
2/5 焼山集落の廃墟。
焼山沢林道
2/5 旧林道終点付近。道が凍っていた。

 人気のない道を歩く。木の間をルリビタキが飛んでいたと千紘さんが言っていたが、ピュッと飛んでいってしまったので私には瑠璃色の部分は見えなかった。静かに歩いているとあちこちでサラサラ音がする。よく見ると崖から砂礫が流れ出ていた。右岸に落ちる枝沢にかかる岩魚橋でひと休み。

 焼山沢林道が稜線へ迂回する旧林道終点で柳木場沢沿いの登山道に入る。しばらくは砂利道が続いているが、やがて笹ヤブに覆われた林道終点に出る。沢はだいぶ細く、凍っていた。そこから沢を渡り返しながら登る。歩き始めは笹ヤブがひどくうっとおしかった。

旧林道終点
2/5 旧林道終点。赤矢印の方向に入っていく。
柳木場沢
2/5 凍った柳木場沢を渡る。

 途中、どうしても凍っていて渡れないところでアイゼンを履いた。しかしアイゼンがうまくつけられず外れた。その後何度もつけようと試みるが、外れてしまった。今回弟が使っていた軽アイゼンをはじめて使ったのだが、付け方が分からない。めんどうなのでアイゼン無しで歩く。

 ところどころ枝沢が分かれるが、看板があり迷わない。やがて明るいひらけたところに出るとそこが小屋の水場だった。そこから折り返しの登りで湯ノ沢峠避難小屋だった。立派な小屋で中は9畳ほどでうち2畳ほどがたたき。小屋の奥には布団もあり、なんと蛍光灯もある。小屋のそばの焼山沢林道終点にはトイレがあったが、鍵がかかっていて入れなかった。中に入ってから水を汲みに行く。小屋には空のペットボトルもいくつか置いてあり、それと手持ちの水筒、鍋を満たした。

湯ノ沢峠避難小屋
2/5 湯ノ沢峠避難小屋。
湯ノ沢峠避難小屋
2/5 湯ノ沢峠避難小屋の中。キレイ。

 時刻はまだ14時半。晩ごはんをつくるには早いので近くの大蔵高丸に登りに行くことにした。カッパと水を持って出かける。小屋から少し登ると湯ノ沢峠。ここから南に向かって歩く。はじめはお花畑という看板のある草地。残念ながらこの季節は花一つ咲いていなかった。登山道の両側にはロープが張ってあり、看板にはお花畑に入らないようにと書いてあった。

お花畑
2/5 お花畑。冬は枯れ草しかない。奥は大蔵高丸。
大蔵高丸
2/5 大蔵高丸。北に黒岳が見える。

 お花畑から下って大蔵高丸の登りに移る。北側斜面をトラバースしながら西側に登り、折り返して大蔵高丸山頂に着いた。霞の向こうに立派な富士山の姿が見えた。しばらく休む。西風が吹いていて少し寒い。

 来た道を引き返す。小屋に戻って靴を脱いでいると、男2人連れがやってきた。何回か湯ノ沢峠避難小屋に泊まったことがあるようで、手慣れたようすで棚の上のホットカーペットを取り出し、照明のあたりのコンセントにつないでいた。

 今晩はキムチ鍋。切った野菜と炒めた豚肉を鍋に入れ、温める。味噌とキムチを入れて完成。酒を飲みながら鍋をつついた。最後に翌朝食べるプリンを作る。小屋備え付けの布団を下に敷いて20時過ぎに就寝。蛍光灯のスイッチのところには「夜9時に消灯します」と書いてあったが、夜中の間蛍光灯は点いていた。寝るときは気温プラス3℃と暖かかった。こんなに快適だと住む人がいるんじゃないだろうか。

