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2010年冬 - 北アルプス・大天井岳[1/2]


2010年12月26日(日)〜12月30日(木)
場所
長野県安曇野市(旧南安曇郡穂高町)・大町市・松本市(旧南安曇郡安曇村)
ルート
12月25日
新宿=(快速ムーンライト信州81号・車中泊)
12月26日
穂高駅=宮城ゲート…中房温泉…合戦小屋(泊)
12月27日
合戦小屋…燕山荘(泊)
12月28日
燕山荘…大天井岳…大天荘冬季小屋(泊)…大天井ヒュッテ往復
12月29日
大天荘冬季小屋…大天井岳…燕山荘…合戦小屋下(泊)
12月30日
合戦小屋…中房温泉…宮城ゲート=穂高駅
参加者
中山、H、Y、A
参考文献

はじめに

 11月に年末の山を槍ヶ岳に定め、11月下旬に偵察に行ったものの、雪が多く大天井岳の先で引き返してきた。その後、メンバーの入れ替えがあったり、ルートを検討した結果、結局予定通り燕岳から槍ヶ岳の縦走となった。

 結局、天候の悪化、Aさんのケガのため、偵察とほぼ同様、大天井岳までの往復となった。計画は半ばではあったが、引き返す最中、大天井岳から燕山荘までの稜線の風雪も厳しく、結果的にベストの判断だったと思う。

0日目

2010年12月25日(土)

新宿=(快速ムーンライト信州81号・車中泊)

 新宿23:56発の快速ムーンライトに乗車。新宿でAさんと私、立川でYさんとHさんが乗り、穂高へ向かった。この日は昼まで寝ていたからかなかなか眠れなかった。Aさんは昨日と今日、御岳渓谷でボルダリングしていたそうだ。

1日目

2010年12月26日(日) 雪

穂高駅=宮城ゲート…中房温泉…合戦小屋(泊)

コースタイム
穂高駅4:53
5:23
宮城ゲート5:38
5:45
中房温泉まで8km看板6:47
7:02
中房川第五発電所7:58
8:17
中房温泉9:28
10:20
第一ベンチ11:05
11:28
第二ベンチ11:55
12:10
第三ベンチ12:45
13:05
富士見ベンチ13:50
14:06
合戦小屋14:45
19:15就寝

 夜明け前に穂高駅に着く。下車したのは私たちと帰省客とおぼしきひとり。風が寒いので暖房の入った駅の待合室で防寒着を着る。靴を履いたり、スパッツを着けたりしていたら予約していた安曇観光タクシーから「次の予約があるんで早くしてもらえますか」とせかされる。ほかにも南安タクシーが2台停まっていたので、登山者が少なければ予約しなくてもよさそうだ。5:23にタクシーに乗り、宮城のゲートへ。

 15分、3300円で宮城のゲートに着く。なお、うちの親父によると読みは「みやぎ」ではなく「みやしろ」らしい。このへんは「神戸」を「ごうど」と読んだりメジャーな地名に反骨心でもあるのだろうか。ゲート前は真っ暗。雪は降っていないが、積雪は5cmほど。中房温泉まで約12km、ヘッドランプをつけて歩き始める。風がなく暑い。本当に車は入っていないようで轍はみられなかった。

 発電所の脇で中房川を右岸に渡り、つづら折れの急坂を登る。途中で中房温泉まで8kmの看板でひと休み。やがて観音峠のあたりまで来るとだいぶ中房川より高いところを歩く。振り返ると東の空が明るい。対岸には有明山が見えるはずだが、雪が舞っていて上方はガスに覆われている。路面はところどころ凍っているところがあり、2回スッテンコロリンし、右手に流血をおってしまった。途中、放棄された法面工事現場があったが、これから機材の撤収にかかるのだろうか。冬季は雪で工事できまい。

 信濃坂の下、第五発電所でひと休み。雪が降っていた。ここから信濃坂の急坂を登り、また中房川に下る。中房川を左岸にわたり、雪の道を歩いて行くと、雪の解けたところがあった。路面が露出し、マンホールから上記が出ている。どうやら中房温泉の導水管のようだ。やがて国民宿舎有明荘の横を通り、中房温泉に到着。

夜明け
12/26 宮城のゲートから中房温泉へ向かう。やがて夜明け。
中房温泉
12/26 中房温泉から合戦尾根に取り付く。

 中房温泉の日帰り湯はすでに閉じていた。玄関の温度計を見ると-5℃であった。トイレも夏季の箇所は使えず、裏手の冬季用のトイレしか使えなかった。冬季用トイレには紙があった。トイレ前で休んでいるとちょうど下山する3人パーティーがいた。1泊2日で燕岳往復の予定のようだが、雪が多く前日第二ベンチに泊まって下山したそうだ。

