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2005年夏 - 北アルプス・槍ヶ岳北鎌尾根[3/4]



2005年9月10日(土)〜12日(月)
場所
長野県大町市・松本市(旧安曇村)/北アルプス
ルート
9月9日
新宿23:54(5番線)=(快速ムーンライト信州81号)=車内泊
9月10日
信濃大町=(taxi)=高瀬ダム…湯俣山荘…千天出合…北鎌沢出合(泊)
9月11日
北鎌沢出合…北鎌尾根…槍ヶ岳…槍岳山荘(泊)
9月12日
槍岳山荘…槍沢ロッジ…横尾…上高地=新島々=松本=新宿(解散)
参加者
中山(M2), 栗山(B1), 辛島(B1), 菊地(B1)
参考文献

北アルプス・槍ヶ岳北鎌尾根周辺の地図

北アルプス・槍ヶ岳北鎌尾根の地図

2日目

2005年9月11日

北鎌沢出合…北鎌尾根…槍ヶ岳…槍岳山荘(泊)

2日目コースタイム
北鎌沢出合3:00起床
4:28
北鎌沢二俣4:40
4:46
北鎌沢のコル6:45
7:10
天狗の腰掛
2749m峰
8:09
8:32
北鎌独標先10:16
10:35
2890m付近12:00ごろ
大槍基部13:55
14:05
槍ヶ岳16:00
16:05
槍岳山荘16:33
16:43
槍岳山荘
テント場
16:47
20:00就寝

 北鎌独標から大槍へ。「アルペンガイド15 上高地・槍・穂高」には独標から大槍下の北鎌平まで2時間、そこから山頂まで1時間とあり、このまま順調に山頂につくかと思えた。しかし、実際には天候の悪化、ルート判断、菊地の疲労のためかなりの時間を要した。

 しばらく鎌尾根を登ったり下ったりしながら歩く。遠くから見ると道は全くないように見えるが、近付いてみるとだいたい踏み跡がついており迷うことは少ない。途中で先行する2人パーティーも2回ほど見えたのでルートの参考にしようとしたが、見えていた場所と歩いている場所が一致しているかどうかよく分からないので結局参考にならなかった。

 細かいところは覚えていないが、苦戦の端緒となったところはよく覚えている。稜線に出てから1時間ほど歩き、先行パーティーも見えなくなったころ、千丈沢側がカール状に崩れたところに出た。思い出せる地形と手元にある地形図とをつき合わせると2890m付近と考えられる。稜線に沿って歩いていくと天上沢側に10mほど下り、ルンゼを10mほど登り返すようになっている。ルンゼにはロープが垂れ下がっており、少なくとも人の歩いた道であるが、稜線に出た後も不明確なのでトップの栗山を先に行かせる。稜線に出た後、千丈沢に下るが急な上ガレていて危ないそうなので、他の1年を引き返させて別のルートから行く。千丈沢側の斜面をリッジのカール側に沿って下る。途中ザレていて危ないが、下まで着くと踏み跡があり、カールを横断するように通過できた。

北アルプス・槍ヶ岳北鎌尾根2890m付近の図

 その直後に稜線上のコルにはい上がり、今度は天上沢側を巻く。栗山を先に行かせるがやはりザレていて手こずっているようだ。狭いコルで辛島としばらく待つ。他のルートを探す。直登はできそうだが、戻ってこられないかもしれないので取り付かない。千丈沢側は危なっかしいので5mほどでやめた。辛島と待っていると後ろに人影が現れた。人影はだんだん増えてすぐに追い付いてきた。私たちとは異なったルートでカールのトラバースを途中で切り上げて稜線沿いにやってきた。下りが難しそうだが、軽装なのですぐ我々の待つコルにやってきた。

残置ロープ
9/11 稜線に出てから1時間ほどで天上沢側少し下って登り返すところ(写真1)。この後栗山のみ千丈沢側を下る。他はいったん戻って千丈沢側に下りトラバース。
天上沢側トラバース
9/11 5人パーティーに抜かれたトラバース(写真2)。天上沢側を巻く。巻いた先ハイマツの中の踏み跡を登って稜線へ戻る。直登した5人パーティーはとっくにいなくなっていた。