2日目

2011年2月6日(日) 快晴のちくもり

湯ノ沢峠避難小屋…黒岳…大峠…雁ヶ腹摺山…百間干場…金山峠…金山鉱泉=(タクシー)=大月駅

コースタイム
湯ノ沢峠避難小屋4:30起床
6:10
黒岳7:20
7:31
大峠8:18
8:31
雁ガ腹摺山9:29
9:45
白樺平10:15
登り尾根1245m10:44
10:55
百間干場11:15
金山峠11:24
11:35
金山鉱泉12:32
13:43

 4時半起床。気温はマイナス2℃。昨日のキムチ鍋を温めて食べた。昨日しかけたプリンはよく固まっていたが、冷たかった。5時半頃、2人組がシュラフやザックをそのままで出かけて行った。おそらく大蔵高丸へ日の出を見に行ったのだろう。

 6時過ぎにヘッドランプとアイゼンをつけて出発。しばらくで周りは明るくなり、ヘッドランプがいらないくらいになった。峠から黒岳へは急登でしかも道の両側が笹に覆われている。ザックの側面に付けたわかんが引っかかり歩きにくい。雪はところどころにあるが、わかんが必要なほどではない。

 登山道は白いザレの左側を登っていく。ときどき道が分かれるがすぐ一つになるので心配は要らない。ひとしきり登って便意をもよおし、暑かったのでついでに着ているものを脱ぐ。

富士山
2/6 白谷ノ丸から明け方の富士山。
雁ガ腹摺山
2/6 白谷ノ丸から雁ガ腹摺山。

 登り切った白谷ノ丸のあたりは草地になっており、開放感があってよい。振り返ると富士山が朝日を浴びて淡紅色を帯びていた。右手にはこれから登る雁ガ腹摺山も見える。旧大和村・旧塩山市の境となっているピークに登るとその北側斜面は樹林帯だが雪に覆われており、道がはっきりしない。適当に下って行くと「やまなしの森林100選 黒岳の広葉樹林」という看板があった。

白谷ノ丸
2/6 富士山を背にして歩く。
黒岳
2/6 黒岳手前の鞍部には雪が積もっていた。

 そこから15分ほどの登りで黒岳の山頂。黒岳の名のとおり、常緑樹林の中で展望はない。雪に覆われた山頂で真ん中に三角点がある。明け方とあって休むと寒い。10分休んで大峠へ下る。

黒岳
2/6 三角点のある黒岳山頂。
黒岳
2/6 黒岳からの下り。

 急な雪の斜面を下るが、ザクザクの雪なのでアイゼンがなくても歩きやすい。下りでは15分ほどの間ガスに巻かれるが、そのいっときだけであとはずっと晴れかくもりだった。赤谷ノ丸は少し肩を登って下る。

 下りきって大峠。休憩舎が建っているが、ドアはないので泊まるには向いていない。車道が通じているものの、ゲートが閉まっていた。でもどちらからも車は来なかった。大きな山に挟まれて日陰で寒い。

大峠
2/6 大峠。左が黒岳方面、右が雁ガ腹摺山方面。林道は真木小金沢林道。
凍った川
2/6 雁ガ腹摺山の登りで見かけた凍った川。

 雁ガ腹摺山に登る。正面の山頂はかなり大きい山だったが、南側を巻くようにして登っていく。登り始めてすぐ凍った川があり、橋があるもののたもとから氷が溢れており、アイゼンを履いていない私は山田さんたちにストックで引っ張ってもらいながら渡った。

 ところどころ火山岩の押し出しみたいなところを木橋で渡りながらぐるりと巻いていく。南側斜面に移ると雪はすっかりなくなり暖かい日差しを浴びながらの登りになる。そんな斜面を登っていると雁ガ腹摺山から単独行が下ってきた。聞くと楢ノ木尾根を登ってきたとか。私はそんな尾根を知らなかったのだが、エアリアマップによると雁ガ腹摺山から東へ伸びる、葛野川と奈良子川の間の尾根のようだ。若いのにマニアックな人だ。