 中房温泉からの登りはトレースもあり、積雪も15cmほど。歩きやすい。ただ一部雪の下が踏み固まっているところがあり、歩き始めて10分ほどでYさんとAさんがアイゼンを履いていた。その間に単独行がわかんを履いて下ってきた。上の方は雪が多いのだろうか。

第一ベンチ
12/26 第一ベンチを過ぎる。積雪量は20cmほどでトレースあり。
富士見ベンチ
12/26 富士見ベンチでひと休み。寒い。

 第一ベンチでひと休み。ベンチやまわりはすっかり雪に覆われていた。トレースを追って第二ベンチ第三ベンチ富士見ベンチと歩を進めていく。ずっと樹林帯なので積雪量は30cmほどと変わらない。なぜか第三ベンチまでの登りでひどく息切れしてつらかった。富士見ベンチまでは眠くて立ち止まるたびにうつらうつらしていた。富士見ベンチで14時となりHさんから幕営しようという意見も出たが、あと少しで合戦小屋なのできりのいい合戦小屋まで行くことにした。

 富士見ベンチから合戦小屋は夏道と違って稜線を歩く。途中1箇所幕営の跡を見ながら登って行くと合戦小屋に着いた。幕営適地を探すが、小屋の周辺は風が吹き込むため、小屋から50mほど離れたあたりに決めた。雪は50cm〜1mほどと深く、踏み固めで時間を要した。西風が吹き、雪も降っていた。この日の晩はキムチ鍋を食べた。

2日目

2010年12月27日(月) 吹雪

合戦小屋…燕山荘(泊)

コースタイム
合戦小屋4:45起床
7:40
合戦沢の頭8:12
燕山荘9:20
18:50就寝

 夜寝ている間もときどき強い風が吹いていた。外は昨晩に比べて20cmほど雪が積もっていた。前日夜行だったからか、よく眠れた。

 合戦小屋からわかんを履いて出発する。天気は雪でガスがかかっている。前日のトレースはないが、赤布の付いた竹竿が並んでいるのでそれを目標に歩く。Hさん、私の順にトップを歩き、合戦沢の頭に着く。合戦沢の頭からはAさんがトップを務めた。北風と南風が交互に吹いていた。

合戦小屋
12/27 雪の降る中合戦小屋を出発する。
合戦沢の頭
12/27 合戦沢の頭から樹林帯を抜け、ガスの稜線を歩く。

 燕山荘の建物の南側、冬季小屋の前に立つ。11月はここから有明山側を巻いて山荘の玄関に着いたのだが、冬道は西側を巻くらしい。営業中は閉鎖している冬季小屋の横から稜線に出ると、吹っ飛ばされそうな風が吹いていた。ときどき耐風姿勢をとりながらふらふらと小屋沿いに北へ向かい、燕山荘の玄関に着いた。小屋を半周するだけで相当なエネルギーを消耗した。

燕山荘
12/27 燕山荘を西から巻く。西側から吹っ飛ばされそうな風が吹いていた。
燕山荘
12/27 燕山荘前のテント場に幕営する。奥の2張りは立教大パーティー。

 燕山荘の中に入れてもらい、休む。外の気温は-17.1℃だそうだ。しばらく外の様子を見ながら雑談するが、天気が好転しない。小屋の人がパソコンで天気図や予報を見せてくれるが、今日は1日吹雪、明日も昼までは天気がよいが、午後は吹雪らしい。聞くと年末に大天井岳方面へ向かうパーティーはほとんどおらず、行っても大天井岳で引き返してくるパーティーが多いとか。12時過ぎに幕営を決め、テント場代1人500円を払った。外のテント場には立教大パーティーが2つのテントを張っており、その隣に幕営した。幕営してから中で休んでいると単独行さんがその隣に幕営していた。

 この日は半停滞としてわかめスープとご飯を食べるが、足りない。Aさんはだいぶ空腹のようで晩ごはんを食べても足りないようだった。

3日目

2010年12月28日(火) 晴れのち吹雪

燕山荘…大天井岳…大天荘冬季小屋(泊)…大天井ヒュッテ往復

コースタイム
燕山荘4:00起床
6:55
蛙岩7:50
大下りの頭8:20
為右衛門吊岩付近9:00
9:15
切通岩10:39
10:53
大天井岳11:48
12:01
大天荘冬季小屋12:24
12:50
大天井ヒュッテ13:30
13:35
大天荘冬季小屋14:45
20:00就寝

