山ノ中ニ有リ山行記録一覧2009年山行一覧>北アルプス・明神岳東稜

2009年春 - 北アルプス・明神岳東稜


2009年5月2日(土)〜5月6日(水・祝)
場所
長野県松本市(旧・南安曇郡安曇村)
コース
5月1日
新宿(夜行バス車内泊)
5月2日
上高地…明神…宮川のコル…ひょうたん池(泊)
5月3日
ひょうたん池…明神岳東稜…明神岳…前穂高岳…奥穂高岳…白出のコル…涸沢(泊)
5月4日
涸沢…前穂高岳北尾根5・6のコル…前穂高岳…奥明神沢…岳沢(泊)
5月5日
岳沢…天狗沢…間天のコル…間ノ岳…西穂高岳…西穂高沢…岳沢…小梨平(泊)
5月6日
小梨平…上高地バスターミナル=沢渡=松本
参加者
K、H、K、中山
天気
2日快晴、3日快晴、4日くもり、5日くもりのち雨、6日くもりときどき雨
参考文献

はじめに

 今年の5月は穂高岳周辺の明神岳東稜、前穂北尾根、西穂高岳を登った。Kさんから「剱と穂高どっちがいい?」と聞かれて私が「去年は剱に行ったから今年は穂高」と答えたら穂高になった。今年は休日で5連休があり、明神岳東稜、前穂北尾根と奥穂南稜を計画したが、天気の崩れが予想されたことから奥穂南稜を西穂高岳に振り替えた。

 明神岳は奥穂高岳から南東に派生する尾根の一峰である。尾根のうち、奥穂高岳から前穂高岳までの間は吊尾根と名付けられた一般登山道だが、一般登山道は前穂高岳から岳沢へ重太郎新道を下っており、前穂高岳から明神岳、さらに上高地へ下る尾根は一般登山道として拓かれていない。明神岳は北から順に主峰、二峰、三峰、四峰、五峰に分かれ、今回は明神岳主峰の東稜を登った。日本登山体系によればIV級+らしいが、最後のバットレスの岩場を避けたためか思ったより容易に山頂に立つことができた。

 前穂北尾根は前穂高岳から信州側、屏風岩まで伸びる尾根である。前穂北尾根は数ある穂高の尾根の中でも最も美しいものの一つであり、その鋸歯状のスカイラインは穂高のシンボルといっても過言ではない日本登山体系P.145)と評される有名な尾根である。私は前穂高岳に登ったことがなく、2006年夏に北穂に登ったときや2007年夏に裏銀座から槍穂縦走したときに眺めて登高意欲をかき立てられ、いつか行ってみたいと思っていた。

 西穂高岳は穂高連峰の南西端に位置している。標高2,909mと穂高連峰の中では唯一、3,000mを割り込んでいるが、独標から山頂にかけては険しい岩稜をなし、穂高の名に恥じないアルペン的な要素にあふれているヤマケイアルペンガイド10 上高地・槍・穂高P.44)。今回は雪があるので岳沢から天狗沢を登って稜線に上がり、西穂高岳から西穂高沢を下って岳沢に戻るルートをとった。前穂高岳同様、西穂高岳も初めてだったのでちょうどいい機会に登ることができた。

0日目

2009年5月1日(金)

新宿(夜行バス車内泊)

 22:30、新宿の都議事堂下に集合。穂高へ行く私たち4人と槍ヶ岳へ行くIさんパーティー3人が集まる。上高地へ向かう登山者のほか中京方面へ向かう人たちで集合場所は混雑していた。バスはさわやか信州号、アップオンからの申し込みで1人7,000円であった。バスは後ろから2番目の席が当てられたが、他の席より席の間隔が広く、得した。23:00、新宿を出発し甲州街道を西へ向かう。私は鼻づまりでなかなか眠れなかったが、調布で中央道に乗るころにやっと寝た。

1日目

2009年5月2日(土) 快晴

上高地…明神…宮川のコル…ひょうたん池(泊)

コースタイム
上高地
バスターミナル
5:30
6:22
明神館7:24
7:48
下宮川谷
1845m付近
9:02
9:23
宮川のコル9:49
上宮川谷
2055m付近
10:04
10:20
ひょうたん池11:06
17:40就寝

