山ノ中ニ有リ山行記録一覧2008年山行一覧>奥秩父・大洞川井戸沢

2008年秋 - 奥秩父・大洞川井戸沢


2008年9月6日(土)〜7日(日)
場所
埼玉県秩父市(旧・秩父郡大滝村)、山梨県甲州市(旧・塩山市)
ルート
9月5日
池袋=西武秩父(泊)
9月6日
お花畑=三峰口=大洞川林道鷹ノ巣沢出合先…惣小屋沢出合…井戸沢1650m付近(泊)
9月7日
井戸沢1650m付近…牛王院平…七ツ石尾根…三ノ瀬…犬切峠=塩山
参加者
H、K、中山
参考文献

はじめに

 大洞川井戸沢は荒川大洞川の支流。将監峠に端を発し、惣小屋沢と合流して大洞川となり、秩父湖(二瀬ダム)に注いでいる。甲武信ヶ岳〜雲取山の奥秩父主脈縦走路と和名倉山との間に挟まれた山奥の谷でもある。地形図をみると川に沿って半分以上に両岸ガケマークが続いており、一見遡行不可能に見えるが、「東京周辺の沢」では3級、「奥秩父・両神の谷110ルート」では中級という位置づけの沢である。

 前にHさんにどこか行きたい沢を聞かれて、井戸沢と答えたのを覚えていてくれたのか、Hさんから誘われて登った。

1日目

2008年9月6日(土) くもりのち雨

お花畑=三峰口=大洞川林道鷹ノ巣沢出合先…惣小屋沢出合…井戸沢1650m付近(泊)

コースタイム
鷹ノ巣沢出合先7:35
7:50
惣小屋沢出合9:02
9:31
川胡桃沢出合10:00
キンチヂミ下11:22
11:45
栂ノ沢出合12:17
椹谷出合12:40
前新左衛門窪出合13:36
2条4m滝上14:16
14:35
奥新左衛門窪出合15:20
大滝15m16:00
7m滝上
1650m付近
16:44
20:00就寝

 前日のうちに西武秩父駅まで詰めておく。西武秩父駅からお花畑駅へ通じるアーケードの畳で0:30ごろ就寝。

 6:00起床。シュラフカバーをしまい、お花畑駅へ向かう。三峰口駅までの切符を買うとき、Hさんが1万円札を駅員さんに崩してもらっていたが、駅員さんが釣りをする人で大洞川の林道が崩れてゲートまで行けない話とか詳しく教えてくれた。

 すいた列車に乗って三峰口駅へ。予約していた丸通タクシーに乗り、大洞川林道へ向かう。行き先は「大洞川林道の行けるところ」まで。鷹ノ巣沢と大聖沢との間で通行止めになっており、そこで降ろされる。お値段は6,920円。そこには釣り師のものと思われる3台の車が停めてあった。

 歩き始めるとすぐ崖崩れの現場。ちょうど修復の工事中で崩れたところを砂で埋め、その上に作業に使うらしいバックホウが置いてあった。今日は土曜日、休工中で人はいなかった。そばを通過。大聖沢の手前の平らなところに地形図には小屋が1軒あるが、現在は小屋の基礎と飲み水とおぼしきタンクが残っているだけだった。

 大聖沢から荒沢谷へは緩やかに下っていく。荒沢谷を渡ると車止めのゲート。ゲートの手前は少し広くなっており、大滝村管理のブルドーザと国交省の雨量計が置いてあった。道の崩れがなければここまで車が入れるのだろう。

 ゲートを過ぎるとすぐ大洞川を渡る。ゲートの先はすでに管理されておらず荒れ放題になっていた。ところどころ上からガレが落ちてきていて道を埋めていた。それでも歩く分には問題ない。深く切り込んだ松葉沢出合から大洞川に降りる。Kさんの古い「東京周辺の沢」(遡行記録:1985年)には林道歩いて松葉沢に出てから松葉沢を下る、となっていたが、私の新しい「東京周辺の沢」(遡行記録:1995年)には「林道が松葉沢を回り込む手前に惣小屋沢出合に下る踏み跡がある」とあり、それらしき踏み跡を下る。踏み跡はだいぶ急で、すぐ松葉沢に出て沢沿いに下る。堰の下で飛び石で松葉沢を渡り、大洞川に出る。大洞川には1mほどの高さの堰があり、そこで踏み跡はなくなる。「奥秩父・両神の谷110ルート」に書いてある「本流にかかる木橋」は見あたらない。ここで入渓準備。

