都庁山岳部では雪山の訓練ということで毎年冬の始まりに富士山に登っている。それも単に登るだけでなく、2泊して初心者を対象に滑落停止やスタンディングアックスビレイなどの訓練を行っている。
私もピッケルにアイゼン履いての雪山は初めてなので、初心者としてこの山行に参加した。
0日目 |
2006年12月1日(金) |
立川駅集合=吉田口登山道・馬返し(泊)
22時立川駅に集合。明日遅れてくるKさんを除く4人が集合、Sさんの車に乗って出発する。すいた中央道を西へ進み、車道終点の馬返しで下車。着いたのは23:30で、他には3台ほど車が停まっていた。ジャンボエスパースを立てて、中で少し酒を飲み、1:00就寝。
1日目 |
2006年12月2日(土) 晴れ |
馬返し…五合目佐藤小屋…スバルライン終点上…小御岳流し2600m付近雪上訓練…スバルライン終点上(泊)
馬返し | 5:35起床 |
7:01 | |
二合目 | 7:47 |
林道細尾野線 | 7:58 |
8:10 | |
三合目 | 8:20 |
四合目 | 8:42 |
四合五勺 | 8:54 |
9:10 | |
五合目佐藤小屋 | 9:41 |
9:55 | |
スバルライン終点上 | 10:29 |
11:02 | |
2700m付近雪上訓練 | 11:47 |
14:20 | |
スバルライン終点上 | 15:11 |
19:30就寝 |
5:35起床。外では10台ほど車が止まっていた。テントをたたみ出発。馬返しの駐車場から富士山が見えた。木の階段を登り、単調に登っていくと一合目。地味につらい登りが長く続き、神社のある二合目。二合目では若者4人が休んでいた。45分歩いたのでそろそろ休みたいが、もう少し足を伸ばす。コンクリートの階段が現れると林道細尾野線終点。ここで一本。林道細尾野線は滝沢林道の枝線である。
12/2 馬返しの駐車場。 |
12/2 馬返しから見た富士山。 |
三合目へ登り始めると、右手の大堀というガレ沢に堰がいくつかあり、この堰を造るために林道が引かれたようだ。林道から10分で三合目。廃屋が建っている。2年前の夏に登ったときはここで仮眠した。夜もすっかり明けて遠くから大砲の音が聞こえてくる。北富士演習場の砲弾の音だろうか。だんだんと傾斜は増してきて四合目。四合目には建物は残っていない。さらに四合五勺まで登ると展望がある。しかし風が寒いので小屋の裏手で休む。
12/2 四合五勺の小屋で休む。 |
12/2 廃屋の五合目小屋。佐藤小屋より下。 |
四合五勺からすぐ氷を見つける。水が流れているところが見事に凍っていた。そこからいくつか廃屋を見かけた後、石畳の道を辿ると滝沢林道に出る。滝沢林道を少したどって五合目佐藤小屋。風が冷たいのでここでカッパを着る。佐藤小屋にあった温度計はマイナス7℃を示していた。ここから滝沢林道に沿って富士スバルラインの終点でもある小御岳神社に向かう。
林道は六合目からの道を合わせると薙を横断する。そこには雪が斜めに溜まっており、通過するには谷側を一列に並んでいかなければならなかった。スバルライン終点が目の前になったところで道をはずれて、左手の小御岳流しに向かって歩き始める。獣道が交錯しているが、まともな道はない。少し登ったところに平坦なところがあり、そこにテントを張った。ときどき車の音が聞こえるので冬期にもかかわらずまだスバルラインが通っているらしい。
12/2 スバルライン終点上に幕営。 |
12/2 小御岳流しでの雪上訓練。Kさん。 |
そして雪上訓練。ピッケル等、必要な道具だけを持って小御岳流しへ向かう。しばらく樹林帯を歩き、15分ほどで樹林帯を抜ける。そこからザレた赤黒い斜面を登っていく。2600m付近でアイゼンを履く。その際、風が強く、買ったばかりのカッパの袋を飛ばされてしまった。残念である。
練習内容は、ピッケルの持ち方に始まり、アイゼンをはいた状態での歩行、直登、直下降、斜めに登る、斜めに下る、滑落停止である。アイゼンをはくと急斜面でも意外に止まり、歩きやすい。しかし、斜面と平行に足を置くという動作がどうしても慣れない。またかかと同士を引っかけないように両足を少し離して歩くのも慣れない。そして下りも斜面に沿って足を置くので怖い。斜めに歩くのも左に登るのは利き手の右手でピッケル持って斜面を突けるので歩けるが、右に登るときは右手でブレードを持って左手でピッケルの柄を持つか、左手でピッケルを持つので歩きにくい。
12/2 雪上訓練中。振り返るとスバルライン終点の建物と河口湖。 |
12/2 下る中山。 |