 起きるとバスはもう大正池の近くまで来ていた。ぼんやりしたまま上高地バスターミナルに到着。トイレへ寄ったり、着るものを調えたりしてから出発。

 朝早くだが、連休の初日、しかも夜行バスも到着したところなので河童橋周辺はそこそこ混雑していた。天気は快晴で穂高岳がよく見える。梓川左岸の道を行き、明神に到着。ここで槍ヶ岳へ向かうIさんパーティーと別れる。

穂高岳
5/2 河童橋から見た早朝の穂高岳。
信州大学山岳科学総合研究所
5/2 信州大学山岳科学総合研究所の横を通り、下宮川谷を登る。

 明神からは明神岳5峰が大きく見える。今回登る明神岳は東稜にあるひょうたん池から登るが、ひょうたん池へは明神橋で梓川を渡り、下宮川谷を登って宮川のコルを越え、上宮川谷を斜上したところにある。明神橋から上流へ少し歩くと信州大学山岳科学総合研究所があり、その養魚場跡を横切る。小さい沢を古びた丸木橋で渡ると宮川のコルへの登路になる。あちこちに赤テープがついているので迷うことはない。はじめはヤブっぽいが、傾斜が出てくると下宮川谷のガレ場になる。一度雪の斜面があり、その先で先行パーティーが休んでいた。

 宮川のコルへは途中で右の枝沢に入るが、この枝沢が分かりにくかった。谷は深くなく、赤テープも少ないので注意しないと見過ごす。加えて取り付きの斜面がザラザラで登りにくかった。途中、1845m付近で一休み。あとからついてきていた3人組もここで休む。3人組はカラビナなど登攀具をたくさん肩のシュリンゲにかけており、そんなに登攀具が必要なのかと驚く。

下宮川谷
5/2 下宮川谷を登る。谷には雪が残っている。
宮川のコル
5/2 宮川のコルを乗っ越す。背後には霞沢岳。

 樹林帯を抜けるとガレた草枯れの斜面に出る。石を崩さないよう選びながら歩き、傾斜がなだらかになってくると宮川のコル。宮川のコルから上宮川谷にかけては雪が積もっており、ひょうたん池へは谷を横断する。天気は快晴で雪がまぶしい。後ろには霞沢岳がよく見える。途中で一休みし、アイゼンを履いて出発。一休みしている間にも次々と下宮川谷から人が登ってくる。まるで一般ルートのようだ。

 トラバースののち、斜面をゆっくり登る。先ほどの3人組と抜きつ抜かれつしながら谷沿いに右に曲がると平らな雪の斜面に出る。そこからひと登りで雪に覆われたひょうたん池のコル。全面雪に覆われているのでひょうたん池がどこにあるかわからないが、おそらくコルから長七ノ頭に向かって下った二重山稜の底部だろう。

上宮川谷
5/2 上宮川谷を横断しひょうたん池へ。
ひょうたん池
5/2 ひょうたん池のコルから明神岳東稜を眺める。

 ひょうたん池到着は11:06と早かったため、まだ誰もテントを張っておらず、明神岳東稜に取り付いているパーティーが見えた。すぐ見えるところに岩壁があり、そこで渋滞すると踏んだ私たちは早いけれどもここで幕営することにした。ひょうたん池とおぼしきところにテントを張る。

 テントを張って食事作り。天気は非常によく、気温も高く、まるで白い砂漠にいるような気分だ。それでも下から次々と人が登ってくる。そのまま明神岳東稜に取り付くパーティーもあればひょうたん池のコルから少し登ったところで幕営するパーティーもいる。正午を過ぎると幕営するパーティーが増えてきて、最終的には7, 8パーティーくらいが幕営したのだろうか。最後のパーティーに至っては私たちが就寝する18時頃に到着していた。時間はあったので先行パーティーが明神岳東稜の手前の壁を登るようすを見ていたが、なかなか苦戦しているようだった。明日が思いやられる。

2日目

2009年5月3日(日・祝) 快晴

ひょうたん池…明神岳東稜…明神岳…前穂高岳…奥穂高岳…白出のコル…涸沢(泊)

コースタイム
ひょうたん池2:00起床
4:19
ラクダのコル6:40
7:00
明神岳主峰7:34
7:55
奥明神沢のコル8:57
9:17
前穂高岳10:15
10:40
奥穂高岳12:45
13:00
白出のコル13:22
13:45
涸沢14:30
19:40就寝