 この日は朝から晴れた。燕岳や槍ヶ岳、安曇平と善光寺平が見える。昨日あれだけ吹いていた風もやんだ。昼過ぎにはまた天気が荒れるので、日の出と同時に出発した。燕山荘前でアイゼンを履き、すでにどこかのパーティーのトレースのついた道を行く。

 大天井岳へ向かう。白い稜線の東側は朝焼けに染まり、淡紅色を呈していた。西側が濃紺の陰になり対比が美しい。はるか遠くには槍穂の頂稜もまた紅色に染まっていた。

燕山荘
12/28 燕山荘前で出発準備。
槍ヶ岳
12/28 白い稜線の東側は朝焼けに染まり、淡紅色を呈していた。

 そんな朝の風景をカメラに収めていたらだいぶ遅れてしまった。幸い燕山荘からしばらくは下り坂なので早足で駆け下る。ときどき西風が稜線を横切っていく。振り返ると燕山荘が雲に覆われていた。西の烏帽子岳や鷲羽岳は朝から雲に覆われているし、だんだん天気も悪くなりそうだ。

 やがて蛙岩に出る。赤ペンキの冬季ルートの表示に従い、中をくぐり抜ける。ザックを背負ったままでは通れず、ザックを別にして空身で登った。YさんとHさんは「こんなところ通ったっけなあ」と疑問だったが、赤ペンキが指示しているのだから間違いないだろう。

 その蛙岩の穴から出ると6人ほどの立教大パーティーが待っていた。この季節に大天井岳方面から縦走してくるとはすごいなと思ったら、燕山荘から蛙岩をピストンしてきたところだそうだ。この後の予定がつまっているのか今日は合戦小屋に泊まるとのことで、もう戻るらしい。どうせならもっと大天井岳よりまで行けばよさそうなのに。何だかもったいない。

蛙岩
12/28 蛙岩の冬季ルート。狭いのでザックを別にして通る。
大天井岳
12/28 蛙岩から見た大天井岳への稜線。ここからはトレースがない。

 このため蛙岩から先はトレースがない。風の強い稜線だからか、さほど沈む雪でもなく快適に進む。大下りの頭を過ぎ急な下りとなる。カメラの電池が切れてしまったため、入れ替える。下りきったあたりは雪が深くズブズブと落ちてしまう。為右衛門吊岩の登りではトップを歩いていたYさんがダミーの赤テープに惑わされ夏道の下側の樹林帯に絡み取られる。一番後ろを歩いていたHさんが夏道を見つけ、そこを上がった。

大下りの頭
12/28 大下りの頭付近を歩く。雪は風で吹き飛ばされ少ない。
大下りの頭
12/28 大下りの頭から鞍部へ下る。奥には大天井岳。

 為右衛門吊岩付近でひと休み。為右衛門吊岩とは調べても「この岩が為右衛門吊岩」という写真が見当たらないのでよく分からないのだが、首を吊るのによさそうな岩があったのでこれかもしれない。その先、稜線上は雪の深いところがあり、胸ほどのラッセルもあった。登山道の両側にロープの張ってある砂礫帯を進む。雪が少なくて歩きやすい。いくつか小ピークを水俣川側から巻くたびに大天井岳が大きく迫ってくる。大天井岳は両側に翼のような尾根を従えており、見れば見るほど立派な山だ。西風が雲を巻き上げ山頂が見え隠れする。

為右衛門吊岩付近
12/28 為右衛門吊岩付近の岩場を登る。
砂礫帯
12/28 登山道の両側にロープの張ってある砂礫帯を進む。

 やがて大天井岳直前のギャップとなっている切通岩。下るのか分からないが、鎖とハシゴが締まった雪に埋まっており、バックステップで容易に下れた。切通岩は若干風が弱く、ここでひと休みする。

大天井岳
12/28 2699m峰を過ぎると大天井岳が大きい。
切通岩
12/28 バックステップで蹴り込みながら切通岩を下る。

 切通岩から大天井岳の登り。とっかかりが急でアイゼンのつま先2本爪で登るが、疲れるのでときどき休みながら登る。振り返ると2人組が燕山荘からのピストンで追いついてきていた。大天井ヒュッテへの巻き道の標示板を過ぎ大天井岳の直登に入る。

大天井岳
12/28 大天井岳の登り。急なためアイゼンの2本爪を立てて歩く。
大天井岳
12/28 大天井岳の登り。アイゼンがきくように雪面に平行になるように足を下ろす。

