山ノ中ニ有リ>山行記録一覧>2004年山行一覧>上武国境・赤岩尾根[1/2]
赤岩尾根を知ったのは大学入ってしばらくだろう。地元の千葉市花見川図書館で山と渓谷社のハイグレードハイキングを読んでいたらその名前を見つけた。あの本に載っている山はマイナーなところが多いので両神山の近く八丁尾根の延長にある難しいところとだけ覚えていた。両神山に登ったことがなければ覚えていなかっただろう。
この山に登ることを意識したのは前年2003年のゴールデンウイークに三井君と一緒に荒井と鈴木を連れて両神山に登ったとき。ちょうど八丁峠で赤岩尾根から下山してくる単独行の人がいた。私はこの尾根をかなり難しい尾根ととらえていたので、そうそう赤岩尾根から来る人はいないと思っていた。せっかくなのでどういう予定で来たのか尋ねると赤岩峠で一泊してきたという。水は、と聞くと下から担ぎ上げたとか。時計を見て両神山まで足を伸ばすと言って足早に去っていった。今考えると、八丁峠に11時過ぎに着くというタイムからだいぶ遅く赤岩峠を出たのか意外と苦戦したのだろう。参考までに私は赤岩峠を5:38に出て、八丁峠すぐ上の志賀坂峠分岐到着タイムは8:20だった。
以来、赤岩尾根は私の脳内の行きたい山リストに載るようになった。場所と標高と他の山行との兼ね合い(私は夏には沢に行く)から秋に行くことにしていた。で、11月あたまに2000mほどの上州武尊山に行き、今度は1500mくらいだなと探したのが赤岩尾根だった。ちょうど私の好きな国境稜線にもあたり、意外と上武国境が行けそうなことにも気づいたため、ここに行くことにした。
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2004年11月27日 |
西武池袋=西武秩父駅…お花畑=秩父鉄道三峰口駅=出合バス停…小倉沢集落…赤岩峠…大ナゲシ往復…赤岩峠(泊)
出合バス停 | 11:13 |
標高800mあたり | 11:32 |
11:38 | |
小倉沢集落 | 12:28 |
12:47 | |
赤岩峠 | 13:43 |
14:00 | |
大ナゲシ | 14:24 |
14:45 | |
赤岩峠(幕営) | 15:15 |
18:30就寝 |
山に行くにしては割と遅く、6時ごろに起きて出て行った。中津川行きバスの本数の都合である。三峰口ではマットレスを持った集団が10人ほどおり、中津川行きのバスに乗って光岩というバス停で降りていった。どうやらクライマーの集団らしい。私と同じくらいの歳だったが、やはり時代はしんどい登山よりもスポーツ気分で楽しめるボルダリングなのだろうか、となんかしょんぼりとした。
秩父湖への道を分けると中津川沿いの道になる。中津川渓谷と呼ぶこともあるらしく狭い両岸せまった川だ。集落もほとんどなく、ただ道とトンネルの人工物が白く明るい。バスに乗っているのは私とおじさん2人。少ない集落のひとつ、中双里を過ぎてしばらくで出合バス停。何もなく、バス停の名前の通り右から神流川が中津川に合流している。おじさん2人はそのまま中津川へ向かっていった。
バスを降りてすぐ歩き出す。神流川は中津川に輪をかけて谷が深く、日陰のため寒い。いきなりトンネルがあったりして谷の険しさがわかる。昼なお暗い道とはいえ、歩いているとさすがに暑くなってきたので、ザックを下ろし上着を脱ぐ。上流側からトラックが来て過ぎていった。小倉沢集落の石灰鉱山関係のトラックだろう。歩いていくとバイクも通る。この先は行き止まりではなく、八丁トンネルを抜けて坂本にも出られるし、六助のコルから神流川にも出られるから山道を好むバイカーにはいいのだろう。途中、小さな沢があり水を汲めるところがあった。
人の気配のない川沿いの道を歩くこと約1時間。大黒の石灰鉱山に着いた。音がするところを見るとまだ稼動しているらしい。その先で六助のコルへの道を分け雁掛トンネルを抜ける。雁掛トンネルの中は手掘りそのままで古くからこのトンネルがあるようだった。今この記録を書きながら地図を見てみるとこの「雁掛」の名前は赤岩峠西隣の雁掛峠からとっていることがわかる。昔はこの雁掛峠もそこそこ往来もあったためにその名前を付けたのだろう。
雁掛トンネルを抜けると中津川・小倉沢の集落。ここも石灰の鉱山であり、採掘でできた集落である。ちょうど正午で鉱山からエーデルワイスの音楽が流れてくる。歩いていくと郵便局もあり捨てられた住宅もあり、よくこんなせまい谷にこれだけの人を確保したものだと感心した。現在はそのほとんどが廃屋である。それでもプラントから音がしていた。従業員はどうやらみな上流の小倉沢に住んでいるようだった。「歩行中は禁煙」という看板が多く、粉塵爆発を予防しているのだろうと思った。
11/27 出合バス停から1時間。赤岩尾根が見えた。起点となる小倉沢集落は石灰の鉱山で成り立っているようだ。ちなみに正午になると、鉱山からエーデルワイスの音楽が流れてくる。 |
11/27 小倉沢集落の登山口から赤岩尾根西端にあたる赤岩峠を眺める。この沢に水はない。小倉沢集落の水は西隣の沢からとっているようだ。 |
