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2008年春 - 北アルプス・剱岳小窓尾根[2/2]


2008年4月26日(土)〜29日(火・祝)
場所
富山県中新川郡上市町・立山町/北アルプス北部
コース
4月25日
上野駅集合=急行能登乗車(泊)
4月26日
魚津…新魚津=上市駅=馬場島…白萩川雷岩…小窓尾根1900m付近(泊)
4月27日
小窓尾根1900m付近…ニードル…ドーム…ドーム・マッチ箱コル(泊)
4月28日
ドーム・マッチ箱コル…2650m峰…三ノ窓…長次郎コル(泊)
4月29日
長次郎コル…剱岳本峰往復…長次郎谷…ハシゴ谷乗越…内蔵助平…黒部第四ダム=扇沢=大町温泉=大町駅
参加者
K、H、W、中山
天気
26日晴れのち雪、27日雪、28日雪のち晴れ、29日晴れ
参考文献

3日目

2008年4月28日(月) 雪のち晴れ

マッチ箱手前コル…2650m峰…三ノ窓…長次郎コル(泊)

コースタイム
ドーム・マッチ箱コル
2350m
3:00起床
6:20
マッチ箱頂上8:05
8:25
小窓尾根
2600m
10:00
10:20
小窓の王基部12:05
12:30
池ノ谷乗越14:35
14:45
長次郎コル15:55
20:10就寝

 夜はまた池ノ谷側から風が吹き、少し寒かった。今日は剱の北方稜線に登る。予定では今日中に下山、明日は予備日だが、実際は明日も行動することになるだろう。どちらにしろ、今日中に進めるだけ進んでおきたい。

 朝の天気はくもり。少し風が吹いていた。昨日フィックスしたザイルに従い、マッチ箱に登る。1ピッチ目、池ノ谷側の岩壁を登り、トラバース気味に左へ回り込む。ここにはザイルが残置されている。環付カラビナのうち1枚が開かなくなり焦る。2ピッチ目。雪面を直上し、西仙人谷側の尾根上に出る。正面の岩は登れないのでまた西仙人谷側にバンドをたどる。バンドの行き止まりで岩を直上。ここが昨日Kさんの言っていた一か所厳しいところ。Kさんのぶら下げたテープシュリンゲを使ってはい上がる。

マッチ箱
4/28 マッチ箱の登り。1ピッチ目概観。(ref. Mouseover)
マッチ箱
4/28 マッチ箱の登り。3ピッチ目。ピラミッドの一辺のような岩角にまたがって登るKさん。

 さらに3ピッチ目。雪のこびりついた小さなルンゼを登り、稜線に出る。稜線からピラミッドの一辺のような岩角にまたがり、ずりずりと登る。たぶん高度感がすごいのだろうけど、ガスのためによく分からない。ピラミッドの一辺から池ノ谷側に降りて尖った尾根のすぐ横を歩く。雪面に降りたところで一本。このあたりがマッチ箱の頂上だろうか。ちょうどそこは2人パーティーが幕営したらしく、小さく整地されていた。ここだと池ノ谷側がすぐ斜面で狭かったのではないかと思う。

2610m峰
4/28 雲の切れ間に2610m峰が見える。
2610m峰
4/28 2610m峰の登り。

 先を見るとしばらく水平に尾根が伸び、右に折れ曲がって2650m峰手前の2610m峰への登りになっていた。ガスが薄くなった瞬間、そのピークに2人の影が見えた。水平の部分は難しくないが、2610m峰の登りはかなりきつい。アイゼンの爪先2本で登る。この登り方はなかなか慣れない。ふくらはぎがつりそうになる。しかし、この日はこの登り方を最も多用した日だった。

2610m峰
4/28 2610m峰の肩に出る。後ろにはマッチ箱が眼下に。
小窓の王基部へ
4/28 小窓の王基部への縦走。

 2610m峰池ノ谷側の肩に出る。ここで一本。ここから先、2650m峰、小窓の頭など3つほどピークを越えて小窓の王基部に至る。2650m峰からは小窓尾根でなく北方稜線だと思うのだが、どこが2650m峰か小窓の頭か分からなかった。ここは稜線伝いに登った下ったりを繰り返す。

