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2008年秋 - 上越・朝日岳〜巻機山[1/2]


2008年10月18日(土)・19日(日)
場所
群馬県利根郡みなかみ町(旧水上町)・新潟県南魚沼市(旧南魚沼郡塩沢町)
コース
17日
東京=高崎=土合(泊)
18日
土合…白毛門…朝日岳ジャンクションピーク…大烏帽子岳…檜倉山(泊)
19日
檜倉山…柄沢山…米子頭山…巻機山…桜坂駐車場
参加者
単独行
天気
2日とも晴れ
参考文献

はじめに

 今年は全然山の県境に行っていない。だいたい5月の連休に西上州、10月頃に奥鬼怒に行っていたのだが、西上州も昨年であらかた登ってしまったし、奥鬼怒も念願の金精峠〜物見山の縦走を昨年果たしたので若干燃え尽きた感があった。

 今年の10月もどこか登ろうと思いつつも時はだんだん過ぎ去っていく。でも今年のうちに登っておきたい県境があった。それがこの朝日岳〜巻機山の縦走である。なぜかというと新田次郎の本による。新田次郎「先導者・赤い雪崩」に収録されている「先導者」にこの朝日岳〜巻機山の縦走が載っていたのだ。それを7月に読んで、あー行かなきゃなーと思っていたため、今回実行した。

 この山域の説明にはその「先導者」の冒頭部分が簡潔にまとめているのでそのまま引用しよう。

 信州、上州、越後の国境を走る三国山脈の東端に谷川岳がある。山脈はそこから北に向かって、越後と上州の境を走る。朝日岳、柄沢山、米子頭山、巻機山等が16キロメートルにわたって、並んでいる。この国境尾根について終戦間もないころの登山案内書にはこう説明している。

(このルートはいわゆる登山路ではない、所によっては狩人が開いた径(みち)があるが、全体としては、這松と熊笹に掩(おお)われた尾根続きである。根拠地は清水村であるが、縦走路としては未開である)

新田次郎「先導者」冒頭部分 - 「先導者・赤い雪崩」(新潮文庫,1995)収録P.8

「日本百名山」で深田久弥が指摘している通り、もし上越線が清水峠に作られたなら、谷川岳と同じくらいに登られた山域であろう。

 上越線が計画された時も、この旧清水峠を通じるものと、現在の線路と二つの案があったそうである。もし前者が採用されていたら、上越国境の中でもあまり人に登られていない桧倉の頭、柄沢山、米子頭山、巻機山の連峰が、もっと世に現れただろう。これらの山々の中で、最も高く、最も立派なのが巻機山である。

深田久弥「日本百名山」(新潮文庫,1986)P.126

0日目

2008年10月17日(金) 晴れ

東京=高崎=土合(泊)

 職場にはザックをしょって出勤し、終業後新幹線に乗って高崎へ。高崎で上越線に乗り換え、土合へ向かう。はじめは在来線だけ水上まで行って、翌日土合へ行くことも考えたが、それだと土合着が8:30ごろと遅くなるので新幹線を使って前日のうちに土合までつめておくことにした。

 意外に土合で下車する客は多い。私の他に4人ほど下車していた。地上の駅舎にもすでにクライマーらしきテントが張ってあり、外にも車が何台か並んでいた。駅舎の片隅で寝始めるが、下り線のトンネルから強風が吹いてくるらしく、吹き込む風で外のドアが開き寒い。もそりと起きて改札の引き戸を閉めて寝た。途中で起きるとその改札のそばに3人が寝ていた。

1日目

2008年10月18日(土) 晴れ

土合…白毛門…朝日岳ジャンクションピーク…大烏帽子岳…檜倉山(泊)

コースタイム
土合駅4:30起床
4:50
1000m5:45
5:55
松ノ木沢の頭1484m7:00
7:21
白毛門8:00
8:10
笠ヶ岳8:52
8:55
朝日岳(水汲み)9:47
10:23
ジャンクションピーク10:36
10:38
大烏帽子山11:37
11:48
1614m鞍部北13:00
13:10
檜倉山14:21
17:30就寝

 起きるとクライマーのテントもなく、後から来た3人組もいなかった。私と一緒に列車を降りたグループはまだ寝ていた。朝起きて何も食べる気が起きず、何も口に入れずに土合駅を出発。

 5時だとまだ外は暗いが、月が明るい。ヘッドランプも不要なくらいだ。しかし東黒沢を渡り、樹林帯の中に立つと暗く、ヘッドランプを出した。そして白毛門へ取り付く。ところで白毛門に縦走で登るのは初めてだ。白毛門沢ナルミズ沢湯檜曽川本谷の帰り道として白毛門から下ったことはあるが、登ったことはない。しかし、下りでも長くつらいので登りではもっとつらいと思いながら歩く。