 入渓の際、カメラのメモリがほとんどないことに気づく。どうやら先週登ったときに撮った倉沢谷の写真がメモリに残っていたようだ。しかもフォルダの名前を変更してしまったからかカメラの操作でメモリを消すことができない。残念だが、今回は3枚しか写真を撮ることができなかった。

 入渓の準備がすんで遡行開始。目の前の堰は1mほどの高さで難なく越えられそうに見えるが、これがなかなか難しく、左側から巻く。すぐ左から井戸沢が合わさる。井戸沢に架けられていた橋の残骸が残っていた。惣小屋沢と井戸沢の水量比は1:1。どちらが大洞川本流かよく分からないが、「奥秩父・両神の谷110ルート」によれば「”奥秩父有数の悪渓“と言われる大洞川、その本流が井戸沢である」。そういえば入川谷や滝川の本流は遡行対象となっているけど、大洞川の本流は遡行対象として紹介された本を知らない。堰や平凡な河原が多いのだろうか。

 それはともかく井戸沢に入る。井戸沢はしばらく平凡な河原が続く。最初の足慣らしにはちょうどいい。川胡桃沢を左から合わせ、門みたいな滝のあとゴルジュになる。通らずの入り口だろう。はじめは持ってきた遡行図と対象がとれずどこだか分からない。深い淵があると私は腰までつかりながらKさんはへつりながら歩く。左から右に斜めに下る滝を越えるところで左の残置ザイルを引いて登ったら意外に下れず、下から回ったKさんに先を譲った。またたいしたことのない滝を右から巻くとき、降りられずその辺の木で懸垂下降する。下ってからザイルをたたんでいたらザイルにヒルがくっついていて黄色い声をあげてしまった。結局、井戸沢でザイルを出したのはこの1カ所だけだった。

懸垂下降
9/6 懸垂下降。井戸沢でザイルを出したのはこの1カ所だけだった。

 大岩の二条の滝の後、無名の沢が左から入ってくる。沢が右に曲がるところ、3mほどの滝のところで左側を進んでいると登りにくいところがある。残置されているロープをつかみ登る。Kさんはザックをしょったまま、Hさんと私はザックを引き上げてもらい、空身で這い上がった。よく見ると左岸にシュリンゲが2本ぶら下がっており、どうやら左岸から巻くのが普通なのかもしれない。

 やがて右岸に幕場を見送ると平ナメ20m。気持ちがいい。ナメを抜けてキンチヂミ入り口の8m滝。この手前で一本とる。一本とりながらキンチヂミの巻き方を観察する。「東京周辺の沢」「奥秩父・両神の谷110ルート」とも左を巻くと書いてあるが、なにやら急な崖で踏み跡も下からよく見えない。しかし、少したどってみるとすぐしっかりした踏み跡を見つけることができた。

 キンチヂミの悪場はだいぶ高いところまで登る。テープがところどころつけてあるので迷いはしない。滝を隠している小尾根を回り込んだ後、長いトラバース。途中、左から水がしたたっており、足下が不安定である。ずっとザイルが張ってあるのでそれをたどる。最後は枝沢沿いに下り、ザイルは使わなかった。吉川栄一「沢登り 入門とガイド」には「ザイルで懸垂下降するのはルートファインディングが下手な証拠である」と厳しい評価があったが、さいわいザイルは出さずに下れた。翻って下流を見ると最初の滝が見える。だいぶ大高巻きになった割に大して進んでいなかった。

 なお、巻き道にはいくつか「1994 上水道」と書かれた青いテープが巻かれていた。酉谷山北の矢岳でも「東京ガス 1997」と書かれた緑色のテープがあったし、みんな会社のものを流用しているのかしら。

キンチヂミの巻き
9/6 キンチヂミの巻き。高度感があり、ちょっと怖い。ロープがずっと続く。

 キンチヂミを通過してからしばらくで栂ノ沢出合。すぐ手前の左岸に幕場と小さなザックが置いてあった。本人はどこにいったのだろうと思いながら歩いていく。「岩の挟まった二条滝を左のロープつかんで登る」と私の記録に書いているが、全然思い出せない。倒木の上を歩いていると釣り竿を持ったザックの持ち主が下ってきた。軽く挨拶して去る。今回の沢で入山から下山まで唯一会った人である。天気悪いとの予報だったのでみんな入渓は避けていたのだろう。

 狭く浅い小さなゴルジュの後、正面にくずれたガレの斜面が見えてくると椹谷出合。水量は1:1だが、本流の井戸沢は巨岩で埋まってしまったように見える。伏流しているところもある。アスレチックのように倒木などを使いながら越える。そのあたり左岸に資料にある通り、岩小屋があったが狭そうだった。最後狭いところにかかる段々の滝をシャワークライミングで登る。濡れるのが嫌いなKさんは「さむさむ」といいながら登ってきた。