雁ガ腹摺山
2/6 火山岩の押し出しみたいなところを桟橋で渡る。
雁ガ腹摺山
2/6 雁ガ腹摺山山頂近くの草地。

 最後に平らかな草地を過ぎるとそこが雁ガ腹摺山の山頂だった。富士山の眺望がよいということなので木のない360度展望のある山かと思ったら南側だけが切り開かれていて、北側は樹林帯だった。雁ガ腹摺山からみる富士山も周りの木が伸びているのか、白谷ノ丸より遠くなって小さく見えるからか、いまいちだった。

雁ガ腹摺山
2/6 雁ガ腹摺山から見た富士山。
白樺平
2/6 姥子山への道を分ける白樺平。シラカバはあんまり記憶にない。

 休んでから百間干場に下る。雪がまだらに残った斜面を下る。白樺平に出るともう雪はなかった。姥子山への道を分け、百間干場方面へ向かうと神奈川県企業庁の無人雨量計があった。ときどき遠くから猟銃を撃つ音が聞こえてきた。どこかで狩りをやっているようだ。

奈良子林道
2/6 奈良子林道を横断する。
船窪林道
2/6 登り尾根を下りきって菅沢沿いの船窪林道に出る。

 雨量計からしばらくで奈良子林道を横断する。だらだらと下って行くと索道跡らしき構造物を見かけた。2本の木の間に斜交いに木が立てかけられ、錆びたケーブルがぶら下がっている。植林帯が多いので昔は切り出した木を運ぶのに使ったのだろう。今は枝打ちもなされず荒れるがままになっている。百間干場から登ってくる3人組がいた。急坂の少し手前で休む。だいぶ暑い。

 下りきって菅沢沿いの船窪林道に出る。砂利道で荒れていてゲートが開いていても通行は難しいだろう。しばらく下って百間干場に出て橋を渡り、斜面に取り付く。菅沢の向かいには花粉を蓄えた杉の木がたくさん見えた。取り付きは急だったが、しばらく歩くと平坦な道になり、金山峠に出た。金山峠には単独行のおじさんがひとりいてしばらく話した後、大垈山に向かっていった。

金山峠
2/6 十字路になっている金山峠。しかし西へ向かう「中村部落」というのはどこにあるのだろう。
金山鉱泉
2/6 金山鉱泉に下山。

 金山峠からひどく急な道を下り、土沢に出てからは比較的緩やかな道になった。わずかに凍っているところもあるが、小さいのでさほど苦労しなかった。最後に堰を巻くために大きく登り、車道終点に出た。車道終点からだらだら下ると金山鉱泉であった。

 金山鉱泉は小さな旅館であった。1人500円で、風呂は2人入るといっぱいくらいだったが、客がおらず貸切だったので快適だった。ゆっくり休んでタクシーを呼んで大月駅に下った。

おわりに

 天気はよく、富士山も見えてよかった。

 また、今回のコースはすべてはじめて歩いたコースなのだが、湯ノ沢峠避難小屋が思いのほか快適な小屋でよかった。湯ノ沢峠避難小屋の設備としては以下が揃っている。

 なので、ろうそくなどの照明道具や水汲み用のペットボトルは要らず、シュラフではなくシュラフカバーがあればいいだろう。

 一方で荷物が重かった。これは雪の量を見誤って過剰な装備を持ったことが原因である。雪の量は多くても5cmほどで最近降った雪ではなく1週間以上前の雪のようだった。なのでわかんやピッケルは不要であった。アイゼンも私は着けることができなかったが、ひどく困る箇所は沢沿いの凍った箇所が3箇所ほどあるだけだった。

 人は少なく、今回の山行であったのは4パーティーしかいなかった。湯ノ沢峠避難小屋で男2人、雁ガ腹摺山で楢ノ木尾根から縦走する単独行の若い人、百間干場から雁ガ腹摺山へ登る3人、金山峠で単独行のおじさんである。下山した金山鉱泉も人が少なく、私たちがいた1時間強でだれも訪れなかった。

 総括すると静かないい山だった。


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