 やがて切通岩〜大天井岳の中間にある木杭を通りすぎる。登るほどに風が強くなり、休みながら登る。途中でYさんのアイゼンが外れ、木杭のあたりで付け直していた。最後に稜線に出て大天井岳の山頂に着いた。

大天井岳
12/28 燕岳からの稜線を背景にAさん。大天井岳の稜線に出たところ。
大天井岳
12/28 大天井岳にて槍ヶ岳を背景に中山。

 山頂からは槍ヶ岳へ至る喜作新道の稜線が見えるが、槍の穂先はときどき雲がかかり、その背後の双六岳や穂高岳はまったく見えない。予報通り昼から天気が悪くなりそうだ。西風が強いので東側に少し降りたあたりでお茶を飲んで休む。

大天井岳
12/28 大天井岳から大天井ヒュッテへ下る。この後Aさんが8mほど滑落する。
大天荘
12/28 Aさんの滑落を受けて大天荘へ避難する。

 大天井岳から槍ヶ岳へ向かうため、大天井ヒュッテへ下りる。岩があちこちに出た11月より若干雪の多い斜面を下り始める。下りはじめてすぐ、「止まれ」という大声が背後から聞こえた。振り返るとAさんがうつ伏せでずるずると落ちていた。アイゼンのキックステップが甘く、滑ったようだ。幸い少し下に岩があり、そこで止まった。いったんAさんのザックを横において様子を見るが、右ひざと左足首を痛めたようだ。なんとか歩けそうなのでとりあえず大天荘冬季小屋に避難する。

 大天井岳の山頂を過ぎて大天荘冬季小屋へ。入口が凍っていたのでピッケルで氷を壊して中に入ると入口には50cmほど雪が積もっていた。雪をかいて全員中に入る。この時点で槍ヶ岳への縦走はあきらめ、大天井ヒュッテに置いたガソリンと酒のデポを回収しに行く。私とHさんがデポの回収に、YさんとAさんが大天荘冬季小屋で寝支度を行うことになった。

大天井岳
12/28 デポを回収するため、大天荘から大天井ヒュッテへHさんと私が下る。
大天井ヒュッテ
12/28 大天井ヒュッテの冬季小屋に入り、デポを回収。

 ツェルトと防寒着とテルモスと食料を持って大天井ヒュッテへ出発。大天井岳の山頂を通ると遠回りなので、山頂を回避しつつ、夏道よりを下る。しかし、ところどころ急なところがあり、ていねいにバックステップを切りながらトラバースを繰り返す。やがて稜線上に出て大天井ヒュッテに出る。冬季小屋の扉を開け、デポを回収。小屋から出ると強い風が西から吹きつけ、視界にもガスがかかってきていた。

 少々遅れて到着したHさんと合流し、大天井岳へ戻る。来た道はガスがかかり判然としない。セオリー通り稜線伝いに大天井岳へ戻る。ゴウゴウと西風が雪を吹きつけ、西側を向くのもつらいくらいの風になる。1時間ほど前まで槍ヶ岳が見えていたのがウソのような天気だ。ガスも視界10mほどと濃く、Hさんと離れないように歩いた。稜線も登り一辺倒だったから迷わなかったものの、もしギザギザの稜線だったら歩けなかっただろう。山頂を経由して大天荘冬季小屋に戻った。

大天井ヒュッテ
12/28 大天井ヒュッテを後にして大天荘へ戻る。西風が強い。
大天井岳
12/28 大天井岳を通過するHさん(中央)。山頂は濃厚なガスに覆われていた。

 大天荘冬季小屋は入るとすぐタタキになっており、引き戸を開けると居室になっている。居室は廊下と寝床が上下2段になっており、狭いなりに上段にテントを張っていた。雪を払い落とし、荷物の整理をしてからテントに潜り込んだ。不要な荷物はテント内に持ち込まなかったので広くて快適であった。また小屋の中だったので雪もつかず、テントもシュラフもだんだん乾いてきた。

 外はときおり小屋がきしむような風が吹いていた。大天井ヒュッテから戻ってきたとき、外は風がビュウビュウ吹いていたのに小屋の中は風の音が聞こえなかったので、いまは相当な風が吹いているということだ。ラジオは今後天気が荒れることを伝えており、現在天気が悪いとしても停滞は極力避け、早めに安全圏へ移動するべきだという意見で一致した。今後の予定として、槍ヶ岳への縦走は諦めたが、常念岳から蝶ヶ岳への縦走案と燕山荘に戻る案の2つを残し、明日の天気を聞いて決めることにした。


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