小窓の王基部へ
4/28 小窓の王基部への縦走。
懸垂下降
4/28 小窓の王基部から三ノ窓への懸垂下降。ガスで先が見えない。

 小窓の王基部から三ノ窓に下る。基部を少し池ノ谷側に巻くと2人パーティーに追いついた。2人パーティーは懸垂下降の用意をしていたので私たちはしばらく待つ。待っている間、雷鳥が「グエーグエー」と汚い声で鳴くのが聞こえた。下はガスで見えず、剱本峰の稜線も分からない。2人パーティーが下りきって、私たちの番。私はWさんに続いて2番目。開く環付カラビナが1枚しかなく、あせる。ザイル2本で下るが、途中25mほどでピッチをきる。2人パーティーはさらに懸垂下降したようだが、私たちは池ノ谷ガリーの登りを考え、岩根をトラバースする。2ピッチのトラバースの後、三ノ窓に登り返す。先行する2人パーティーはこの後、チンネを登ると言っていたので三ノ窓付近で足跡が交差するはずだが、私は気づかなかった。

トラバース
4/28 小窓の王基部のトラバース。
懸垂下降
4/28 三ノ窓手前から小窓の王の懸垂下降箇所を振り返る。(ref. Mouseover)

 三ノ窓のすぐ下をトラバースし、池ノ谷ガリーを登る。この池ノ谷ガリーがこの日のつらいところだった。水平距離250m、標高差200mの鏡のような斜面を一気に登る。途中に休むところはない。例によってアイゼンの2本爪で登るのだが、すぐ足が疲れてしまい、逆ハの字で斜面に沿って足を置いて登った。池ノ谷ガリーを登る間に雲が晴れ、池ノ谷乗越が見えた。一気に天気がよくなりKさんから「写真撮れ」の指令があったものの、あまりに斜面が急で、両手離して立ち上がると500mくらい滑落しそうなので「無理。落ちます」と拒絶した。それにしても見えるコルはなかなか近づかない。永遠とも思えるような登りをこなすとやっと池ノ谷コルにたどりついた。

池ノ谷ガリー
4/28 池ノ谷ガリーの登り。一気に登るので足がつらい。
池ノ谷コル
4/28 池ノ谷コルから長次郎ノ頭へ登る。

 池ノ谷コルで一本。遅れたHさんを待つ。振り返るとあんなに高かったはずの小窓の王がずっと低い。その先には池ノ平山や赤谷山が見えた。池ノ谷コルは八ツ峰の終了点でもあるのでトレースがあってもおかしくないのだが、トレースは見当たらない。人が入っていないのか、前日の雪でトレースがかき消されたか。

 ここから剱本峰へはそう遠くない。しかしアップダウンはあり、つらい。ちょうど池ノ谷コルから高山病気味で頭がボーッとする。正面の壁を登り、しばらくなだらかな稜線を行くと長次郎ノ頭。長次郎ノ頭の登りでは右足のアイゼンがはずれ、高山病と相まってパニックになってしまった。幸い、すぐ後にWさんがいたので、Wさんの指示に従い、アイゼンを履き直す。

長次郎ノ頭
4/28 長次郎ノ頭へ。奥は剱岳本峰。
池ノ谷コル
4/28 長次郎コルの長次郎谷側を整地し、幕営。

 長次郎ノ頭から斜めに下り、長次郎コル。せめてこのコルがなければ剱本峰までそう遠くないのだが、実際には切れ落ちているため下って登らなければならない。そして長次郎コルで時間切れ。15:00なので幕営とする。

 池ノ谷側は風が強いので長次郎谷側に幕営する。しかし、長次郎谷側は平らなところがなく、平坦にするのに時間がかかった。私は何もしなくても肩で息をするようになっていた。Kさんがひとりがんばって整地していた。

 この晩は頭も痛く、胃も気持ち悪く、つらかった。何でもいいから早く下山したくなっていた。

4日目

2008年4月30日(火・祝) 晴れ

長次郎のコル…剱岳本峰往復…長次郎谷…ハシゴ谷乗越…内蔵助平…黒部第四ダム=扇沢=大町温泉=大町駅

コースタイム
長次郎コル3:00起床
5:40
剱岳本峰6:30
6:45
長次郎コル7:15
7:45
長次郎谷二俣8:07
8:15
長次郎谷出合8:40
8:50
真砂沢出合9:05
9:20
ハシゴ谷乗越10:40
11:10
内蔵助平11:30
内蔵助谷出合12:15
12:28
黒部第四ダム下13:05
13:25
黒部第四ダム
トロリーバス乗り場
14:00

 朝から晴れ。絶好の登頂日和だ。しかし、私は高山病があとを引き、朝飯食べても気持ち悪い。それでも息切れはだいぶ収まった。テントをたたみ、私以外全員空身、私はHさんのザックでザイルと水、食糧を持ち、山頂へ向かう。