 F2-10m滝は意外に苦戦した。左手のルンゼを直上して斜めに下る。下るところで岩の上をスライドするところがあり、滑りそうな上、手がけがなくて怖い。Kさんに先に行ってもらうとすぐ先に掴める木の根っこがあった。その下も木の根っこに頼りながら下った。

 13:20ごろから雨が降り始め、たちまち本降りになってしまった。今日は何とか天気が持つかと思い、できるだけスピードを出して歩いていたが、テントを張る前から降られるとは思っていなかった。カッパを着込み、足も速める。正面に滝が見えるとそれが前新左衛門窪。雨はやまず。1270m付近、沢が左に折れ曲がり、右手から枝沢のおりてくるところは枝沢側を登っておりる。そこを過ぎるとある程度雨は弱くなってくる。

 奥新左衛門窪手前のゴルジュに入る。最初の4m2条滝の手前は淵になっており、私は腰まで浸かって越したので、後続のKさんが嫌々水の中に入る様子を見ようと思ったら見事に左からへつって越えてきた。そこで雨もやんだので一本とる。雨とはいえキンチヂミ下から3時間、だいぶ長い一本になってしまった。

 4m2条滝は左から歩ける。石門にかかる4mスダレ状滝は水際の左を登るが、休んで乾いた体には水が冷たい。4m2条滝を越えていくつか滝があるが、F3-6mの滝だろうか、難しい滝があった。右の狭いところに入り、落ちているシュリンゲをつかんで登るが、その上がない。先を登ったKさんに聞くが、なんか右手の中指一本で登ったらしく、私にはとても無理であった。Kさんにシュリンゲ伸ばしてもらい引き上げてもらう。

 そこからしばらく滑床が多い。井戸沢のハイライトではなかろうか。残す難しい箇所は大滝を残すのみ。気持ちがいい。左岸に幕場を見送ると奥新左衛門窪出合。本流は左手に3mの滝をかけて合流している。滝の左の踏み跡から上がると左手にまた幕場があった。

 井戸沢に入ってもしばらくナメがある。ホールドの細かいナメ滝を越える。やがてゴルジュになり、20m大滝。右岸が崩れており、倒木で埋まった滝を登る。くるりと左に回り込むと大滝。圧倒的な高さで落ちている。よく見ると右からも一筋落ちていた。たぶん標高1550m付近ではないだろうか。

20m大滝
9/6 20m大滝。左から巻く。

 少し戻って大滝の巻き。崩れている右岸の手前を慎重に登る。左方向斜めに登っていくと先ほどの崩れの上に出る。そこから右方向斜めに登っていくと乗越のようなところに出て沢に簡単に戻る。

 これで核心部はすべて消化した。一方時刻は16:18。もう幕場を見つけないといけない。古いガイドブック(古い「東京周辺の沢」、「沢登り 入門とガイド」)によれば大滝より上に「小屋跡」があるらしいので、小屋跡なら平坦じゃないかとあたりをつける。しかしところどころ平坦に見える笹ヤブを物色しながら歩くが、テントを張れるだけのスペースは見当たらない。次の7m滝を越える。水量もだいぶ少なくなり、小川の様相だ。やがて踏み跡っぽいものが沢沿いに現れだし、右岸に張れそうなところが見つかった。少し沢が近いが、もう流域も狭いし増水しても右岸に逃げられるのでここに張ることにする。標高は1650m付近

幕営
9/6 1650m付近に幕営。これ以降、携帯電話のカメラで撮影。

 石をどけると砂地のいい幕場になった。すぐテントを張り、飯の支度を始める。Kさんもたき火の支度を始めるが、薪に火がつく前に雨が降ってきた。外に干していたハーネスなどを急いで取り込みテントに引っ込む。テントに引っ込むとすぐザーザー降りになってしまった。トイレに行くのもはばかられるような雨だ。

 酒を飲みかわしているうちに雷まで鳴る始末。明日の方が天気が悪いという予報だったので、明日の朝も降っているのだろうか、降っていたら嫌だなあという話をしつつ、就寝した。