 まだ暗いと道が見えず、ところどころで変なところに登ってしまうが、やがて5:30頃になると明るくなり始め、ヘッドランプが要らなくなる。朝の涼しいうちなので急登を行くにはちょうどいいのだが、気分は最悪である。腹の調子が悪く、気持ち悪さすら覚える。そして眠い。もう帰りたいくらいだ。しかしこの日、都庁山岳部の他の人たちが馬蹄型縦走をするので明け方から下る姿を見られたくないという、後ろ向きな意志のもと登り続けた。途中腹が下り、登山道脇のやぶでキジ撃ち。ついでに休み、1人抜いてもらう。追われるのは何となく気分が悪かったので抜いてもらって少し気が楽になった。

 キジ撃ちを済ませても依然として気分の悪いまま白毛門へ登る。正直、あんまり面白い道でもないし、今回の核心部でもないので道の様子はあまり覚えていない。松ノ木沢の頭で一本とり、ついでに10分仮眠する。向かいには一ノ倉沢がよく見えた。

 さらに40分で白毛門山頂。ここでまた一本とる。夜は明け、空には雲一つない。天気がよいので縦走は順調に行きそうだ。下って登って笠ヶ岳。30分くらいかと思ったが、登りが長く40分かかる。いつもは逆コースなのでどのくらい時間がかかるか読めない。笠ヶ岳で休まずそのまま朝日岳に向かう。鞍部の笠ヶ岳避難小屋を横に見たり、湯檜曽川大倉沢の源頭がヤブになっているのを見たり。

 朝日岳についてすぐ一本とりたいところだが、少し先の水場で水を汲んでおかなければならないためもう少し進む。今回の国境稜線で流水の水場は2カ所ある。1つはこの朝日岳、もう1つはナルミズ沢の源頭。それを過ぎると巻機山避難小屋の米子沢左俣源頭まで水場はない。あるいは檜倉山、柄沢山北の池塘の水を飲むか。その中で最も稜線から近い水場が朝日岳なのでここで水を汲む。

朝日岳
10/18 朝日岳にてこれから行く上越国境を背景に。
水汲み
10/18 朝日岳にて8リットル水汲み。

 水場の場所は朝日岳から宝川温泉に下る道を1分ほど下ったところ。平坦な朝日岳の片隅に流れる小川である。稜線に近い分、大して水は流れていない。しかし十分飲用に堪える水である。コップを使って計8リットルの水を汲む。これで巻機山避難小屋の水場まで持たせるつもりだ。その水場で会った単独行の人は8リットルを多いと驚いていたが、私は停滞を考えたらむしろ少ないと考えていた。結果としては巻機山で残り2リットルになっていたのでちょうどよかった。

 さて水を汲み終わり、縦走路を進むと朝日岳ジャンクションピークに着く。ここから巻機山までの間が今回目的とする上越国境だ。といってもジャンクションピークからナルミズ沢のコルまではナルミズ沢遡行(2003年2006年)の際歩いたことがあるので、初めてではない。ナルミズ沢のコルまでは笹で滑りやすいけれども、おおむね道もありヤブも薄い。看板には「巻機山/難路・道ナシ」とある。「難路・道ナシ」と警告してくれている分だけ、奥秩父三国峠「御巣鷹山」の看板よりマシだ。

朝日岳JP
10/18 朝日岳ジャンクションピーク。看板には「巻機山(難路・道ナシ)」と忠告がある。
朝日岳
10/18 朝日岳JPからの下り。大烏帽子山までは道がある。

 ジャンクションピークから巻機山への縦走路に入るとすぐ笹ヤブ。トラバース気味に下ると草地に出て急降下する。滑り落ちるほどではないが、ていねいに踏み跡をたどると歩きにくいので草地の適当なところを下る。

 下りついてからは稜線のわずかに群馬側に伸びる踏み跡をたどる。途中笹ヤブもあるが、足下は道があるのでさほど苦にならない。さすがに多くの遡行者を集めるナルミズ沢の帰り道である。笹に覆われたナルミズ沢のコルにたどり着く。ここからナルミズ沢の源頭までは15分ほど。しかし水は朝日岳で汲んできているので今回は通過。

ナルミズ沢のコル
10/18 ナルミズ沢のコルから大烏帽子山の登り。笹ヤブを行く。
ガレ
10/18 途中で群馬側のガレを使って登る。

 ジャンクションピークからナルミズ沢のコルまで続いてきた道は忠実にナルミズ沢へ下っていく。国境稜線を歩く人の踏み跡ではなく、完全にナルミズ沢から朝日岳へのお帰りルートである。沢へ下るところで道を離れ、大烏帽子山へ向かって稜線を歩く。しかし稜線は笹に覆われ道がない。笹の丈はヒザくらいなので見通しがきくが、見当たらず適当なところを歩く。やがて笹ヤブが切れて草地になると群馬側のガレを使って大烏帽子山に登る。