 長次郎コルからいきなり100mほどの登り。ザイルを伸ばし、スタカットで長次郎谷側を登る。今日は晴れだからよいが、Wさんが厳冬期に来たときにはガスでルートが分からず、源次郎尾根側に登ってしまい、いったん長次郎コルまで戻ってから登り直したそうだ。ザイルを2ピッチ伸ばし、厳しい登りを越える。

長次郎コル
4/29 長次郎コルから剱岳本峰へ登る。
剱岳本峰
4/29 剱岳本峰山頂に達したWさん。空の青が濃い。

 この先、剱岳本峰までは難しいところはない。なだらかな稜線をコンテで登る。たどりついた山頂は雪で覆われ、名前と違って丸い山頂であった。山頂の祠も見えず、看板もなく、ただ周りより高いから山頂と分かるだけ。なにやらあっけない。もしガスっていたら山頂と分からないのではないだろうか。

 しかし、天気はよい。五竜や鹿島槍などの後立山連峰と雲海。登ってきた小窓尾根が見える。そして空は濃い青だった。残念ながら立山や別山は雲に覆われて見えなかった。ため息の出るような山頂には私たちしかおらず、トレースも早月尾根側しかなかった。この連休、剱岳はあまり人が入っていないのだろうか。

小窓尾根
4/29 登ってきた小窓尾根を振り返る。
剱岳本峰
4/29 剱岳本峰で登頂写真。

 思う存分写真を撮り、長次郎コルへ戻る。長次郎コルの急な下りはザイル2本で懸垂下降した。2本で50mの下降にもかかわらず末端はまだ急で、足場をつくってからザイルをはずし下った。

 長次郎コルにたどりついてから一本。ここから黒部第四ダムまで下る。ルートは長次郎谷…ハシゴ谷乗越…内蔵助平…黒部第四ダムであり、下ったり登ったり下ったり登ったりである。

長次郎谷
4/29 長次郎コルから見る長次郎谷の下り。
長次郎谷
4/29 長次郎谷のデブリを越えて下る。

 まずは長次郎谷の下り。長次郎谷は文登研のとき、1/3ほど登っただけであまりに急なのに驚いた思い出がある。コルから見える谷も剱沢まで吸い込まれそうな急な斜面でちょっと怖い。しかし、みんなが当たり前のように谷へ踏み出すので私も一番後からついていく。下ってみると意外に急ではない。熊ノ岩が近づくとデブリが溜まっていて歩きにくい。そして暑い。熊ノ岩の下の長次郎谷二俣で一本とり、各自着ているものを脱ぐ。ついでにハーネス等登攀もはずす。

 熊ノ岩で長次郎谷の上から1/3ほど。まだ長い長次郎谷を下る。左に槍の穂先みたいなのを連ねた八ツ峰。右にごつい兜のような一峰を具えた源次郎尾根。どちらも一度行ってみたいものだ。見えるものは岩と雪と空だけ。剱岳が岩と雪の殿堂と呼ばれる理由がよく分かった気がする。谷の下部にはシュプールが何本か伸びていた。こんなところを下る人もいるのか。

 やがて剱沢に出る。剱沢は全面雪に覆われており、まぶしい。上からスキーヤーがひとりゆっくりと下ってきていた。さらに剱沢を下る。真砂沢出合あたりで一本。アイゼンをはずす。ハシゴ谷乗越ヘの登りは雪が腐っているのでアイゼンを付けていても意味がないそうだ。

剱沢
4/29 剱沢の下り。
ハシゴ谷乗越
4/29 真砂沢出合からハシゴ谷乗越へ登る。

 ほぼ夏道に沿ってハシゴ谷乗越ヘ登るが、トレースはない。みんなもっと下から登っているようだ。尾根に上がり、尾根沿いに登る。下山と思っていると長い登りだ。最後に100mほど慎重にトラバースしてハシゴ谷乗越

 ハシゴ谷乗越には黄色いテント1張りと剱沢から直登してきた山スキーパーティー4人と黒部別山側から来た1人とにぎやかであった。ハシゴ谷乗越から黒部第四ダム側には赤谷山が双耳峰のように見えた。眼下の内蔵助平は丸山、立山、黒部別山に囲まれ、箱庭のようだった。こんなところにこんな平らなところがあるとは知らなかった。ダムまであと6km。もうひと頑張りである。