 2時起床、4時過ぎ出発。ひょうたん池付近に幕営するパーティーで一番早く出発する。薄暗いもののヘッドランプの明かりが要らないくらいの明るさである。昨日先行パーティーが苦戦していた岩の手前にたどり着き、少し手前の露岩で待っているようKさんから指示される。その間ヘッドランプを外すため、ヘルメットを外そうとしたらヘッドランプが落ち、雪渓の下へ転がっていってしまった。ザックを置いてシュルンドをのぞいてみるが真っ暗で何も見えず、穴も手が入るくらいの小ささだった。どこに落ちたかも分からず惜しいが諦める。

 昨日先行パーティーが苦戦していた岩場は雪が「く」の字に残ったところを「く」の書き出しと書き終わりをまっすぐ結ぶように登る。木を使って登ることができ、昨日見たほど難しくなかった。おそらく昨日は気温が高かったので雪がぐじゃぐじゃでなかなか上がれなかったのだろう。2ピッチで登攀を終え、雪稜歩き。

ひょうたん池
5/4 夜明け前、ひょうたん池のコルを振り返る。奥は徳沢。
明神岳東稜
5/4 明神岳東稜を登る。ここは灌木の中を直登する。

 最初の岩場を越えるとあとは雪稜でしばらく難しいところはない。左手の明神岳の壁を見たり、右手の前穂北尾根のギザギザを眺めたりしながら稜線を登っていく。ひょうたん池から2時間20分でピークに出てそこを少し下るとラクダのコル。目の前には明神岳主峰、その手前のバットレス。私たちが来たときまだ黄色のテントがひと張り張ってあり、ひとパーティーがバットレスの一枚岩に取り付いていた。手前の岩は左から巻き、そのパーティーの岩の下でしばらく待つ。

 この一枚岩はなかなか難しいらしく、先行パーティーはアイゼンを岩の上でカリカリ音を立てながら絶妙なトラバースで登っていた。日本登山体系にも「ここは出口にホールドがなくて少々むずかしいのでザイルを出すべきである」(柏瀬祐之、岩崎元郎、小泉弘編「日本登山体系7 槍ヶ岳・穂高岳」pp.245-245(白水社,1990)P.169)とある。こりゃ苦戦しそうだなと思いながら行動食を食べていたのだが、待ち時間のうちにHさんが岩の左の雪面を見てくると言って空身でザイルをつけて登っていってしまった。

明神岳主峰
5/4 ラクダのコルと明神岳主峰。真ん中の岩を左から巻いた。(マウスを重ねるとルートが表示されます)
明神岳主峰
5/4 明神岳主峰にて奥穂高岳(左)と前穂高岳(右)を背景に。

 しばらくしてHさんがバックステップで戻ってきた。雪が続いていて登れるらしく、ザイルを上の木にフィックスしてきたそうだ。これで先行パーティーを待たなくてすむようになったので、ザックをしょってHさんのルートから登る。岩を回り込むところでピンが打ってあったので一応ルートの一つらしい。

 少々急な雪面を登ると岩を直登する人たちと合流した。途中の灌木でピッチを切って先を行ってもらう。そこからは雪の斜面をただ登り、明神岳の稜線に達した。稜線には雪がなく、ガレ場みたいなところで岳沢側を少し回って明神岳主峰の山頂に出た。結局ラクダのコルからの雪面でザイルを2ピッチ伸ばしたが、そんなに苦戦せずに登れてしまった。

 山頂には先ほど一枚岩で一緒になったパーティーがおり、写真を撮っていた。明神岳の2峰に向かってる3人パーティーがおり、主稜の山頂にもザックが3つ置いてあった。稜線を往復してくるのだろうか。北を向くとこれから歩く奥穂と前穂が見える。前穂は雪の斜面が続いているので難しくなさそうだが、急なのでつらそうだ。

 明神岳から前穂高岳へは岩場の縦走が続く。アイゼンをつけているので岩の上を歩きにくく、ふらつきやすい。不安定な斜面を見てKさんがザイルを出してくれ、コンテで下った。明神岳から少し下ると足場は安定する。明神岳と前穂の間のコルの手前で少々急な雪の斜面をバックステップで下ったのち、明神岳・前穂のコルへは懸垂下降で下りる。