大烏帽子山
10/18 大烏帽子山山頂。三角点が置いてあるだけ。
大烏帽子山
10/18 大烏帽子山から檜倉山、柄沢山にかけての稜線。ところどころで群馬側の黄色い草地を使って歩く。

 大烏帽子山三角点の直前になって稜線に道を見つける。山頂にだけ道があってもなあ。山頂にてザックを下ろす。日射も暑く水をごくごく飲んでしまう。貴重な水だが足りなくなったらなったで何とかなるだろう。天気がよいので行く先の檜倉山、柄沢山、巻機山がよく見える。檜倉山へはところどころ黄色い草地が広がっているので草地を縫っていけばなんとかなりそうだ。

 大烏帽子山から下る。三角点のあたりに一瞬あった道はすぐ消えてなくなり露岩に出た。左・新潟側のヤブに突っ込むか、右・群馬側の露岩をていねいに下りるか。その先の草地が群馬側にあるので右・群馬側の露岩を下る。途中笹ヤブ地帯を通過するものの草地の斜面に出た。草地はけっこう長く続き、真ん中に道がある。できれば草地でなく笹ヤブの中に道が残っていてほしいものだが、草地の方が植物が回復しにくいということなのだろう。

草地
10/18 大烏帽子山北の草地。
檜倉山
10/18 檜倉山の登りを俯瞰。かなりヤブが濃い。

 平和な草地が終わると檜倉山までの笹ヤブ。所々群馬側のガレを縫いながら下っていく。ヤブの高さは背を超える程度、笹の中にシャクナゲ、マツが混じってきてかなり手強い。また大烏帽子山からは草地が見えたが、下ってみると思ったほどトラバースに使える草地がなく、ひたすらヤブ漕ぎである。圧倒的なヤブの前にコルを過ぎたところでいったん休憩。

 そのあと1640m付近で群馬側の草地とガレを使ってヤブを回避するが、途中でまた笹ヤブになるので稜線に戻る。稜線はもう頂上間近かと思っていたが、稜線に登ってみるとまだ500mくらいヤブが続く。もう息は切れ切れ、喘ぐようで3歩進んで呼吸を整えるような調子。途中で笹踏んでこけて軽く休む。

檜倉山
10/18 鞍部から檜倉山の登り。
檜倉山
10/18 檜倉山山頂近くのヤブ漕ぎ。

 暴れるように一踏ん張りしてやっと草地に出た。そこは檜倉山の頂上の一端でめずらしく新潟側に広がる草地だ。さらに稜線を横断する笹ヤブ地帯を横切ると檜倉山の池塘に出る。広い檜倉山の山頂の真ん中に三日月型の池塘が一つあり、稜線は北へ向かって緩く登っている。池塘の水は澄んでいるが、葉っぱとか浮いているしこれを飲むのは勇気がいる。池塘の周りは苔の湿地帯になっていて靴が少し沈む。まるで知床沼のようだ。池塘の先に渇いた幕営に都合いい平地があり、そこにザックを置く。

 さて、今日はどこまで進むか。現在時刻は14:20。まだ日没まで時間はある。天気のいい今日のうちに進めるだけ進んでおきたい。しかし檜倉山のヤブ漕ぎで疲れてしまい、これほどの好テン場を見てしまうと動く気もしない。とりあえず空身で先の様子を見に行き、あと1時間以内にたどり着けそうな草地がなければここに幕営することにした。

檜倉山
10/18 檜倉山の池塘。
檜倉山
10/18 檜倉山に幕営。

 池塘から踏み跡が伸びており、檜倉山の山頂を群馬側から巻くようにして北へ向かっている。これをたどると檜倉山北の草地に出て柄沢山への展望が開けた。見たところ、近くにテントの張れそうなところは見当たらない。したがってここ檜倉山にツェルトを張ることにした。それにしても柄沢山が遥か遠い。アルペンガイドだと2時間半だが4時間くらいかかりそうだ。

 偵察のついでに檜倉山の最高点とおぼしき笹ヤブで三角点を探すが見当たらなかった。この平らな笹ヤブで探すって人海戦術でも敷かない限り無理だと思う。

 戻ってツェルトを張る。思ったより早い幕営になり、昼寝して天気図とってメシを食べる。メシは職場備えで期限間近になって配給された非常食のアルファ米を食べたので調理も楽だった。夕暮れ時になると東風が強くなり、池塘にさざ波が立っていた。明日も長い戦いとなるので17:30、早めの就寝。


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