2日目

2008年7月26日(土) 晴れのちくもり

井戸沢1650m付近…牛王院平…七ツ石尾根…三ノ瀬…犬切峠=塩山

コースタイム
7m滝上
1650m付近
4:00起床
6:10
牛王院平7:05
7:35
三ノ瀬8:35
犬切峠9:40
9:45

 4時起床。昨日の残りの豚汁と朝のラーメンを食べて出発。懸念していた天気は意外に快晴。木々の間から見える空がまぶしい。

幕場付近
9/7 幕場付近の細くなった井戸沢の流れ。
出発
9/7 テントをたたんで出発。

 細い流れを登る。昨日稼いだ分もあり、今日は稜線まで長くない。だんだんと笹の多くなってきた小川を登る。4mほどの小滝を3つほど登り、右から沢を合わせる。1700m付近で周りは平らだ。井戸沢は大半がゴルジュである代わり、上部が非常に平らだ。その分、詰める先のルートファインディングが難しい。左から小さい沢を合わせ、すぐまた左から小さい沢を合わせる。地形図を読むとこの沢を詰めていけば将監峠なのだが、「東京周辺の沢」「奥秩父・両神の谷110ルート」に載っている「小屋跡」「作業小屋」というのが全く見当たらない。そのため作業小屋をめざし、本流と思われる右をとる。

1700m
9/7 1700m二俣付近の渓相。おだやかな流れ。
沢を離れて
9/7 沢を離れて笹原に登る。

 右へ行くとすぐ倒木で埋まっていた。左から巻こうとすると踏み跡を見つける。これをたどると沢沿いでなく左手の笹の丘に出るのでこの踏み跡に沿って登る。ずいぶん平らかな笹原が広がる尾根で隣の尾根も同様だ。尾根が低い分、峠も近そうだ。左手に沢があり、沢の音も聞こえる。しかし、なかなか笹原はつきることなく、踏み跡もはっきりせず、しんどい。沢から上がって15分くらい、前方の木に人の手で作った巣箱が見え、それが登山道の印になった。

踏み跡
9/7 笹原の踏み跡をたどる。途中から踏み跡がはっきりしなくなる。
奥秩父主脈縦走路
9/7 奥秩父主脈縦走路の牛王院平のすぐ西に出た。

 無事、奥秩父主脈縦走路に出た。出たところは将監峠ではなく、牛王院平から徒歩1分西に歩いたところ。尾根筋に引き込まれた結果、だいぶ西よりに出てしまった。正解は2本左から沢が入ってくるところ、2本目の沢を登ればよかったのだろう。

牛王院平
9/7 牛王院平で沢装備を解除。
三ノ瀬へ
9/7 牛王院平から七ツ石尾根を経て三ノ瀬へ下る。

 広くした草の生えている牛王院平で沢装備を解除。身軽になって七ツ石尾根を下り、三ノ瀬へ下りる。まだ天気は晴れ、正面には大菩薩嶺が見えた。三ノ瀬に下ってからタクシーを呼ぶことにするが、携帯電話が通じない。au, softbankともダメ。しかたなくとぼとぼと下る。途中、民宿しゃくなげ荘というところを見つけ、そこで電話を貸してもらえないか頼む。民宿のおかみさんとおぼしき方が快く貸してくれ、というか代わりに電話してくれ、おまけに飴までもらってしまった。

 あとから考えてみればそこでボケッと待っていればよかったのだが、適当な目印を尋ねて「犬切峠」と言われ、犬切峠まで向かうことにする。途中、一ノ瀬川沿いの林道は崩れたそうで通行止め、工事中だった。三ノ瀬から下り、犬切峠へ200m近い標高差を登る。登りきったところでタクシーと落ち合った。

 タクシーに乗り、青梅街道を突っ走り、塩山駅近くの塩山温泉に。犬切峠から塩山温泉まで8,450円。タクシーに案内されたのは宏池荘という温泉。400円で安く、石けんもあってよかった。塩山駅まで15分ほどの道のりで駅前でそばを食べ、12:02の普通高尾行きに乗って帰京した。

おわりに

 最近、雨続きで今回もくもり時々雨の予報だった。結果的に雨にも降られ、少し危なかったわけだが、早足で沢を抜けることで天気が悪いなりにもうまくこなせたと思う。しかし早足だったためあまり沢を楽しめなかった。

 加えてカメラのメモリがいっぱいで写真が3枚しか撮れなかったのも満足できなかった。

 そんな感じで消化不良の感がある。沢自体はさほど難しくもなくよかったと思うので、また来たいと思う。

 しかし、これで秩父湖から上流の荒川右岸の沢は今回の大洞川井戸沢、大洞川和名倉沢滝川水晶谷入川金山沢大荒川谷入川真ノ沢と大きな沢はだいたい登ってしまった。うれしいやら寂しいやらである。

(2008年9月7日記す)


山ノ中ニ有リ山行記録一覧2008年山行一覧>奥秩父・大洞川井戸沢

inserted by FC2 system