 ザクザクと雪を踏んで内蔵助平へ下る。靴とスパッツの間、下側から雪が入り、靴の中に雪が入るので途中で靴を脱いで雪をかき出す。今日が最終日だからよいが、初日だと靴が濡れるのはまずい。みんなベルトをきつく締めて雪が入らないようにしているのだろうか。

 平坦な内蔵助平を過ぎ、内蔵助谷に沿って黒部川に下る。スキーヤーのトレースがあり、私たちがバックステップで下るような急な斜面を横滑りで下った跡がある。すごい人がいるものだ。と、思っていたら黒部の谷に出るところでそのスキーヤーに会った。単独で室堂から真砂岳を越えてきたそうだ。ザックは小さいがそれでも1泊しているとか。すごいおじさんだ。

黒部川下ノ廊下
4/29 黒部川下ノ廊下をたどる。左岸の日電歩道は雪崩によってズタズタに切り裂かれていた。
黒部第四ダム
4/29 黒部第四ダムを下部から見上げる。黒胡麻のように小さな観光客が堰堤上を左右しているの分かった。

 喉が渇いているが、黒部川の水はちょっと飲む気になれない。かといって内蔵助谷の水も遠い。あきらめて水筒のお茶で我慢する。日差しは暑い。この先、しばらく黒部川を遡るが、黒部川はほとんど雪に覆われており、スノーブリッジの上か左岸を歩く。雪の溜まったところは登りになるのでそう簡単には歩けない。下ノ廊下の日電歩道もいっぺん歩いてみたいと思ったが、見える歩道は雪崩と積雪でずたずたになっていた。道理で秋に雪が消えるまで下ノ廊下が歩けないわけだ。下ノ廊下を歩くのが目的なら秋に日電歩道を歩くより、積雪期に雪の上を歩いた方が速いかもしれない。

 右岸に赤沢を見送り、右に曲がる。そのあたりで先行する単独スキーヤーのおじさんが雪を踏み抜き、穴に落っこっていた。私が見たときは穴の隣で休んでいたのだが、何でもザックにしばりつけておいたスキー板が引っかかって助かったそうだ。見える穴は直径1.5mほど、下は真っ黒で何も見えない。私も同様に踏み抜く可能性があると思うと恐ろしかった。

 ダムの堰堤が見えるあたりの低い堰で川を渡る。積雪期で水量が少ないとはいえ、靴は濡れてしまった。ダムの堰堤のすぐ下で一本とる。堰堤までの登りが最後の一本だが、下山の最後が登りというのも変な感じだ。長く休んで登りに取りかかる。夏ならジグザグ道を登るはずだが、冬は雪の斜面を直登する。急な標高差200mの登り。また息を切らせながら登る。トップのKさんの後を追うが、差は開くばかり。やがて水平な道に出る。ここからいったいどこへ行くのだろう。ダムの堰堤へトラバースするのだろうか。先行するKさんの姿はない。そのかわり、雪面にはぽっかりと大きな横穴が開いている。なにやらトイレ臭い穴だが、水でも飲めないかと中に入るとそこが関電トンネルの入口だった。

 まさにトイレと手洗い場があり、そこを抜けるとトロリーバスのトンネルだった。看板に従い100mほど歩くとトロリーバスの乗り場。これにて本日の行程は終わり。初めて下流側からダムに出たので勝手が分からず、変な感じだ。でも観光客がたくさん列をなしていた。列の中には室堂近辺で滑ったと思われるスキーヤーもいた。靴を履き替え、列に並ぶ。並んでいる間、黒部ダム築造の話が備え付けのVTRで流れていたので眺める。破砕帯の通過とか薬液注入とか個人的に仕事の参考になりそうな話が出ていた。

 トロリーバスに乗り込み、扇沢へ。バスには立ち客がけっこういた。もう私は疲れて、うとうとしていたが、15分ほどで扇沢に着きすぐ起きた。扇沢でバスに乗り換え、大町温泉郷へ。薬師の湯にさっと浸かり、タクシーで信濃大町駅に出た。あとは松本まで各駅停車、松本からスーパーあずさに乗り換えて帰京した。八王子からは甲斐駒のときと同じく、京王線を新宿まで寝過ごしてしまった。

おわりに

 14年ぶりに剱岳を再訪することができてよかった。前回は夏でくもりだったが、今回は残雪期の晴れで、「雪と岩の殿堂」を目で体で体験することができた。

 かなり疲れたが、剱岳にはまた行きたくなった。

(2008年5月3日〜5月4日記す)


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