小倉沢集落を抜ける。人がいるらしく車があったり無断駐車禁止という看板があったりする。集落の奥に行くと赤岩峠への登山口がある。赤岩峠らしき鞍部が見える。ここでサンダルから登山靴に履き替える。と、上から下ってくるおじさんがいた。単独行で大ナゲシと赤岩岳を往復してきたらしい。ちょうど目の前の赤岩峠へいたる道もよくわからなかったこともあり、峠までの道や峠にツェルトが張れるかどうかなどを尋ねた。この土曜日はこのおじさんだけでなく、赤岩尾根を縦走している人たちもいるらしい。おじさんに礼を言って別れる。赤岩峠への道ははじめに小さな沢を渡るのだが、この沢には水は流れていない。休んだところには黒いパイプがあり、小倉沢集落へはどうやら西隣の沢から水を引いているらしい。
11/27 赤岩峠への道。人の目線にはヤブが多いが、足元はしっかりしている。はじめは枝道が多いが、どれもすぐ同じ道になる。赤テープなどは少ないが、道ははっきりしている。 |
11/27 小倉沢集落から1時間で赤岩峠に着いた。奥に見える大ナゲシを往復する。 |
歩き出す。はじめは沢の少し上に道がついている。人の目線には藪が多いが足元はしっかりしており迷わない。やがて道は折り返し西側の尾根へ巻いて登っていく。尾根に出るころには小倉沢を隔てて狩倉山が高い。尾根に出てまた赤岩峠へ向かう。下ってくる人がいた。尾根道は比較的なだらかだが、国境稜線が近づくと正面に岩壁が見え道はそれを避けるように沢に戻る。枯れ葉の積もった急なジグザグを登ると赤岩峠に着いた。
赤岩峠は小さな峠で、祠があり古さを感じる峠である。木の間から大ナゲシが見える。赤岩岳は近すぎてわからない。米を水に浸し、ザックをおいて空身で大ナゲシを往復する。
1493m峰へいきなり急な登り。岩もある。群馬側に道のようなものがあり、ちょっと迷うが稜線が正しかった。ひとしきり登って振り返ると赤岩岳が高い。岩登りの対象となる赤岩岳正面壁がのぞける。踏み跡ははっきりしており、迷う心配はない。上武国境上1493m峰の直前、踏み跡は国境稜線から北にそれて大ナゲシへ向かっている。これに従っていくと、急に下っていって登り返し。木が茂っているので大ナゲシの岩壁が見えないが少し緊張する。
11/27 大ナゲシの登り。一般ルートとしてはかなり上。ハングやチムニーなどの登攀要素はないが、張り出しぎみの岩をトラバースしたりするので、帰りはザイルがあると安心できる。 |
11/27 大ナゲシの岩壁を登れば大展望が待っている。赤岩岳と赤岩峠。 |
やがて大ナゲシの登り。赤ペンキが上のほうに付いている。とりあえず一段登ると今度は左手に色あせたスズランテープが見える。つかまるべき岩壁はややハング気味、足場は少し傾いているとあってこのトラバースは緊張した。それを抜けると大ナゲシ下段は終わり。さらに三角点峰に踏み跡をたどるとまた岩が出てくる。今度はゆるい凹角の壁だが傾斜が弱く、簡単に登れた。その先稜線になっても手がかりは多く、三角点のある大ナゲシ山頂にたどり着けた。
11/27 上の写真の左に連なる赤岩尾根の写真。赤岩尾根北側はさほど露岩がない。 |
11/27 上の写真の左に連なる上武国境稜線の山々。明日行く、諏訪山から二子山の稜線を望む。それより先は行ったことないので、山と名前の対応が間違っているかもしれない。 |
大ナゲシは北面に木があり北側は見えないものの、南側は最高の展望である。手前の国境稜線は赤岩尾根から二子山、さらに父不見山から城峰山まで見える。西側に目を向ければ所ノ沢の向こうに天丸山をはじめとした岩峰が、その先には三国山まで続く稜線があった。真南には南天山、その先には雲取山から甲武信ヶ岳まで連なる奥秩父の山々があった。絶景である。一人で絶景を楽しんでいると両神山の八丁尾根の方から女の人の叫び声が2回連続して聞こえ、ビビった。滑落したのだろうか。
さて山頂でゆっくり写真を撮って不安になってくる。大ナゲシの下りである。ビビりながら登った大ナゲシを下らなければならない。上段はすんなり下れたが問題は下段のトラバース。しかし案ずるより産むが安し。下ってみれば何とかなった。下ってみてまた上を見上げると、初めに登った人はよくこんなところを登ろうと思ったものだと思う。
11/27 カメラを西に向けると三国山へいたる群馬・埼玉国境稜線が望める。道は天丸山周辺を除いてほとんどない。詳しくは上武国境・三国山〜赤岩峠の記録参照。 |
11/27 赤岩峠に戻り、群馬側にツェルトを張った。 |
赤岩峠まで戻るが途中1493m峰に登ってみる。六助のコル方面に道が続いていることを期待したが道はなかった。ただ、ヤブではないためそんなに歩きにくいということはなさそうだった。なお、半年後に三国山から赤岩峠まで上武国境を縦走したのでルートの様子についてはその記録を参照されたい。
赤岩峠に戻ってツェルトを立てる。峠の真ん中がもっとも平らなのだが、群馬側から風が吹き抜けるため寒い。またツェルトを立てる際にひもを結びつける木が少ない。埼玉側はすぐジグザグの道になっているため張れない。しかたないので群馬側の一段下ったところにツェルトを張った。少し傾いており狭かった。テントなら峠のど真ん中にひと張りできるだろう。
気象図をとり終わったころまた叫び声が2回聞こえた。叫び声と思っていたが下の鉱山の機械音なのかもしれない。水は家で汲んでおいた水を用いる。飯を食い終わってから何を思ったかスプーンを暖め、舌でぺろっとなめたらやけどした。なんとなく暖かそうだと思ったからだが、何でやけどを考えなかったのかやけどしてから不思議に思ってしまった。11月も末。寒い寒いと思いながら就寝。