 やってきた5人パーティーは北鎌沢出合で泊まっていたパーティーとは別で大天井ヒュッテからやってきたらしい。時刻は正午頃だったので7時間ほどで追い付いたことになる。軽装とはいえ速い。そして5人パーティーはコルから私のちゅうちょしていたルートを直登していった。荷物の重さが明暗を分けたと感じた。

 天上沢側のトラバース道はザレていて危なっかしい。途中で菊地が手に切り傷を負っていた。トラバースを終えてから天上沢側に伸びるリッジに沿ってハイマツの中の踏み跡を登っていく。稜線に着いたところ、すでに5人パーティーの姿はなかった。

 そのあとはしばらく迷わずに千丈沢側を巻きながら登っていく。それでも一つ一つの岩峰の通過に時間をくっていた。やがて後ろに新たに5人パーティーが見えた。やがて雨が降り出し、ガスに巻かれ視界がなくなってくる。ペースはさらに落ち、しかもどこを歩いているのか分からなくなる。菊地がだんだん遅れるようになり、歩いては止まり、止まっては歩くようになる。私も雨風に吹かれ体温が下がっているのが分かる。途中であまりの寒さにジャージの上を着た。その後トラバースし、しばらく稜線に向かって直登したあたりで一本とった。

 千丈沢側にわずかにテントを張った後があるところで、大槍の基部だと思う。ガスの中わずかな時間で見えた西鎌尾根や小槍の大きさ、そのあと平坦地がなかったことから考えてかなり大槍に近いところである。そこで後続の5人パーティーに追い付かれる。2890m付近で直登して抜いて行ったパーティーとは別のパーティーである。時刻は14時であるが、このペースだと大槍までまだまだかかりそうだ。5人パーティーの中の1人のおばちゃんは前に北鎌尾根を登ったことがあるらしく、北鎌平はまだだと言っていた。現在地がつかめないのが苦しい。

急な斜面
9/11 急な斜面を登っている途中。北鎌平よりは手前ではないかと思う。
穂先に登る
9/11 穂先に登っている途中。ガスっているし、変な苔みたいなのが岩にくっついているので。よく覚えていない。

 出発する。しかし、菊地のペースは依然として上がらず、歩いている時間よりも止まっている時間の方が長いくらいだった。稜線歩きになるところで5人パーティーに抜いてもらう。栗山と辛島には見える範囲で先行してもらう。やはり大槍の登りにとりかかっているようで踏み跡は少なく、岩を登っていく。それでも栗山と辛島は道を見つけてくる。菊地が「今日、北鎌平で泊まれませんかね」と聞くが、まだ動けるのでビバークせずに日暮れまでに頂上に着くつもりだと答えた。

 途中で栗山と辛島の提案で菊地の荷物を分担することにする。リッジ上でスペースはあまりないが、菊地にザックを降ろさせ、主だった重い荷物を栗山と辛島で分けた。その間、菊地にはカッパの下にジャージの上を着させる。そこから1段登ったあたりで天上沢側に草の生えた少し平坦なところがあり、辛島があそこにテントが張れないかと提案する。しかし、行ってみると足元は30cmくらいの岩の積み重なりででこぼこなのでとてもV6は張れない。仮にビバークしたとしても濡れたものを増やすばかり、狭くて体力を失うばかりなので頂上まで行くことにする。日暮れまでに頂上に着けば例え真っ暗でも肩の小屋までは下れると思ったからだ。このときは私も雨風に体温を奪われ、けっこう疲れていた。菊地が停止している間は遭難しているような気分であった。

 そのあともカタツムリのようなペースで登っていくと意外なことに5人パーティーに追い付いた。ザイルを出していて時間をくっているようだ。しばらく下で待つ。途中の岩が滑るとか。ザイルしか持ってきていないので少し不安になる。待っているとカンカンカラーンと乾いた岩の音がした。声を聞いているとATCを落としたようだった。ガスの中でどこに落ちていったかは見えなかった。