滑落停止も行った。形は何となく知っていたが、実際にやるのは初めてである。Kさんにビレイをしてもらい、滑落する。しかし、滑落停止をしてもうまく止まらずブレードを雪面に刺したまま何メートルか落ちてしまった。それもピッケルにぶら下がるように腕が伸びてしまい、滑落停止の形にならない。ブレードを鎖骨の上に置くのが正しいと分かってもなかなかうまくいかない。結局うまく行かなかった。後で気がついたが、左手の関節が雪面にあたっていたらしく痛みが残った。
この日は2時間ほどの練習で切り上げた。練習を切り上げるころ、遅れてきたKさんが登ってきたので一緒に下った。この日の晩飯はとり鍋。ワインがシャーベット状に凍っていた。
2日目 |
2006年12月3日(日) 晴れのち曇り |
スバルライン終点上…吉田口登山道…浅間神社奥宮…吉田口登山道…スバルライン終点上(泊)
スバルライン終点上 | 4:25起床 |
6:30 | |
六合目・七合目間 | 7:25 |
7:40 | |
七合目トモエ館 | 8:01 |
8:15 | |
八合目太子館 | 9:10 |
9:20 | |
本八合 | 10:25 |
10:45 | |
浅間神社奥宮 (富士吉田口頂上) | 11:53 |
12:10 | |
八合目 | 13:36 |
13:53 | |
六合目・七合目間 | 14:05 |
14:12 | |
スバルライン終点上 | 14:52 |
21:40就寝 |
この日は天気がよさそうなので山頂を往復する。夏道である吉田口登山道から登ることにする。小御岳流しからも登れるらしいが難しいらしく、私のような初心者もいるので夏道をとった。私は富士山には夏に一度だけ登ったことがあるが、そのときはすっかりばててしまった思い出がある。今回、冬なので条件はさらに悪く、果たして登れるかどうか全く自信がなかった。とにかく着いていけるところまでいってダメならそのとき考えようと思った。
12/3 吉田口登山道六合目。天気はよい。 |
12/3 吉田口登山道六合目。頂上に焦点合わせて撮影。 |
林道をしばらくたどり、途中から佐藤小屋の道と分かれて六合目へ。コンクリートの道にところどころ氷になった雪がこびりついていて滑りそうで怖い。六合目はまだほとんど雪がない。六合目と七合目の間、まだ雪の少ないところで一本とる。七合目に入ると周囲は雪に覆われ、急な斜面も出てくるので七合目トモエ館の前でアイゼンを履く。アイゼンを履くときにKさんから「座らずにアイゼンをつけられるようにしておくといいよ」と言われたので座らずにアイゼンを履いてみる。履きにくいがなんとか履くことができた。
12/3 七合目トモエ館の前でアイゼンを履く。 |
12/3 七合目トモエ館から下界の眺め。 |
次の一本で八合目太子館まで。七合目まで来ると急な斜面を登るが、傾斜の緩い一角で学生らしきパーティーが滑落停止の練習をしていた。足を雪面に蹴り込むようKさんから指示され、蹴り込みに疲れてくる。やや遅れて八合目太子館に着いた。Yさんは何度か立ち止まって10分ほど遅れてきた。何でもアイゼンの調子が悪く、すぐ外れてしまうそうだ。Yさんは始めから今日下山する予定だったこともあり、ここでひとり引き返すことになった。
12/3 八合目太子館にて集合写真。左からKさん、Yさん、Sさん、Kさん。 |
12/3 登山道の斜面。 |
12/3 本八合にて一本。 |
12/3 本八合から頂上へ。 |
さらに1時間歩いて本八合。このあたりになると頭も高山病気味で記憶が少ない。ただ急な斜面をひたすら登っていくのでつらかった。また風が寒かった。本八合で休んでいても手袋に慣れず、お茶や行動食の受け取りに難儀した。天気はよく、濃い青の空と白い山頂しか見えなかった。そこにポツリポツリと他のパーティーの人たちが見えた。みなペースもだいぶ遅くなり、山頂が見えていても遠く感じたが、やがて九合目の鳥居。雪をかぶってすっかり白くなっていた。途中コンテで歩いているパーティーを2つほど追い抜く。そして黙々とゆっくり歩いて山頂の浅間神社奥宮。
12/3 頂上の浅間神社奥宮。 |
12/3 「富士山頂上浅間大社奥宮」の石柱前で記念撮影。 |
正確に言えばお鉢を半周した剣が峯が富士山の最高点なのでそこが山頂なのだが、とてもそんな気力もなく、他のパーティーもここまでで下っていた。登ってきた北側は雲海に覆われており、雲海から顔を出しているものは何もない。まるで飛行機の窓からの風景のようだ。少し休んで浅間神社の標柱で記念撮影をする。手袋ではなかなかシャッターが押せず、撮影にも時間がかかる。15分ほど休んで来た道を戻る。
