2003年春 - New Zealand旅行[37/37] - Abel Tasman Coast Trackの海について

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2003年春 - New Zealand旅行[37/37]

NZ Abel Tasman Coast Trackの自然について


 エイベルタズマン海岸トラックを歩いていて、トラックの自然のようすについて気付いたことを書いています。すべて大学の講義の「海岸・海洋工学」に基づいています。「テキストだけで100KBの文書をつくってやる」と思ってむりやり書いてみました。

なぜエイベルタズマン海岸トラックの海は透き通っているか

Onetahutiの浜

↑Onetahutiの浜

 エイベルタズマン海岸トラックの海は青くて美しいです。トラックを歩く人は海を見ながら歩くということを目的の一つにしていると思いますし、景観の美しさからTorrent BayやAwaroa Bayには別荘地があります。

 海が青く、透き通っているかどうかは植物プランクトンの量によります。植物プランクトンが多ければ多いほど、海水は濁るので、透き通った海は植物プランクトンの量が少ない海です。一般に緯度が高ければ高いほど、海水は濁ります。それは本州近海に透き通った海がなく、沖縄の海が透き通っていることを考えれば理解できるでしょう。

 ではなぜ、緯度によって海水の濁り方に違いがあるのでしょう。植物プランクトンが繁殖するための条件は日光と栄養塩です。植物プランクトンは日光を受けることによって光合成を行います。栄養塩とは窒素やリンのことで植物が育つために必要な物質です。栄養塩は海底に蓄積されています。この2つがそろうと植物プランクトンは繁茂します。

 緯度の低い海は気温が高いことにより、海水の表面のみ温められます。そうすると海水の表面は温かく、底層は冷たいという状況ができます。水温に温度差が生じると、密度に違いが生じ、躍層といってある境界ができます。この境界は上下方向の流れを抑えてしまうため、物質の移動が制限されます。

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↑緯度の低い海のようす

 緯度の低い海は、海底にある栄養塩が、日光の届く浅いところに流れてきません。したがって緯度の低い海は日光と栄養塩という植物プランクトンの繁茂するための条件をそろえず、植物プランクトンは繁殖しません。逆に緯度の高い海は表面と海底にあまり温度差が生じないために躍層ができず、海水がかき混ぜられ、日光と栄養塩がそろいます。なので緯度の高い海は濁っています。

 植物プランクトンの量は生態系の豊かさに影響を及ぼします。植物プランクトンは海における食物連鎖の底辺に位置するので、植物プランクトンが多ければ多いほど、魚などが多く住みます。実際、植物プランクトンの多いところと漁場は一致する傾向があります。なので、逆に植物プランクトンの少ない澄んだ海は「貧栄養の海」という呼び方もします。貧栄養の海では生き物が住んでいるのはEstuary循環が生じる河口や有孔虫の住むサンゴ礁などに限られます。

 最初に掲げたトピックについては正直答えられません。エイベルタズマン海岸トラックの緯度は日本で言うと青森くらいです。青森の海は澄んでいません。なぜだかはわたしは知りません。言い訳を書くと、必ずしも緯度が高いほど植物プランクトンが多いとは限りません。これは河川から栄養塩が流入することや大陸の形によるもの、風によるエクマン輸送など、多くの要因があるためです。

なぜ湾奥に砂浜ができるのか

Totaranuiの浜

↑Skinner Pointから見るTotaranuiの浜

 エイベルタズマン海岸トラックの海岸は岬と湾の繰り返しになっています。岬は切り立っており、湾は砂浜で埋まっています。湾奥に砂浜ができるのは、岬と岬に挟まれた湾がポケットビーチと呼ばれる安定した形になっているからです。

 波は崩れた後、流れを引き起こします。波の崩れる位置を結んだ線が海岸線と平行でないと、海岸線と同じ向きに流れを生じます。このとき、流れには砂を含み、砂が移動します。もし、浜が岬と岬に挟まれていれば、波の崩れる位置の線が海岸線に対して傾いていたとしても、砂の移動はどちらかの岬までで抑えられます。砂が移動していくと、やがて波の崩れる位置の線と海岸線が平行になり、砂の移動は起こらなくなります。このような浜をポケットビーチと言います。トラックで歩く湾は岬と湾の繰り返しになっているので、ポケットビーチが多く、湾には砂浜や干潟ができています。

 余談ですが、独立行政法人土木研究所(http://www.pwri.go.jp/)では、このポケットビーチを模した「ヘッドランド工法」があります。


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