 やがて最後のおばちゃんが登りきったので栗山に登らせる。意外と簡単に登ってしまったようだ。続いて辛島にも登らせるがやはりすぐ登ってしまった。菊地の後、最後に私自身が登るとやっぱり難しくはなかった。ビビり損。そのあと5人パーティーは右にぶら下がったシュリンゲに導かれ、ザイルを出して登っていたが、待っている場所が狭いので左から栗山にいけるかどうか空身で偵察させる。行けそうらしい。辛島をザックを背負わせたまま行かせるが、途中で止まってしまって動かない。改めて栗山がザックを背負って行くと岩の裏側に行って見えなくなってしまった。その後を辛島が追う。どうやら行けるようなので5人ルートとは別の左からのルートを行くことにした。ついて行ってみると天上沢側をトラバースして斜上する。トラバースした後、ガスの中、上方にいるはずの栗山に「そのあたりから山頂のほこらか何か見えるか」と聞くと「ここ山頂ッス」とかいうふざけた答えが返ってきた。しかし、登って行ってみるとほこらの右手、天上沢側に出た。5人パーティーはほこらの左手、千丈沢側に出ていた。

北アルプス・槍ヶ岳山頂北鎌尾根側の図

 意外な幕切れに終わってしまった。結局のところ、北鎌平も気付かず、最後の登りのチムニーにも気付かずに槍ヶ岳山頂に着いてしまった。しかも私の見立てではまだ50mほど登ると思っていた。山頂には私たちとまだ1人が登っている途中の5人パーティーだけで拍手で迎えられることはなかった。エヴァのラストシーンばりの拍手がほしかったのに。仕方ないのでここまで何とかがんばった菊地に拍手を送る。まわりはガスで景色はない。しかし、肩の小屋は見えた。5人パーティーに写真を撮ってもらい、すぐ下る。

槍ヶ岳山頂
9/11 槍ヶ岳山頂。左から栗山、辛島、菊地、中山。ザイル出していた5人パーティーに撮ってもらう。菊地が死にそう。
ほこらと辛島
9/11 ほこらと辛島。ほこらの左の人は5人パーティーの一部。矢印のあたりに出てきたと思う。

 人は登っていないので登り用のルートと下り用のルートを区別せずに下る。下っていると5人パーティーも追い付いてきたが、ほぼ同じペースらしく、後ろを待たせることはなかった。

 肩の小屋(槍岳山荘)に着いたのが16:30。12時間行程になってしまった。幕営の手続きをしていると5人パーティーは小屋泊まりのようだった。全員びしょ濡れなのでかなりうらやましかったが、私たちにはテント以外の選択肢はない。ここ槍岳山荘のテント場は狭いので混雑時はテントのサイズに応じてテント場を割りふられるのだが、この日は17時と遅かったにもかかわらず、テント場は混んでいなかったため自由に場所を選ぶことができた。

 場所選びで少し手間取るが、いい場所を見つけ、テントの中に落ち着く。もうこの時点で予定の大キレットは諦めていた。理由は

 の2点である。ガス缶は計画時のミスだが、菊地のペースについては明日も安全にテン場までたどり着けるかどうか責任が持てなかったので下山することにした。実際、菊地は体温が37℃と微熱であった。口には出さなかったが実は私も熱っぽかった。雨の中、私は寒かったので栗山と辛島に寒かったら何か着るようにとしつこく言ったが2人とも「寒くはないです」と言っていたので、私が寒かったのは風邪をひいていたためかもしれない。

 翌日は槍沢から上高地に下ることになった。私は槍沢は長く10時間くらいかかるから嫌だと主張したのだが、辛島が上高地は観光地としてよく聞くし行ってみたい、栗山は歩いたことがあるがそんなに長くなかったと思う、と主張したので上高地に下ることになった。菊地は疲れていたので意見を聞かなかった。

 テントの中で空焚きしてあたたまってから寝る。寝る直前にトイレに行ったがそのとき槍の穂先から下ってくるヘッドランプが2つ見えた。時刻は19:30。この時刻に北鎌尾根を越えて槍ヶ岳に着いたのか、夜の山頂を見るために往復したのかは分からない。槍ヶ岳に至る多くのルートの中で北鎌尾根だけは山頂を越えないと肩の小屋にたどりつけないので前者の可能性もあるのだが、どちらだったのだろうか。夜はバタバタと雨がテントにあたり、槍岳山荘のテント場にたどり着けてよかったと思った。

(2005年9月13日記す)


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