下りにかかると天気は悪くなった。ガスにまかれ風に吹かれ、カッパの裾や目出帽に霜のように雪がついた。メガネもくもり、前方がよく見えない。私の下りはみんなより遅く、Kさんに後ろに着いてもらって無事乗り切った。この下りが一番つらかった。八合目で一本とる。振り返ると日は陰り、山頂には雲がかかっていた。いいタイミングで下ってきたようだ。ここで水にする雪を袋に詰め込んだ。
あとはゆっくり急がずKさんに付き添われながら下り、六合目と七合目の間でアイゼンを外した。無事テント場に着く頃には天気はくもりになっていた。この日はYさんも抜けて広いジャンボエスパースに4人で寝た。酒の席では八合目あたりからメンバー全員がつらいと思っていたことを告白し、誰かが引き返そうと言い出さないか待っていたことが分かった。それともみんな実は元気でつらいなんて言っていたのは酒から出た冗談だったのだろうか。
3日目 |
2006年12月4日(月) 晴れのち曇り |
スバルライン終点上…小御岳流し2600m付近雪上訓練…スバルライン終点上…五合目佐藤小屋…馬返し=葭池温泉(解散)
スバルライン終点上 | 4:00起床 |
6:40 | |
2700m付近雪上訓練 | 7:45 |
10:25 | |
スバルライン終点上 | 10:15 |
11:35 | |
五合目佐藤小屋 | 11:55 |
馬返し | 13:00 |
この日は10時頃まで小御岳流しで雪上訓練、あとはテントを回収して馬返しに下山。4時起床。林の中でテントを張っているので風はないが、林の上の方で風の音がしていた。Sさんトップで出発。Sさんは昨日疲れたと言っていたがそれを感じさせない頑張りでどんどん登っていき、気がつけば雪渓に挟まれたザレの急斜面にいた。あまりに急なのでアイゼンは履けず、傾斜が緩くなるところまで登らざるを得なくなり、かなり登ってからアイゼンを履いた。
この日の練習内容はアイゼンをはいた状態での歩行、滑落停止、スタンディングアックスビレイ、スノーボラードを用いたビレイである。スタンディングアックスビレイの練習のときに、Sさんが肩がらみの右左を誤ってしまい、Kさんが試しに落ちた際、テンションを支えられず落ちていった。それを見て私はかなりビビってしまった。滑落停止はやはりうまく止められなかった。これは雪山の不安要素として持ち帰ることになった。
12/4 小御岳流しの練習場へ向かう。 |
12/4 練習中一休み。 |
スノーボラードとは雪を直径1mほどの円柱形に切ったものである。これにザイルをかけて支点とするものである。見た目はかなり不安定そうなのだが、一応ザイルを引っ張っても抜けたりスノーボラードが壊れることはなかった。それでもKさんは実践で使ったことはないといっていた。
雪面の下降では私はアイゼンを斜面と平行に置くためにがに股で歩いていたが、そんなに股を広げなくてよいらしい。これも苦手だ。つま先に体重がかかるので今回の山行で両足とも親指の爪が死んでしまった。たぶんうまく歩く方法があると思うのだが。
天気はよく南アルプスがよく見えた。甲斐駒、仙丈ヶ岳、北岳が雪の尾根の向こう側によく見えた。それらを堪能してテントに戻った。
12/4 雪面の向こうに南アルプス。 |
12/4 練習場の斜面。 |
テントに戻る際は東側に寄り過ぎ、だいぶトラバースしなければならなかった。テントを回収し、馬返しへ下山。登りでは馬返しから佐藤小屋まで2時間40分かけたが、下りでは1時間ほどで下れた。登りのつらさに比べてずいぶん早かった。Kさんが遅れてきたが、クリスマスリースをつくるために樅の木の枝を集めてきたためであった。
帰りはKさんの車とSさんの車に分乗し、ひなびた葭池温泉に寄った。富士急行の駅にもなっており、交通の便はよいが月曜日ということもあって男湯には他に人はいなかった。昼は500円、夜は700円らしい。葭池温泉を出て河口湖インターチェンジに向かう途中、富士山を正面に構える直線道路があり、その美しさに見とれた。行きは夜だったこともあり、富士山を眺めたのは下山した後であった。私はKさんの車に乗って調布駅で解散した。
はじめての雪山だったが富士山に登れてよかったのと、登ったときつらかったのと、練習のとき怖かったのとでいろいろ体験した。富士山にはけっこう人が登っていたのには驚いた。年内で確実に雪を踏めるところなので人気なのだろう。
雪の上の歩き方と滑落停止はまだまだ修行が必要と感じた。
(2006年12月7日〜14日記す)