懸垂下降
5/4 明神岳・前穂のコルへ懸垂下降。
前穂
5/4 コルから前穂高岳への登り。ガレ場。

 明神岳・前穂のコルで少し休む。なぜか岳沢側は風が強く寒いが、奥又白側は風がなく暖かい。明神岳へはこれまた不安定なガレ場みたいな斜面を登っていく。やっぱりアイゼンをはいていると歩きにくい。ある程度登ってからトラバースして雪の斜面に出る。岳沢から奥明神沢を登ってくるパーティーもおり、足跡はたくさんついている。急な斜面を時間かけて登る。気がつけば明神岳よりも高い。最後に傾斜がゆるんで前穂高岳山頂。

前穂高岳
5/4 急な前穂高岳の登り。後ろには明神岳と霞沢岳。
前穂高岳
5/4 雪の積もった前穂高岳山頂。左手は奥穂高岳、右奥に槍ヶ岳。

 前穂高岳には明神岳東稜で会った3人パーティーもおり、テントもひと張り張ってあり、そこそこ人はいた。雪が奥又白側に深く積もっており、岳沢側が少なく岩が出ている。穂高は何度か来たことがあるが、前穂はいつも近くを通るだけでいつも紀美子平から岳沢に下っていた。初めての前穂高岳だが、看板も雪に埋まっているらしくあんまり感慨はわかない。前穂北尾根の2峰には1パーティー登山者がいた。2峰の下りはそんなに難しくなさそうだ。明日はここを登ってくるので2峰のようすをみて安心した。しばらく休み、奥穂へ向かう。

 前穂を下り、奥穂へ向かう。雪と岩のミックスした尾根を下る。ふと右下を見ると涸沢のテント村が見える。色とりどり100張りはあるだろう。よく見ると横尾から涸沢に登る人の列も見えた。涸沢は相当な混雑のようだ。最低鞍部の近くで岩を抱きかかえるようなトラバースをはさみながら歩く。吊尾根最低鞍部付近からは夏道を行く。ときどきペンキを見かけた。Kさんは吊尾根の最低鞍部付近から明日行く前穂北尾根の5・6のコルへトラバースするルートを探していたがなかなか見つからないようだった。

吊尾根
5/4 前穂高岳を下り、吊尾根をたどって奥穂高岳へ向かう。
奥穂高岳
5/4 奥穂高岳山頂にて記念撮影するK(左)と中山(右)。

 前穂高岳の山頂から標高3,000mを越えて何となく頭がぼんやりする。高山病のきざしのようなので大きく呼吸しながら歩いた。そのおかげかその後症状は悪化しなかった。奥穂の登りもあともう少しのところで先を行くKさんとKさんが足を止めていた。Mさん、Kさん、Mさんの都庁山岳部OBパーティーと偶然出会って話をしていた。先方は岳沢にベースキャンプを置いて今日は奥穂の南稜を登ってきたらしい。還暦なのにバリエーションルートを登るなんて私には真似できない。感服した。

 そこからしばらくで奥穂高岳の山頂。岳沢側と飛騨側から風が強く、寒い。風を避けるところもないので写真を撮って白出のコルへ下る。奥穂高岳を過ぎると涸沢から往復の客が多いようで登山者が増える。白出のコル手前のハシゴは下りにくいのではないかと思ったが、ほどほどに雪がついて夏とそんなに変わらなかった。

穂高岳山荘
5/4 穂高岳山荘のある白出のコルへ下る。
涸沢
5/4 たくさん足跡のついた雪面を涸沢へ下る。

 白出のコルは雪がたっぷり積もっており、穂高岳山荘の屋根と同じくらい雪が積もっていた。それでも小屋に入る道だけは雪かきして宿泊できるようにしているようだ。白出のコルは風がなく、暖かかったので大休止。

 あとは涸沢へ下る。雪が積もっているのでザイテングラードは経由せず直接涸沢に下る。昼を過ぎて多くの人が涸沢へ下っていた。尻セードしている人もいる。足跡が多く、思ったように靴が沈まず意外に歩きにくい斜面を下り、涸沢に到着。

 涸沢のテント場はロープで囲っており、その中に張るようになっているようだ。端っこのあいているところに幕営した。この日は12時間近く歩き、先行パーティーの待ちもほとんどなかったのでかなり疲れた。いつもテント内で足がつるので、この日は足をよくストレッチしてからテントに入ったら足がつることはなかった。今度からよくストレッチしてテントに入ることにしよう。

 2009年春 - 北アルプス・前穂高岳北尾根へ続く。


山ノ中ニ有リ山行記録一覧2009年山行一覧>北アルプス・明神岳東稜

inserted by FC2 system